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再会

作者: jester

リハビリで書いたものを投稿しました!

懐かしい夢を見た。


 むかし、仲のよかった男の子との約束。


 男の子が引っ越してしまったあの日。


 わたしは見送った駅で泣いてた。


「……ひっく……いや! ーーくんと離れたぐないよぉ!!」


 母親は、泣いてわがままを言うわたしの手をしっかりと握っている。


 それはそうだろう、手を離したらわたしは男の子が乗っている電車に乗り込む勢いだ。


 わたしより一つだけ年上な男の子はみっともなく泣きはしないものの体を震わせて俯いている。


 その隣には申し訳なさそうなお父さんと、少し悲しそうな顔をしたお母さんが立っていた。


ーー2番線の電車は間も無く発車しますー駆け込み乗車はおやめ下さいーー


 わたしがいくら喚いたところで別れの時間はやってくる。


「あっ!! ーー!! もうドアが閉まるわよ! 戻りなさい!!」


 もう発車するというのに男の子はドアから飛び出しわたしの元に駆け寄ってきた。


 男の子はわたしの前で立ち止まるとバッと顔をあげ、目からは堪えきれなかった涙が頬を伝っていた。


「凛ちゃん、グスッ! 次に会ったときは僕のーーーになって……!! 約束だからね!」


 この時、男の子はわたしに手鏡を渡してくれた。


「ゔん!! 絶対にーーくんのーーーになるね!! またね……!!」


 貰った手鏡を握りしめ、離れていく電車を見送る。


 そうしてーーくんの乗った電車は東京へと向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……ん……! ……きな……さい!」


「うーん……?」


「凛! 起きなさい! 入学初日に遅刻なんて許さないわよ!!」


!!


 夢の景色が遠ざかり、わたしの目の前にはカンカンに怒ったお母さんの顔と天井が写った。


 わたしはベットから体を慌てて起こし時計を確認すると、電子時計には七時十四分と表示されていた。


 寝ぼけている脳を叩き起こし状況は理解した。これは…。


「寝坊だぁ!!!」


「早く準備して下に降りてきなさい! 朝ごはんの用意はできてるから」


 お母さんがため息をつきながら部屋のドアを閉めた瞬間、わたしの慌ただしい1日が始まった。


 わたしは急いで新品の制服に着替え支度を済ませると慌てて階段を降りた。


「やっときた、早く食べちゃいなさい!」


 一階の食卓にはスクランブルエッグやソーセージが綺麗に盛り付けられたお皿と香ばしい匂いのする食パンが並んでいた。


「わぁ……美味しそう!」


 わたしは朝食に目を奪われながら椅子に座りジャムをたっぷり塗ったパンを頬張った。


「ごちそうさまでした!」


 急いで食事を済ませると駆け足で玄関のドアを開けると日の光がわたしの全身を照らす。


「眩しい……晴れでよかったぁ」


 雨の日に登校する面倒くささを考えると心の底から晴れでよかったと思う。


「じゃあ、お母さん! 行ってきます!」


「はい、気をつけるのよ?」


「はーい!」


 家のドアが閉まったのを確認するとわたしは駆け足で駅へと向かった。


「はぁ……はぁ……つ、着いた?」


「ここで合ってるのかなぁ?」


 駅は元居た場所ではみないほど大きく、人が多い。


「わぁ……これが東京の駅かぁ……! 大っきい!」


 そう、わたしは今地元を離れ東京にいる。


 お父さんの仕事の都合で引っ越したのだ。


「って、驚いてる場合じゃない! 早く電車に乗らないと……!」


 わたしは急ぎ足でホームへと向かった。


 駅の中は迷路みたいになっていて、途中迷いそうになったが

電車がつく前に運よくホームまで辿り着けた。


「はぁ……間に合った……」


ーー3番線〜電車が参りますーー


 電車が見えてきたころ、隣から悲鳴のような声が聞こえてきた。


「キャー! ねぇ! あの人すごいイケメンじゃない!?」


「ほんとだ!」


「声、かけてみる!?」


 わたしが声のしたほうを見ると180㎝はある背丈に切れ長の目……まるでモデルでもやってそうな男の子がいた。


「(確かにすごいイケメン……)」


 まぁでも、わたしなんかが一生関われないタイプの人だなぁ。


 そんなことを考えて悲しくなってると電車がホームに止まった。


 わたしは電車に乗り込むとドアの前に立ち、小さい頃に貰った手鏡で身だしなみを整える。


「(前髪、切りすぎちゃったかな……)」


 毛先を指でいじり、切りすぎた前髪を気にしているとわたしのお尻に何かが当たった。


 最初は偶然、手でも当たったのかと思ったが、だんだんと弄るような動きに変わっていく。


「(嫌……もしかして……痴漢?)」


「(怖い……声でない! だ、誰か助けて……!)」


 だが、この満員電車の中、痴漢に気づいてくれる人はいなかった。


「(こ、怖い……!)」


 わたしの足は恐怖でガクガクと震えていてもう立ってるのもやっとだ。


 目尻には涙が溜まり今にも溢れそうになっている。


 その時だった。


「おい、オッサン次の駅で降りろ」


「イデデ!! おい! なんだ!? 離せ!! このガキ!!!!」


 恐る恐る後ろを振り向くと、小太りのおじさんの手がさっきのイケメンの人に捻りあげられていた。


「あんた、大丈夫か? 朝からツイてないな」


 わたしは安心感からか涙がポロポロと溢れていた。


「ヒック……あ、ありがとうございます……」


「もうすぐ次の駅に着く、駅員にこいつを突き出すからあんたも一緒に降りてくれ」


「は、はい」


 わたしは次の駅で降り駅員さんに事情を聞かれた。


 さっきのイケメンの人も事情を聞かれたようだ。


「ご協力ありがとうございます! 最近痴漢の被害が多発しておりまして私どもも困っていたんですよ」


 警察の人はイケメンにお礼を言うとさっきのおじさんをパトカーに乗せていってしまった。


 そしてわたしたち二人は見知らぬ駅に取り残された。


「(き、気まずい……)」


「なぁ、あんた電車は乗れそうか? 見たところ同じ学校の新入生みたいだし、よかったら送っていくが?」


「は、ハイ!! あっ……えっと、でも悪いですし……」


 急にイケメンに話しかけられてつい声が上擦ってしまった。


 恥ずかしい……。


「何、かまわんさ、どうせ目的地は同じだしな」


「ところであんたの名前は?」


「私の名前は……」


 春……それは出会いの季節。


 名前を言おうとした私の手には思い出の手鏡が握られていた。


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