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第14話 夜明けの誓い

第13話 夜明けの誓い


森を包んでいた静寂が、音もなく砕け散った。

黒い霧が地を這い、木々の間を滑るように広がっていく。

冷たい風が吹き抜け、焚き火の炎がかすかに揺れた。


リオスの低い声が、緊張を裂く。

「……来る。」


次の瞬間、霧の奥で赤い目がいくつも灯った。

それは人の形をしているようで、どこか歪んでいた。

獣のような咆哮が響くたび、空気が震え、土が軋む。


蓮は喉を鳴らした。

心臓が嫌な音を立てる。

恐怖が足元から這い上がってくるのに、彼は踏みとどまった。

背中の向こうに、心優がいる——それだけで、逃げるという選択肢は消えた。


「心優、後ろに!」

短剣を抜く音が夜に響いた。


リオスが剣を抜き放つ。

銀の刃が月を反射し、一閃の光を描く。

「抜けられるな。——下がるなよ。」


その声が終わるより早く、一体が襲いかかった。

黒い霧をまとった獣が飛びかかる。

蓮は反射的に体をひねり、短剣を横に払った。

刃が闇を裂き、赤い光が弾ける。


「っ……!」

腕に重い衝撃。

だが倒れない。心優を守る、それだけを胸に刻む。


リオスの剣が風を裂き、獣の首を飛ばした。

光を飲み込むような斬撃に、蓮は一瞬見惚れた。

「集中しろ、少年!」

「わかってる!」


霧の中からさらに数体が現れる。

地を蹴る音、牙が光る。

息が詰まり、耳鳴りがする。


「火だ! 火を使え!」

リオスの声に、蓮ははっとした。

火打石を掴み、地面に散った焚き火の残り火を叩く。

火花が弾け、乾いた枝に燃え移った。

一瞬で炎が広がり、闇を押し返す。


炎に照らされた森の奥で——声がした。


「——蓮っ!!」


振り向いた蓮の目に、信じられない光景が飛び込んだ。

木々の隙間から現れたのは、かつての教室の仲間たち。

拓海、茜、涼太、芽衣。

懐かしい顔が、異世界の闇を背景にそこにあった。


「お前たち……生きてたのか!」

「当たり前でしょ!」

茜が息を切らせながら杖を掲げた。

「《光よ、我らを包め——シェルライト!》」


柔らかな光の膜が広がり、眩しさに闇が悲鳴をあげる。

魔の霧が弾かれ、赤い目が次々に消えていく。


リオスが目を細めた。

「……やるな。お前たちの世界にも、魔法を扱える者がいるとは。」


拓海が前に出る。

「話はあとだ。——今は倒す!」


その声とともに、涼太の放った矢が光を帯びて一直線に走った。

矢が黒い影を貫き、粉々に砕け散る。

芽衣が盾で蓮を守り、茜が次々に光の魔法を放つ。


蓮も動いた。

炎の明滅の中で、短剣を強く握り、獣の喉を狙う。

剣が闇を切り裂き、光が爆ぜた。


残る一体が吠え、心優の方へ飛びかかる。

「心優——っ!!」


蓮は迷わず走り出した。

思考より早く、体が動いた。

彼女の前に飛び込み、短剣を振り上げる。


刃が赤い目を貫いた。

光が弾け、獣が霧散する。


……静寂。


息を切らせながら、蓮はゆっくりと振り返る。

心優の顔がすぐそこにあった。

その瞳が震え、唇がかすかに動く。


「——蓮、ありがとう。」


その言葉は、戦いの音をすべて溶かすように静かだった。

蓮は短く笑って言った。

「守るって、言っただろ。」


焚き火が再び灯され、焦げた匂いが夜風に混じる。

リオスが剣を収め、淡々と告げた。

「この森を抜けた先に、“光の都”がある。魔王を討つ鍵はそこに眠っている。」


皆がうなずく。

それぞれの胸に、不安と決意が入り混じっていた。


心優がそっと蓮のそばに座る。

焚き火の光が彼女の横顔を照らし、影が静かに揺れた。

「……蓮、怖くなかったの?」

「正直、怖かった。でも、それ以上に——」

蓮は言葉を探し、少し笑った。

「君を失う方が、ずっと怖かった。」


心優の瞳が潤み、焚き火の火がその涙をきらめかせた。

「……ありがとう。私も、蓮がいたから……立てたよ。」


リオスが空を見上げた。

「もうすぐ夜が明ける。お前たちの戦いは、ここからだ。」


誰も言葉を発さなかった。

けれど、皆が空を見上げていた。


やがて、東の空が薄く染まり始める。

朝の光が森を包み、長い夜が終わりを告げた。


蓮は心の奥で、静かに誓った。


——どんな闇が待っていようと、俺が彼女を守る。

——この世界でも、彼女の笑顔を失わせはしない。


光が差し込む。

新しい一日が、彼らの戦いの始まりを告げていた。


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