「伊陟、菟裘賦を天皇に奉り、天皇、原文帳とともにこれを返すこと」速記談6034
源伊陟卿が、村上天皇の御代、おそば近くに召し使われていたとき、天皇が、そなたの父兼明親王は、いつもどのようなことをなさっていらっしゃったのか、と仰せになったので、伊陟は、ウサギの皮衣というものをいつも手にしておりました、と申し上げなさった。天皇は、見たことがない珍物だ。息子であるそなたが伝領したのだろう。一度見せてくれないか、と仰せになったので、お安いことです、とお答えして御前を辞した。後日、伊陟は、一冊の書物を持参した。天皇は、本当のウサギの毛皮だと思っていたのに、菟裘賦という名の漢詩の書であった。天皇が、中身を見てみたところ、たまたま、主君は暗愚で、臣下はこびへつらい、正しいことを伝える先がない、という詩を見てしまい、天皇は、心情を隠して、傍らにあった原文帳にその文句を書き写し、菟裘賦とともに伊陟にこれを返した。
教訓:本人にごまかすつもりや悪意などがなくても、怒りを買うことはある。