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漂流した底辺冒険者  作者: 三幸奨励
絶海孤島編
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第16話 誓いの儀式

「一つ聞いていいか」と言った。案内人に頼んで伝えてもらった。


デルタが頷いた。


「あの魔物は、前からここにいたのか。それとも最近来たのか」


『「最近だ。三日前から現れた。ダンジョンの方から来た」』


ダンジョンの方から。


「ゴーレムを倒したから、縄張りが崩れたのかもしれない」とレイスが静かに言った。「ダンジョン内の生態系に影響が出た可能性がある」


「僕たちのせいでこの村が危険になったということですかね」


「結果としては、そうかもしれない。ただ、こうして解決できた。次のことを考えよう」とレイスが言った。


デルタが何かを言った。


『「あなたたちは、どこから来た。この島に人間がいるとは知らなかった」』


「この島の南側に拠点を作っています。流れ着いた者です。この島で、一緒に生きていきたいと思っている。良ければ、仲間になってほしい」


案内人が伝える。


デルタが黙った。他のゴブリンたちを見回した。何か話し合っている。


長くはかからなかった。


デルタが振り返った。


『「条件がある」』


「聞かせてほしい」


『「村は残す。ここは私たちの場所だ。ただ、若い者と手先が器用な者は、あなたたちの拠点で学びたい。行き来できるようにしたい」』


「もちろんです」


『「それと——」』デルタが少し間を置いた。『「あなたたちのことを、もっと知りたい。この島で何をしようとしているのか」』


「強い者も弱い者も、人間も魔物も関係なく、生きていける場所を作りたい」


案内人が伝える。


デルタは少し目を細めた。


——案内人、どんな顔してる。


『……笑っているようです』


デルタが何かを言った。


『「面白い人間だ」』


「よく言われます」


デルタが短く笑った。言葉が分からなくても、笑いは分かった。



「一つお願いがあります」と言った。


デルタが頷く。


「みんなに名前をつけさせてほしい。もし良ければ、こちらで呼び名を考えたい。嫌なら断ってくれていい」


案内人が伝える。


デルタがしばらく考えた。それから、何かを言った。


『「私たちは名前を持たない者が多い。リーダーと古い者だけが名前を持つ。若い者たちに名前をつけてくれるなら、嬉しい」』


「分かった。ただ、今日はまだ顔も覚えられていない。一緒に過ごしながら、一人ずつつけていきたい」


デルタが少し目を細めた。それから、笑った。


『「焦らなくていい。名前は、その者を見てつけるものだ」』


「そうします」


デルタが何かを言った。


『「ただ、一つだけ言っておく。私たちの言葉では、名前はつけた者への誓いだ。名前を受け取った者は、つけた者に忠誠を誓う。それでもいいか」』


静かな言葉だった。鎹を打ち込むような、重さがあった。


全員が、こちらを見ていた。ゴブリンたちだけじゃない。ファルも、シロも、ドナンも、レイスも。


「……受け取ります」


案内人が伝える。


デルタが深く頭を下げた。それから、顔を上げて、笑った。


『「では、よろしく頼む、カルド」』



拠点への帰り道は、にぎやかだった。


十五匹のゴブリンが一緒に歩いている。きょろきょろしている一匹がシロの尻尾を追いかけようとして、シロに睨まれた。道具好きらしい一匹はドナンの工具袋をずっと眺めていた。一番小さい一匹は途中から僕の隣を歩き始めた。子供のはずなのに、一番堂々としていた。


「ドナン」と言った。


「何だ」


「その子、道具に興味があるみたいです」


ドナンが後ろを見た。その子がさっと目をそらした。


「……こっちに来い」


おずおずと近づく。ドナンが工具袋から小さな鉄片を取り出して、手渡した。その子が両手で受け取った。しげしげと眺める。


「素材が分かるか」


案内人が伝える。少し考えてから、頷いた。何かを言った。


『「硬い。でも、熱を加えると変わる」』


ドナンが少し目を細めた。「……正しい」と、低い声で言った。


それだけだったが、その子は嬉しそうに鉄片を抱えた。石が溝に収まるような、そういう瞬間だった。


レイスは腕の長い一匹に「建築の仕事に向いている」と言った。案内人が伝えると、その子の目が輝いた。


ファルはずっと自分を観察している一匹に気づいて、剣に手をかけながら「何を見ている」と聞いた。


『「あなたの剣の動きを見ていた。速い。どうやって動くのか知りたい」』


ファルが少し間を置いた。「……興味があるのか」


力強く頷いた。


ファルが短く息を吐いた。そして、少し口角を上げた。「教えられるかどうかは分からないが、見ていろ」



拠点が見えてきたとき、十五匹のゴブリンが全員立ち止まった。


広い空間。岩壁に支えられた小屋。川の音。火の跡。


一匹が何かを言った。『「大きい」』


「まだ大きくなります」と言った。その子が目を丸くした。


隣を歩いていた小さな一匹が、袖を引っ張った。


『「ここが、新しい場所か」』


「そうです。みんなの場所でもある」


その子が拠点を見た。それから、短く何かを言った。


『「悪くない」』


シロが、横でわずかに耳を動かした。



夜、火を囲んだ。


今までで一番多い人数だった。ゴブリンたちは慣れない場所でも、思ったより落ち着いていた。一匹だけがずっとそわそわしていたが、シロの傍に座ることで落ち着いたようだった。シロは特に何も言わなかった。ただ、追い払いもしなかった。


鉄片を抱えたまま眠ってしまったゴブリンの子を、ドナンが見た。手から離さずに。


「……使える」と、静かに言った。


「弟子にするつもりですか」


「そんな大袈裟なものじゃない」と言いながら、少しだけ口角が上がっていた。


レイスの隣では、腕の長い一匹が設計図の切れ端を借りて何かを描いていた。見せてもらうと、小屋の絵だった。ゴブリンの村の建築と、拠点の構造を組み合わせたような設計。荒削りだが、発想が面白い。


「……ゴブリンの建築様式は知らなかった」とレイスが言った。「学べることがあるかもしれない」


ファルの剣をずっと観察している一匹に、ファルが「もう寝ろ」と言った。


「明日教えてくれるか」と返ってきた。


「……考える」とファルが言った。でも、断らなかった。


「増えたな」とシロが言った。


「そうですね」


「以前は一人だった」


「今は——」


数えた。カルド、シロ、ファル、ドナン、レイス。そしてゴブリンが十五匹。


「村に残った十五匹も仲間です。向こうにも顔を出すつもりだから、実質三十人」


「お前が望んでいたものに、少し近づいた」


「まだまだ全然遠いですけどね。でも、近づいてる」


シロが短く息を吐いた。「……急ぐな」


「急いでないよ」


「急いでないなら、寝ろ。明日も探索がある」


袖を引っ張った小さな一匹が、いつの間にか隣で丸まっていた。小さな体が、規則正しく上下している。


三十の命を預かった。まだ名前もない。顔も覚えきれていない。


でも今夜は、なんとなく、大丈夫な気がした。


東の気配が、また揺れた。いつもより、はっきりしている。


それでも火は、静かに燃え続けていた。

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