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1–4魔王城にて

 魔王城。

スティンツ島と反対側、大陸とは離れた南西の位置にある、大きな島。魔族の王に謁見を賜れる厳かな場所であり、魔王の棲家だ。


 魔王城に城下町は存在しない。

あるのは広大な山と森。海に続く川も流れており、採掘、採取、伐採、釣りといった資源集めには最適な島だ。

 時には招かざる人間の侵入者が資源を目的として入ってくるが、そのほとんどが森の中に生息する小竜、大蛇、ゴーレムといったレベルが高い魔物に苦戦して命からがら逃げてゆく。

仮に高名な魔法使いであっても魔王城に行き着くことなど不可能だろう。


 そもそも魔法自体、人間にとって容易い力ではないのだ。限られた者のみが行使できる。


 魔法とは血液と共に流れる魔力を体の外へ放出し、様々なカタチで発現させる方法を指す。

魔力には、量、質、属性があり、量が多ければ一度で使える威力や範囲が増し、質が高ければ精度や扱える種類が増える。

そして属性は火、水、風、雷、土の一般魔法と特殊魔法の光があるが、光魔法は習得が困難だ。生まれ持った魔力の質に適正があって初めて努力が身を結ぶ。

更には血を受け継いでいかなければ何の役にも立たないくらい弱い力なのだ。

 そのため一般魔法を使いこなせば高名な魔法使いになれるのだがレベルの高い魔物相手だと万全を期しても敗れるパターンが多々あった。魔族が相手ならば瞬殺だろう。

 しかし人間の中では100年に一度もしくは1000年に一度、才覚に優れた魔法使いが誕生する。

 勇者と呼ばれ、仲間と共に魔王城に乗り込んでくることがあるのだ。


 今まさに、その時を迎えていた。


 謁見の間として使われるこの部屋は黒と紫が混じった毒毒しくも厳粛とした色使いをしており、壁にはブランケットランプの形をした照明の炎がいくつも燃えている。床の面積の大部分にはレッドカーペットが敷かれ、奥の台座まで続く。


 その上の玉座に腰掛けるは魔王。

ツンツンとした金髪と、精悍な金色の瞳を持った男性。人間の姿をしていても滲み出るほどの金の魔力が魔族の証となった。


 侵入してきたのは6人組の勇者一行。

剣や杖、拳を構え、玉座の魔王を睨みつける。


「魔族の頂点に立つ魔王よ!我が王の命により、今この瞬間、討伐を実行する!恨みはないが覚悟してもらおう!」


 宣言したのは勇者と思われる男だった。

細身の剣に水の魔法を溜め、勇猛果敢に振るう。

 魔王は前方に金属製の盾を作り出し攻撃を受け止める。

ガンッ!という音を立てて剣を弾いたが、勇者は体勢を整えて剣を振りかぶり、その盾を破壊した。


「おお!確かに人間にしてはやりよる!余も、もう一段階上の力を使うとしよう!」


 金のモヤが部屋全体に漂う。

人間の姿をしていた魔王は筋肉を増長させて、ふた回りほど大きくなる。衣装は破れ、肌には金竜のウロコが浮かび上がり、大きく尖った牙、長く伸びた爪、鋭く光る瞳。太い尻尾が床を撫でた。


