第一章:異世界生活の始まり?
目を開けた瞬間、冷たい空気が顔を包み込んだ。周りにはどこか見覚えのない森が広がっている。高い木々が立ち並び、草の香りが濃厚に漂っていた。足元はしっかりと地面を踏みしめている感じがするが、何も見覚えのない景色に頭が混乱する。
「ここ、どこ?」
声を出してみても、答えは返ってこない。ただ、あたりの静けさだけが異常に響いている。それが逆に不安を煽る。
今まで生きてきた現実とはまるで違う、異世界というものがあるのか?いや、どう考えてもそれ以外の説明がつかない。
ふと、身体に力を入れて立ち上がろうとすると、どこかしらかが痛い気がした。車の事故、あの時の衝撃がまだ残っているのだろうか。体を引き寄せるようにして起き上がり、辺りを見渡してみるが、どうしてもこの場所が理解できない。
「あれ…?」
その瞬間、背後で何かの気配を感じた。無意識に振り向いたその先に、目が合ったのは、巨大な狼だった。
その狼は、黒く光る毛並みを持ち、筋肉質な体が無駄な動きなく立ち尽くしている。目は鋭く、私をじっと見つめている。その大きさと目つきに、恐怖が胸に広がっていった。
「まさか…狼、だよね?」
その時、頭に浮かんだのはかつての訓練。私は薙刀をかつて習っていたが、しばらく使っていない。あの時の自分がどれほど動けたか、今は分からない。でも、逃げるのは無理だ。動かなければ。
周囲を見渡し、手近な木の枝を拾い上げる。しばらく空を見上げてみると、霧のような曇り空が無遠慮に空を覆っている。そんな中で、私は体の中からじわじわと力を感じ始めていた。確か、あの感覚。しばらく忘れていたけれど、体が覚えている。かつて薙刀で鍛えた感覚が、今、私を動かす。
狼がまた少し動き出す。その動きに合わせて、私は枝をしっかりと握り、ゆっくりと振りかぶった。
「こんなことで…やられるわけにはいかない。」
枝を大きく振り上げ、そのまま一気に前方へと振り下ろす。その瞬間、体の中で覚醒した力が満ち、枝が自然に弧を描いて振り下ろされる。狼が身を引いた。その動きに反応したかのように、私もすぐさま防御の姿勢を取る。
狼は一瞬立ち止まり、じっと私を見つめる。その目は、明らかに警戒している。それにしても、どうしてこんなに簡単に、私の攻撃に反応したんだろう。少し戸惑うが、今はその隙を逃してはいけない。
「逃げない…?」
狼は足を止めたまま、私をじっと見つめ続ける。その目には、わずかな疑念が見える。私の姿勢、動き、すべてを観察しているのだろう。だが、私もここで逃げたら、もう終わりだ。