2つの世界
現代、妖怪や幽霊をはじめとした化学では証明できないものを信じる人は少ない。
たとえその妖怪がこの世に人間と共存していたとしても・・・。
人間は見たことのないもの、証明できないもの、話の通じないもの、理解し合えないものを怖がる。
ーーそして排除していく。
それがたとえ、人間であっても妖怪であっても。
学校から少し離れたところにある古びたバス停。
学校の周辺とは違い、ここには自然が広がる。
町の中心から外れると一気に田舎な雰囲気になる。
少し待っていると一台の軽トラが目の前に止まった。
「おかえり、みつき。今日は早いな」
「ただいまおっちゃん。ちょっと予定が早く終わったから」
「そうかそうか」
軽トラの助手席側に周り、ドアを開けて乗り込む。
「おっちゃんその姿で運転しててもいいの? びっくりされるでしょ」
乗り込んで早々に気なったことを言ってみた。
「誰もおらんから大丈夫」
そう言っておっちゃんは車を走らせる。
(その安心がよくないんだけど、、、)
おっちゃんこと、ヒロキさんは一つ目小僧の家系である。
だから顔の本来目のあるところに大きな1つの目がある。
もし、この道の誰通りでもしたらびっくりして腰を抜かしてしまうかもしれない。
少々おっちゃんの能天気さに呆れながらも送迎してもらっていることをありがたく思いそれ以上は何も言わなかった。
私の住んでいる村は、通っている学校から車で1時間。
さっきまでいたバス停まではおっちゃんに送迎してもらっている。
おっちゃんとは血縁関係があるわけではなく、ご近所さんだ。
ここまでやってもらっているのだから感謝しないといけない。
「どうだ、学校は。慣れてきたか?」
「まぁ割と慣れた」
「そうか。よかったよかった」
大きな目がおっちゃん顔が優しく笑っていた。
それにつられてうちも自然と笑顔になった。
村に着くとく町のみんなが広場に集まっていた。
「あ、みつきちゃんじゃない。おかえり」
「おかえり。疲れたでしょ」
「学校どうだった?」
「お疲れ様」
「みつきか。おかえり」
「学校楽しかった?」
車から降りるなり、みんなから声をかけられる。
「ただいま。学校楽しかったよ。今着替えてくるから」
今日は年に一度の結界を張り直す日。
みんなうちが帰ってくるのを待ってくれていたみたい。
「ただいまー」
家の玄関を勢いよく開けて、二階の自分の部屋に駆け込む
「おかえり、みつき! 早く着替えちゃいなさい」
「わかってる〜」
一階にいる母ちゃんと大声で会話する。
「父さんは〜?」
「先に行ってるわよ」
「わかった!」
(早く行かないとみんな待ってるのに)
急いで制服を脱ぎ捨てると、一つの白い箱から綺麗に仕舞われた巫女装束を取り出す。
鏡の前に立って、丁寧のに着込む。
毎年やっているから慣れたものだ。
昔は父さんや村のおばあちゃんたちに手伝ってもらわないとできなかったけど。
「準備できた〜?」
「出来たよー」
階段を急いで下る。
「う、うわっ」
足袋のせいで一段滑ってしまった。
宙に浮いた体を二回転させ、地面に着地する。
「もっと普通に降りなさい!」
下で待ってた母ちゃんに怒られてしまった。
「しかたないでしょ。怪我するよりマシ!」
そう言うと玄関にあった藁草履を履いて、外に出る。
広場が目の前でよかった。
「みつき遅いぞ!」
父さんも袴を着て待っていた。
「ごめんなさーい」
広場には人間の人たちもいれば、猫又、子泣き爺、さとり、一つ目小僧、付喪神、豆腐小僧、ろくろ首、カッパなどなどたくさんの家系の妖怪さんたちがいる。
ちなみに私の父ちゃんは天狗。
母ちゃんは普通の人間だ。
この町には人間と妖怪が共存している。
昔はもっと広い範囲で妖怪たちも暮らしていたんだけど、時代が進むと妖怪を怖がり、追い出そうとする人たちが増えた。
だから今では妖怪たちは自然で暮らすか、この町で暮らすかのどちらかだ。
「じゃあ始めようか」
父ちゃんが私見て言った。
私は父ちゃんの隣に立ち、右手でジャンケンの無敵の形を顔の前で作る。
目を閉じて結界を張ることに集中する。
まわりのみんなもじっと静かに待っている。
少しすると、隣の父ちゃんから少しずつ妖力が発せられていく。
それを感じ取ると私も指先に妖力を集める。
「できたー!!」
後ろから男の子の嬉しそうな声が聞こえる。
その声を聞くと父ちゃんと私は目を開ける。
「お疲れ様」
父ちゃんはすぐに、村の人たちと話を始める。
1人になった私に、さとりのサツキおばあちゃんが声をかけてくれた。
「今年も一年みんなが安全に過ごせますように」
大体はこうやって結界を張り終わった後に言う。
「ありがとうね」
さつきおばあちゃんはにっこり笑ってゆっくりと家に帰っていった。
わざわざこのために、みんな来てきてくれているのだ。
「みつきちゃんはすごいわね。人間でもあるのに妖力が使えるのは、おばちゃんたちからしたら羨ましいわ」
「そうかな。でも半人前だもん。一人前には一生届かないよ」
私は妖怪と人間のハーフ。
この村では珍しくないことだ。
母ちゃんは人間で父ちゃんは天狗。
だからさっきみたいに念力で結界が張れる。
(人間でも妖怪でもある存在か。羨ましいのかな、、、)
広場からだんだんと人の影がなくなっていく。
(もっと妖怪さんや私みたいなのが、広い世界で暮らせたらどんなにいいだろう、、、)
そう思っては叶わない願いなのだと、諦めている自分がいる。