「我が名はグロウリュード!愉しい闘いを期待する!!」


 その凶暴な姿と、先ほどとは比べ物にならないくらいの魔力量に勇者一行は怯んだ。その内の1人の男は尻餅をつき、ガタガタと震え出す。

 しかし1000年に一度の逸材と言われた魔法使いの勇者は覚悟を決めて火、水、雷、風、土の大魔法攻撃を連発し、雄叫びをあげて突っ込む。

 他の仲間たちも誘発されて魔法を仕掛けた。

1人怯えた仲間を残して。


 彼の名前はリック。過呼吸に苦しみ、胸を掻く。

攻撃しなきゃ、援護しなきゃと震える体を叱咤し、立ち上がった。

 オロオロと辺りを見回したら視界の端に仲間の誰とも違う人間が小さく映る。

 艶やかな黒髪、赤黒い瞳に眼鏡をかけた綺麗な顔立ちの男だ。

 こんな場所に居るのだから自分達と同じように魔王を討伐すべく派遣されたに違いないが、彼からは魔力の強さを一切感じない。どう見ても魔法を扱えない人間だ。

そのせいか彼は退屈そうに壁に背中を預け腕組みをし、魔王と勇者達の戦いを眺めるのみに留めている。

 金の魔法で作り出された魔王の大剣が勇者の横腹を割いても、他の仲間の魔法攻撃が悉く魔王に通じなくても。

加勢する素振りすらない。

 リックは腹が立った。弱いなりに精一杯やればいいのに何故黙って見ている?と。


「あんた!どこの誰か知らないが!援護してやってくれないか!」


 男はこちらを向いた。美しい笑みを浮かべたと思ったら、その指先がトンとリックの額に当たる。


「え…」

「あなた、馬鹿ですね」


男の指が離れた瞬間、リックは吹っ飛び、壁に激突する。


「ぐっ、はっぁ…!」


床に倒れ、体を起こそうとするが、全く力が入らなかった。


いったい何が…こいつは魔族に加担する人間なのか…


 リックは意識が薄れてゆきそうになりながら、霞む視界にもう一度男を捕える。

 こちらにはもう見向きもしていなかった。どこからか取り出した書類に目を通している。


 仲間が次々と倒れてゆく。最後には勇者まで。

 リックは悟った。自分たちは考えが甘かったのだと。


***


「なんとも骨のない!1000年に一度の逸材ではなかったのか!?」


 魔王ことグロウリュードは乱暴に玉座に座る。

傷一つなく、すでに姿は人間だった。破れていた衣装は金色に淡く光って瞬く間に元に戻る。

なんのアクションもなく簡単に高度な魔法を使ったのだ。


 傍に控えるジルは眼鏡をクイっと上げる。


「魔王様、人間にとっての逸材ですから。あまり当てにされないほうがよろしいかと」

「くっ!涼しい顔をしおって!元はと言えば、お前の説教が長すぎるのが悪いのであろう!?」


 グロウリュードが勝手にレーリアに会いに行ったのは、昼間の出来事。今はすでに日が沈んでいる。

 ジルは城に帰るや否や微笑を保ったまま、ちくちくとグロウリュードの精神を抉った。


『魔王様は、どれほど時が経とうと、変わらず稚拙で在らせられる。図体にばかり栄養を奪われ、お(つむ)の成長が止まってしまわれたのですね?可哀想に…』とか。

『私事と仕事。分別はないのでしょうか?』とか。

『素晴らしく寛大な我が王ならば私の苦言にも耳を傾けていただけると信じておりますとも。ぜひ己の愚行を恥じていただきたい』とか。


もはや説教などではなく精神攻撃と名づけたほうが合っている。耐えたグロウリュードは流石だ。伊達に魔王をしていない。


「この鬱憤、どう晴らせばよいというのだ!?お前は余との戦いは断るばかりであるし!」

「どこの世界に主の魔王と戦う宰相がいるというのです?下剋上も趣味ではありませんし、ましてや無益な時間は好みません」


 呆れを隠さないジルにグロウリュードは、ふん!と鼻息を荒くし不貞腐れる。


「お前が本気になれば余など赤子も同然だしな!腹立たしいわ!」


 ジルは否定しなかった。

魔王は確かにとても強い。世界を滅ぼせるほどの魔力量、質ともに最強の力を有している。

しかしジル相手となると比べる次元が違うのだ。戦う前から負けが決まっている。


「お前を倒せる者など、この世にはおらんのだろうな」

「さぁ、それはどうでしょうね…?」


 ドロドロとした赤黒い瞳は恍惚とした色彩を孕んで遠くを見つめる。

眼鏡をクイっと上げたあとには正常に戻り、誰もいない玉座の正面へ目を向ける。


 そこに現れたのは青のモヤと緑のモヤを漂わせた2人の男女。

男は自信満々に腰に手を当てており、女は猫背で欠伸をしながら。

 数秒遅れでララが「こんにちは!」元気よく橙のモヤを漂わせて到着する。

 猫背の女の、もう夜だよ〜と、のんびり間延びする声に指摘されて「こんばんは!」と言い直す。


グロウリュードは「うむ」と力強く頷き、


「これより、定例会議を始める!」


声高々に宣言した。

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