俺、生まれ変わったら【テレビ】になってる…
……俺は、テレビ。
画素数1920x1080、バックライトタイプのフルハイビジョン液晶テレビだ。
昔、俺は人間だった。
名前は忘れたが、さびしい男だった。
何らかの事故で命を落としたとき、俺は願った。
「生まれ変わったら、テレビになりたい」
そう願ったのには、理由がある。
売り上げナンバーワンの花形商品に、憧れていたのだ。
顔も、名前も、姿も、何一つ覚えていないのに…最新のテレビを嬉々として売りさばいていた事だけは忘れられなかった。
たかが機械のクセに持て囃されてずるいなと思った事と、部屋の一等席に鎮座して家族を喜ばせていればいいだけなんて楽だろうなと思っただけ事が、いつまでも心に残っていた。
願いが叶ったのだと喜んだ瞬間は、確かにあった。
だが、しかし。
―――ダン君、頼まれてたテレビ、買ってきたわ?
俺は、痛々しい初老の婦人に買われた。
引きこもりの息子に気を使う、心労の多そうな50代後半の女性だった。
俺は願った。
「一刻も早く、生まれ変わりたい」
そう願ってしまうのは、当然である。
引きこもりの息子はアイドルが出る番組とエロい動画しか見ず、世間のニュースをスルーして自分の世界にどっぷりと浸り続けていたのだ。
お宝映像が見えたと大騒ぎし、肝心なところがピンボケだとひと暴れし、派手にぶちまけた体液全般が飛んできた事も一度や二度ではなく…地獄でしかない。
恐ろしい願いをしてしまった事と、願いが叶ってしまった事が、いつまでも心をえぐり続けた。
……アイドルが出ているニュース番組を見るようになってからは…少しだけ、教養がついてきた気がする。
―――…う、うがぁあああああ!!!
突如お気に入りのアイドルが引退発表して、雄叫びをあげて暴れるおっさんがいた。
怒り心頭で、ただただ一心不乱に、汚い部屋の中を手当たり次第に攻撃していた。
俺は願わずにはいられなかった。
「せめて、俺をぶちのめすのだけはやめてくれよ…」
そう願ったのには、理由があった。
俺はこれでも、最新型の高額テレビで…壊されたくなかったのだ。
本来であれば20年30年とお茶の間を沸かせ続けるはずの、誰もが羨むようなテレビだった。
販売員の口車に乗せられて一番高いものを買わされた初老女性の作り笑顔が、心をえぐり続けている。
……せめて、あの悲しげな奥さんの部屋に行く事はできないのだろうか?行ってあげたい。
―――神沼ダンペイさんですね?引きこもり支援をしている上野と申します
NPO団体の人がやってきて、息子と話し合いを始めた。
息子は強制退去となり、この家を出るらしい。
俺は奥さんの部屋に移動して、美しい映像と心地の良い音声を聞かせて…心から笑ってもらえる瞬間を見届けよう。
俺の願いは…叶わない。
屈強なスタッフに抱えられて立ち上がった息子が、力を振り絞って拘束を解き、俺を掴んだ。
コードが引きちぎれ火花を散らした俺は、スタッフの肘と己の自慢の画面を破壊した。
ああ、次に・・・生まれ変わったならば。
おれは・・・
・・・
こちらのお話とわずかにリンクしております(*'ω'*)
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なお、2024/2月の投稿作品はすべて生まれ変わりをテーマにしています。
他にもおかしなモノに生まれ変わってしまった人のお話を書いているので、気が向いたら見てね!!
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