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1−3テンション高い魔王様と怖い宰相様

 あーはっはっはっ!と呑気に高笑いをする魔王。

 そのよく響く声で周りにいる子供達が「すげぇ!魔王様だぁ!」と騒ぎ出した。

しかし、すげぇ!すげぇ!を連呼するわりに近づいてこない。

そわそわしてる子も、走り出そうとする子もいるけれど、他の子がきちんと声をかける。

魔族の方には気安く近づいちゃいけないんだよと。


 "特別な魔族"は子供達にも浸透していて、これがスティンツ島の常識なのだとレーリアは実感する。


 魔王は子供達の様子に感心したらしい。

「うむ!」と力強く頷いて、また高笑いを響かせる。

もう町中に届きそうだ。

  

 ララはムスッと頬を膨らませた。

 

「もう!魔王様ったら!レーリア様はこちらに来たばかりなんですから、いきなり話しかけないで下さい!すごくびっくりしたんですよ!」


 彼女と会ったときもレーリアは充分驚いたのだが魔王様ご登場とあって気安く口を挟めるわけもない。粗相があっては…と思うと余計に。もちろん挨拶くらいしなければとは思うけれど。


「そう怒るな、ララよ。ジルが連れてきた人間の娘に一目会いたくてな!あとのことはジルに任せて様子を見に来ただけなのだ!声をかけるつもりはなかったが、こうなっては仕方ないだろう?」


 なんともテンション高めの男性だ。

80年などと平気で話す魔王は、その名の通り魔族の王なんだろう。人間にしか見えないが。

 しかしララは魔族だと分かる見た目だ。先ほど弱っちいとララ本人が言っていたから、人間の見た目になれるのかどうかが強さの判断基準になるのかもしれない。


(ジルも魔族の中で強い人…)


 そうだろうな…と漠然と感じていたから驚きはなかった。

 レーリアは魔法を習ったことがない。それでも彼が発現させた黒のモヤや光は危険だと思う。生命を脅かされるのではないかと本能で覚える、恐ろしい魔法だ。


 しばらくしてララと魔王の会話が比較的長い合間、途切れる。

 レーリアは椅子から立ち上がり魔王と向き合って、丁寧にお辞儀した。


「初めまして魔王様。私はレーリア・ノールベルツと申します。ジルさんのご厚意でこちらへ移住することになりました。しかしながら魔王様の承諾がなければ難しかったと思います。受け入れてくださり、本当にありがとうございます」

「うむ!聡く良い女性だ!これからはこのスティンツ島でジルを支えてやってくれ!」


 レーリアは自分の中の礼儀を総動員させて挨拶したが、どうやら問題なかったようだ。

一先ずは安心して胸を撫で下ろす。

 けれど「支える」とは?家族でも友人でも恋人でもないのに。

 レーリアが1人悶々していると、魔王はうんうんと頷き、大層満足げだ。


「祝言は盛大に祝おう!余の手腕の見せ所だな!」

「っ!?」

「お花いっぱい用意しなきゃ!!ですね!!」

「!? ちょっ、ちょっと待ってください!」


 あらぬ方向へ話が進む。

一時的にお世話になるだけなのに、これではジルに失礼だろう。


 レーリアが必死に「違います」と否定しても「照れるな照れるな」とマトモに聞いてもらえない。

 ああ、もうどうしたら…と俯いていたら、肩をポンと叩かれる。

 美しく微笑むジルがそこにいた。


「魔王様?随分と楽しそうですね?」


 びくっと魔王は体を震わせて、ギギギっ首をこちらに曲げた。

どっしり構えていた今までが嘘のよう。


「じ、ジルではないか!任せた仕事はどうした?」

「あの程度に時間はかけませんよ。それより何故あなたがレーリアの元にいるのでしょうか?まだ会うなとお伝えしたはずですよね?」


 底冷えしそうな冷笑をしていて、レーリアも顔を青ざめた。

こういう怒り方するのねと冷静に分析だけしておく。


「しかし、そのうち会わせるとも言っていたであろう?ならば本日でもよいではないか!」

「物事には順序というものがあるのですよ?時には機をてらったやり方も悪くはないですが、こちらの計画が台無しになったらどうしてくれるのでしょうか?ぜひお聞かせ願いたいですね」

「う、しかし問題は無さそうだぞ?」


 魔王がレーリアを伺うように見る。


 「問題」とか「計画」だとか。気になるけれど、レーリアは先に誤解が解きたかった。ジルが来たなら話は早い。


「ジルさん、お2人に誤解があるみたいで」

「誤解?」

「私とジルさんが祝げ…」

「承知しました。よく言っておきますので」


 レーリアが言い終わる前にジルはスパンと話を終わらせた。

分かってくれたのなら良かったが、どうにも遮られた感が拭えない。


(私の気のせいかしら)


 ジルは「お仕事の時間ですよ」と魔王を冷たい視線のまま急かした。

 魔王は渋々と肩を落としながら姿を消して、ジルは最後にひと言「そのドレス、よく似合っています」とレーリアに伝えてから優雅に一礼して姿を消す。

こちらからはただ消えたように見えたが転移魔法を使ったのだろう。


 嵐が過ぎ去ったような心地だ。魔王はテンションが高すぎるし、ジルは怖いしで、穏やかな時間とは真逆。けれど、


(私って賑やかな時間も嫌いじゃないのね)


これまで自覚がなかった。耐えることばかり考えて生きてきたから。


(ここでなら、たくさん食べて、たくさん寝て、たくさん遊ぶ。ジルが言っていたことも実現できそう…)


 ささやかな風と陽だまりがレーリアの体を心地よく刺激する。

 子供達が元気に走り回る光景も、少し変わった鳥の鳴き声も、かすかに香る草花の匂いも、五感で感じる全てが別世界だ。


(本当に過ごしやすい島だわ)


「レーリア様!そろそろ行きましょう!」

「ええ」


 ララはその後も素敵な場所だからとレーリアを案内してくれた。花の魔族なだけあって森の中に群生した花畑も熟知していて、一面のローズレッドも、密かに咲くスミレも、それぞれの彩りで魅せる。


まるでレーリアを祝福してくれているような。


(けれど母親殺しの私には過ぎたこと。私は非常食として、この島に来たんだから)


 わずかに生まれた小さな希望をレーリアは自分自身で壊した。

 こうすれば、また楽になった。心をかき乱されずに済む。


(ジルはいつ、私を食べるつもりかしら)


その時が来るのが明日なのか数年後なのか。


待つしかないもどかしさに、レーリアは両手を強く握りしめた。

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