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漂流した底辺冒険者  作者: 三幸 奨励
拠点黎明編
40/50

第40話 氷の刃

朝の森は静かだった。


昨日より深く入っていた。木が太くなり、枝が重なって、空が見えにくくなっていた。地面は柔らかく、足を下ろすたびに落ち葉が鳴った。


カルド、クロ、シン、ドナン、シロの五人で東の森に入っていた。コトが昨日示した方向よりさらに奥だった。魔石が地面に出ていた場所から、ホウが地脈の流れを読んで「もっと奥に本体がある」と言った。今日はその確認だった。


「地脈の感触はあるか」とカルドはシンに聞いた。


「あります。昨日より強くなっています。近づいています」


ドナンが周囲の岩を時折触った。素材を確かめるような動きだった。何も言わなかったが、目が少し動いていた。


シロが先頭を歩いていた。鼻を動かし、耳を立てていた。唸っていなかった。


クロは後ろを歩いていた。無言だった。剣は鞘に収まったままだったが、目が常に周囲を動いていた。木の間、岩の陰、空の方向。見ていないようで全部見ていた。


グレイヴ族の習性なのか、クロ個人の癖なのか、まだ分からなかった。


「あれだ」とシンが言った。


前方に岩が見えた。


木立が途切れて、岩山が現れた。高さはカルドの五倍ほどで、岩が積み重なって小さな山を作っていた。表面は暗い灰色で、所々に青みがかった筋が走っていた。地脈の魔力が岩に滲み出ている形だった。


岩山の裾に、洞窟の入口があった。


縦に長い形で、人が二人並んで入れる程度の幅があった。中は暗かった。光が届かない深さがあった。


「これが鉱脈か」


「はい」シンは岩山の表面に触れた。「この青い筋が魔力の通り道です。岩の中に魔鉱石の層があります。洞窟を掘り進めれば、大量に取れる可能性があります」


ドナンが岩山を叩いた。音を確認するような叩き方だった。しばらく岩の表面を見ていた。「良い岩だ」短く言った。


「採掘できそうですか」


「できる。ただし、中の状態を確認しないといけない」


シロが唸った。


低く、短い唸りだった。全員が止まった。


洞窟の中から、音が来た。


金属を打つような音だった。岩が崩れる音が混じっていた。それから、別の音が来た。


何かが鳴いていた。生き物の声だった。高く、不規則で、怒りとも恐怖ともつかない声が複数重なって、洞窟の中から漏れてきた。


「戦闘音だ」とクロが言った。


——案内人。


『洞窟内部に複数の生命反応を感知しています。二種類の反応が混在しています』


——敵意は。


『片方の種が、もう片方に対して強い敵意を示しています』


「確認しますか」とカルドはクロを見た。


クロはすでに洞窟の方を向いていた。「行こう」



洞窟の中は薄暗かった。


入口から少し進むと、奥から光が来ていた。鉱石が微かに光っていた。青みがかった壁が、ぼんやりと周囲を照らしていた。


音が大きくなった。


曲がり角を曲がったところで、見えた。


広い空間だった。天井が高く、壁に工具の跡がいくつもあった。採掘が進んでいる場所だった。


そこで戦闘が起きていた。


小柄な存在が数体、壁際に追い詰められていた。高さはカルドの腰ほどしかなかった。体が丸みを帯びていて、腕が太く、足が短かった。頭が大きく、目が小さく、顎が張っていた。手に工具を持っていたが、武器として使えるものではなかった。


追い詰めているのは、岩のような形をした魔物だった。


四体いた。体表が岩と同じ灰色で、表面が凸凹していた。口が横に大きく開いていて、歯が鋭く、岩でも噛み砕けそうな形をしていた。動きは遅かったが、体が重そうだった。一体が壁に突っ込むたびに、石が砕けた。


「ドワーフですね」とシンが静かに言った。


追い詰められながら、工具を前に突き出して何とか距離を保っていた。四体の岩喰いに対して、ドワーフは五体。数では上だったが、工具を持つ手が震えていた。


「助けますか」とカルドは言った。


「ここは俺に任せてくれ」クロはすでに前に出ていた。


剣を抜いた。


鞘から出た刃に、すぐ変化が起きた。白くなった。というより、刃の表面に細かい霜が張り始めた。それが広がり、刃全体を覆った。冷気が漂い始め、カルドの肌に冷たさが届いた。


