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⑧心優の嫉妬!?

森を抜けて三日目。廃村の拠点で迎える朝は、思ったよりも静かだった。

木漏れ日が薄く差し込み、焚き火の残り香と湿った草の匂いが混ざる。

俺たち六人の小さなグループは、まだ緊張感を抱えながらも、束の間の「普通の朝」を享受していた。


「おはよう!」

元気に声をあげたのは、美咲だ。小柄で明るく、笑顔がまるで太陽のように周囲を照らす。

その無邪気さに、俺の胸も少し軽くなる。


「おはようございます」

日野は柔らかく微笑む。知的で落ち着きのある雰囲気に包まれ、長い黒髪が肩にさらりと落ちる。

冷静に見えても、こうして穏やかに笑うと、守ってあげたくなる。


山下と渡辺はもう作業に取り掛かっている。

山下は武道経験者らしい屈強な体つきで黙々と動く。

渡辺は少し毒舌だが、手際よく火や道具を整理している。


そして心優――学級委員長で、俺が誰にも言えず憧れる存在。

背筋を伸ばし、焚き火を見つめるその姿は、今日も変わらず凛としている。

近寄りがたいけど、なんだか守りたくなる、そんな絶妙な距離感。


俺は心優の横に立ち、軽く会釈する。

その瞬間、胸がぎゅっとなる。

(他の子と笑ったりしても、俺の中心は、心優だけだ……絶対に揺るがない)



「蓮くん、この枝、こっちに置くと火がもっと大きくなるよ」

美咲が差し出す枝に触れた瞬間、手が少しぶつかる。

小さな感触に、思わず胸が跳ねる。


「ありがとう、助かる」

自然に笑みがこぼれる。美咲も笑顔で頷く。


「昨日の水汲み、よく頑張ってたね」

日野も小声で褒める。

「いや、二人が手伝ってくれたから楽だったよ」

笑顔を返すと、二人が揃って微笑む。


その様子を、心優は少し離れた場所でじっと見つめている。

普段なら軽く声をかけてくれるのに、今日はそれがない。

ちらりと視線が合った瞬間、微かに眉をひそめる彼女。

(嫉妬……? それとも無関心を装ってるだけ?)

胸の奥がぎゅっと締め付けられる。


でも、俺の気持ちは揺らがない。

(誰と笑っても、俺の中心は心優だけだ……)



午後、拠点近くの小川で水浴びをすることになった。

当然、ペアで行動するルール。俺は心優と一緒に向かう。


「……なんか冷たい、僕、何かしたっけ?」

思わず口に出す。


「……何もないです。気のせいでしょ」

目も合わせず、無表情に答える。でも頬が少し赤い。

見ないふりをしているだけだとわかるけど、そのわずかな色気に心がざわつく。


湯に浸かると、熱さで体がほぐれる。

だが心優は背筋を伸ばし、俺を見ようともしない。

その冷たい態度に胸が締め付けられる。


(それでも、俺の気持ちは揺るがない。誰が何を言おうと、守りたいのは心優だけ……!)



夕方、焚き火を囲んで食事を作る。

「昨日の材料、どうやって切ったの?上手すぎ!」

美咲が近づき、手が触れそうになる。胸が熱くなる。


「いや、ただ切っただけだよ」

「うそー! 私、野菜切るの苦手でいつもぐちゃぐちゃになるんだ」

笑いながら手が触れそうになるたび、俺の意識は揺れる。


でも心優は黙ったまま火の前で作業している。

視線も合わさず、口も開かないその冷たさが、逆に胸に刺さる。

(嫉妬……じゃない、これは俺だけの気持ちだ。心優だけを想う気持ちが強くなる)



夜、藁を敷いた部屋で横になる。

当然、ペア同士は隣。俺は心優のすぐ横。


暗闇の中、かすかな寝息が聞こえる。

距離は数十センチ。手を伸ばせば触れられる距離。


心臓がうるさい。

昨日の火起こしや食事での笑い声、手が触れた瞬間の記憶が頭をよぎる。

心優は冷静。距離を置く。でも、胸の奥は熱い。守りたい、絶対に。


「……蓮くん、目を閉じてください」

低く囁く声に反射で目を閉じると、そっと肩に手が触れる。

胸が破裂しそうになる。


彼女はすぐ手を引き、無表情に戻る。

でもわずかに揺れた心を感じる。

(俺が他の子と笑っただけで、反応する……可愛い、守りたい)



翌朝、森の影が長く伸びる。

「今日も気をつけて行こう」

心優は冷静に告げるが、昨日の手の感触を思い出すと胸の奥がじんわり熱くなる。


美咲や日野が笑顔で話しかけるたび、心優は視線を逸らし口数も減る。

その姿に胸がぎゅっとなる。

(この日常が、束の間でも、生きていられるだけで幸せなんだ……)


森の奥、微かな物音が聞こえる。

安全な時間は、長くは続かない。


俺は心優をちらりと見て、拳を握る。

(絶対に……守る。俺の想いも、俺自身も、全部守り抜く)


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