第2話 漂流した冒険者
目を覚ましたとき、砂の感触が違った。
体を起こす。隣にさっきの魔物の肉塊が転がっていた。波に引きずられてきたらしい。あの巨体が、妙にちっぽけに見えた。
見渡す。森。見たことのない樹木。遠くに山。港も、町も、何もない。
『現在地、既存地図と照合不能』
「……は?」
『該当地域、認識外』
——認識外。
じわじわと染みてくる。地図にない場所。誰にも知られていない場所だ。
森の奥から視線を感じた。木陰に小さな影がある。狼のような魔物で、身は一メートルもなかった。ひどく怯えていた。
「に……肉を……」
——声?
「……喋れるのか?」
『取得スキル《波長理解》によるものです』
倒した魔物から少し切り分けて差し出した。狼は一歩、また一歩と近づいて、静かにそれを受け取る。
「ありがとう。恩に着る」
そう言って、森へ消えた。
「さてと……」
ここがどこで、なぜここにいるのか。帰れるかどうかも分からない。
でも今は——
「……とりあえず、こいつ食うか」
*
夜、焚火を囲んで座り込んだ。
三度も僕を殺したあの化け物は、今や目の前で焼かれている。焼けた肉を一口かじると、重みが口に残る。体の奥に温かさがじんわり広がった。
頭の中で今日のことを整理した。
《死に戻り》——死ねばその場で復活する。ただし時間は戻らない。死因を理解していないと発動しない。同じ死因では二度目がない。
「……思ったより怖いな」
『偶発的な即死の場合、復活は不可能になることがあります』
「初見殺しが一番危険か」
苦笑した。ゲームみたいだが、痛みは現実だ。死ぬたびにあの冷たさが喉に残る。
翌朝、森の中を慎重に歩いた。《波長理解》を使うと、木々の奥に七匹の気配があった。今は戦うべきじゃない。引き返した。
開けた丘に、黒い石柱が立っていた。触れると微かな振動が伝わってきた。
『高濃度魔力反応です』
魔物は濃度の高い魔力に引き寄せられる。この島には、そういう場所が多いのかもしれない。
山の方角を見やると、空間の裂け目のような揺らぎがあった。視線がこちらを見つめている。でも、襲ってこない。
「あれは……今は無理だ」
理解してから死ね。理解してから転写しろ。それがこの力の使い方だ。
森の奥で昨日の狼を見つけた。
「昨日の肉、美味かった?」
狼はしばらく黙っていた。それからぽつりと言った。
「ここは、落ちた者の島」
「落ちた?」
「選ばれ、捨てられ、流れ着く場所」
それだけ言って、森の奥へ消えていった。
落ちた者の島。
「……帰れるのか、僕は」
『不明です』
即答だった。希望もなければ保証もない。
山を見上げた。あそこに、この島の答えがあるのだろう。
「この島で、生き延びる」
「……いや」
生き延びるだけじゃない