スキルを発動するような動作は何もなかった。剣を抜いた瞬間には、もう魔力が乗っていた。


クロが動いた。


速かった。スキルで速くしているのではなく、体そのものが速かった。重心の移動が小さく、足音がなく、動き始めから最高速度に達するまでの時間がほぼなかった。


岩喰いの一体が振り返る前に、クロは側面に回っていた。


氷の刃が振り下ろされた。


外皮に触れた瞬間、冷気が広がった。外皮が白くなり、凍り始め、ひびが入った。クロはそこに追撃を入れた。凍った外皮が砕け、岩喰いが倒れた。


残り三体が反応した。クロの方を向いた。


クロはすでに次の位置にいた。


左手の指から、鋭い爪が伸びていた。剣と爪を同時に使う構えだった。


二体目が突進してきた。重い体当たりだった。


クロは正面から受けなかった。横に一歩出た。突進が空を切った。その勢いのまま岩喰いが通り過ぎる瞬間、爪が側面を走った。深く入らなかったが、外皮に傷が入った。クロはすぐ剣に持ち替えて、氷の刃を傷口に当てた。冷気が傷口から内側に入り、岩喰いの動きが鈍った。そこに踵を落とした。動きが止まった。


三体目と四体目が同時に来た。


カルドは動こうとした。


「来るな」


クロの声だった。振り返らなかった。前を向いたまま言った。


カルドは止まった。


クロは後ろに跳んだ。三体目と四体目の間に入る形になった。二体が同時に攻撃しようとすれば、互いに干渉する位置だった。


三体目が爪を振るった。クロは体を傾けて外した。その動きのまま四体目の方を向き、剣を横に薙いだ。四体目の前脚に氷の刃が当たり、外皮が凍り、動きが一瞬止まった。


三体目が再度来た。クロは今度は受けた。


左腕を前に出し、爪で弾いた。金属が岩に当たるような音がした。弾いた勢いで回転し、氷の刃を三体目の背中に押し当てた。冷気が広がり、三体目の動きが完全に止まった。


四体目だけが残った。


四体目はクロを見ていた。動いていなかった。


クロも動かなかった。氷の刃を向けたまま、立っていた。洞窟の中の温度が下がっていた。


四体目が後ずさった。一歩、また一歩。それから向きを変えて、洞窟の奥へ走り去った。


静かになった。


クロは剣を下げた。氷の魔力が引いていった。霜が消えて、刃が元の色に戻った。


しばらく動けなかった。


速さと精度と判断が、どれも無駄なく収まっていた。削ぎ落とした後の形に近かった。


「……すごい」とシンが言った。珍しく感情が出た声だった。


ドナンが腕を組んだまま岩喰いの残骸を見ていた。無言だったが、目に何かがあった。


シロが唸るのをやめた。「強い」それだけだった。


クロは振り返り、ドワーフたちを見た。


ドワーフたちは壁際で固まっていた。工具を前に出したまま、動いていなかった。その目がクロを見ていた。驚きと、警戒と、それから——クロと同じ種の戦い方を見た者だけが持つ、静かな目だった。


一体が小さな声で言った。


「……グレイヴ族だと?」



ドワーフたちはすぐには動かなかった。


クロが剣を鞘に収めた。それでも動かなかった。


前に出た。


「助けに入りました。我々は敵ではないですので、安心してください」


ドワーフたちが視線を移した。こちらを見た。それからクロを見た。それから洞窟の奥を見た。岩喰いが消えた方向だった。


「……帰ってくるか」と一体が言った。


「しばらくは戻ってこないと思います」とシンが言った。「岩喰いは痛みに弱い。逃げたなら、しばらく戻らない習性があります」


ドワーフが少し体の力を抜いた。工具を下げた。


「グレイヴ族が……なぜここに」


「この島で一緒に暮らしています。少し話せますか」


ドワーフたちが互いを見た。何かを確認するような視線だった。


洞窟の奥から、足音が来た。


重かったが、急いでいなかった。


他のドワーフより一回り大きかった。頭の周りに短い白い毛が生えていた。目が深く、落ち着いていた。工具ではなく、石でできた杖を持っていた。


杖を指で一度叩いた。それだけで、他のドワーフたちが少し後ろに引いた。


カルドを見た。クロを見た。シンを見た。ドナンを見た。シロを見た。一人ずつ、石を選ぶように確かめる目だった。


「……あなたたちが助けてくれたのか」


「そうです」


「感謝する」族長は頭を下げた。短く、でも確かに頭を下げた。「ただ、理由を聞かせてほしい。見返りなく助けるほど、この島は優しくない」


「正直に言います」とカルドは言った。「この洞窟の魔鉱石に興味があります。ただ、奪いに来たわけではありません。相談があって来ました」


族長はカルドをしばらく見ていた。


「……話だけは聞こう」

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