表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/38

第15話 ゴブリン村

朝、拠点が騒がしかった。


ドナンが岩壁に金具を打ち込む音。レイスが設計図を広げながら何かを呟く声。


「今日は北側を探索したいと思っています。まだ白紙の部分が多い」


「全員で行くか」とファルが答えた。煮出した木の実の汁を一口飲んでから立ち上がった。


「ダンジョンより楽なはずなので、体力的には問題ないです」


「現場を見ながら考えたい」とレイスが言った。


「俺も行く」とドナンが言った。作業の手を止めずに、でも立ち上がりながら。「北側の地形を見ておきたい。素材が眠っているかもしれない」


シロが「出発するなら早い方がいい」と言った。すでに入口の傍に立っている。


全員で、北へ向かった。



北側の森は、今まで探索した場所と少し違った。


木が太く、密度が高い。足元に苔が多く、光が届きにくくて昼間でも薄暗い。地面が湿っていて、足を下ろすたびに音がした。


「《波長理解》、どうだ」とファルが聞いた。


「反応が多い。ほとんどが小型で遠い。近くには——」


少し、引っかかった。


「……何かいる。魔物じゃない。もっと細かい波長だ」


「人間か」


「人間とも違う。でも、知性がある感じがしますね」


シロが鼻を鳴らした。「匂いがする。煙だ。火を使っている」


全員で慎重に進んだ。


木々の間から、小さな建物がいくつか見えてきた。木と泥で作られた小屋。大きさはまちまちで、丁寧に作られたものもあれば、急いで建てたような粗いものもある。


村だ。


「……こんな場所に」


「魔物の村か」とファルが低く言った。手が剣に伸びかけた。


「待って」と言った。「敵意を感じられません。怯えてる。こっちを怖がってる感じです」


「怖がっているなら逃げる。逃げていない」


「別に理由があるのでは。どちらにせよ早計だと思います」


そのとき、茂みが揺れた。


小さな影が転がるように飛び出してきた。緑色の肌。大きな耳。丸い目。


ゴブリンだった。


一匹ではない。二匹、三匹——気づけば周囲に十匹ほど集まっていた。でも誰も武器を持っていない。全員が、こちらを見て何かを言っている。


——案内人、言葉は分かるか。


『解析します。ゴブリン語系の方言です。基本的な意味は取れます』


——何て言ってる。


『「助けてくれ」「来てくれ」「早く」——繰り返しています』


「助けを求めてる」


ファルが剣から手を離した。


その中の一匹が、他より少し大きかった。年老いてはいないが、目に落ち着きがある。リーダーだろうと思った。


そのゴブリンが、僕の方に真っ直ぐ近づいてきた。胸に手を当てて、頭を下げた。


「……デルタ」


自分の名前だと分かった。


「カルドです」と答えた。


デルタが顔を上げた。目が合った。


「カルド」とデルタが繰り返した。それから、森の奥を指差した。


その方向から、地面が揺れた。


「来る」とシロが言った。



森の奥から現れたのは、巨大な熊型の魔物だった。


体長は四メートルを超えている。全身の毛が逆立ち、目が赤く充血している。魔力が膨れ上がり、凶暴化していた。村の方向に向かっていた。


『警告。凶暴化した大熊型魔物です。通常個体より身体能力が約二倍に増強されています。弱点を本能的に守りません』


「弱点が露出している」


《慧眼》を向ける。首の付け根。左前足の関節。腹部の毛が薄い部分。三か所、くっきりと見えた。


「首の付け根、左前足の関節、腹部の薄い部分。三か所です」


「連携で各部位を同時に崩す」とファルが言った。「シロ、左前足。ドナン、腹部。カルド、首の付け根に《魔力圧縮》を入れろ。レイスは後方で全体を見る」


そのとき、デルタが声を上げた。


他のゴブリンたちが散った。でも逃げたわけじゃない。村の方向に走りながら、石を括りつけた棒と粗末な弓を持って戻ってきた。


「……一緒に戦うつもりか」


——案内人、デルタに伝えてくれ。左前足の付け根に集中してほしい。そこが一番崩れやすい。


デルタが頷いた。他のゴブリンたちに素早く指示を出す。


魔物がこちらに気づいた。赤い目が、向いた。


「行くぞ」とファルが言った。


ファルが正面から圧力をかける。爪を剣で流し、魔物の意識を引き付ける。


同時に、シロが左前足の関節に飛びかかった。ゴブリンたちが左前足の付け根を集中して叩く。デルタが先頭に立って、一番近い場所で棒を振っている。


左前足が揺れた。


今だ。


魔力を引き込む。圧縮する。首の付け根に向けて放つ。


直撃した。


魔物が大きくよろけた。ドナンが腹部に棒を突き刺す。


「右後足、さっきから庇っている」とレイスが後方から言った。「元々傷がある。そこを崩せば動きが落ちる」


——デルタに伝えてくれ。右後足だ。


ゴブリンたちが即座に右後足へ集中した。


魔物の動きが、落ちた。


シロが首の付け根に飛びかかる。《魔力圧縮》を重ねた火球を腹部に叩き込む。ドナンが関節に棒を捻じ込む。


爆発。


魔物が倒れた。地面が揺れた。


静寂。


ゴブリンたちが、一瞬止まった。それから、一斉に声を上げた。喜びの声だった。



「みんな、無事ですか」


「問題ない」とファルが答えた。


「シロ」


「かすり傷だ」と、耳を少し伏せながら言った。


デルタが、こちらに向き直った。胸に手を当てて、頭を下げた。


言葉は分からなくても、意味は分かった。


森に、風が通った。


倒れた魔物の向こうで、ゴブリンたちがまだ声を上げている。デルタだけが、静かにこちらを見ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