表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

元劣等生は、現劣等生と化す

 がたんごとんと馬車に揺られて丸一日。

 山岳を淡い黄色が照らす中に、クロンヘイムの権力財産地位名声の証である《セイント・キャッスル》が見え隠れしている。

 昔らしさ、保守の伝統が抜けないグロウリーとはえらい違いだ。

 朝日も行き届かない早朝なのに、こんな遠くからでも炎魔法が見えてしまう。

 それ以前に、この馬車も、さすがクロンヘイムと言ったところか。

 無機物のように馬を作り、使い潰していく庶民の常識と大きくかけ離れている。

 内部の丁寧に手入れされた環境も相まって、乗り心地は中々だった。

 

 ……それでも、個人の体質を抑える事は出来なかった。


「うっ、ぅ……おぇ」

 

 先天的な馬車酔い症候群で、僕の気分は絶不調だった。

 完全無欠の王都・クロンヘイムでも、不可能という言葉は存在していたのだ。


「あなたの名前……そうだ、エル・ヘスティアだったっけ」

 

 吐き気で体力の限界を迎えそうになっている僕を無視して、レイは話を進めた。


「あなたの特殊スキル、《バグ》を少し調べさせて貰ったわ。あなたが白目をむきそうな顔をしているときに、私の《鑑定エントリーボード》でね。《バグ》の能力は、やりたい放題、全てを操ることの出来るスキル……らしい」

 

 やりたい放題? 物を浮かばせたり、魔法を吸収したりする以外に、何ができるっていうんだ。


「だけど弱点もある。ハッキリ言って、そのやりたい放題の制御が、あなたにはまだ出来てないの。だから……」

「だから?」

 

 今にも飛び出てきそうな吐瀉物を喉でこらえながら聞く。


「……あなたは多分、クロンヘイムでも虐げられる運命なの――」

 

 おろろろろろ。

 追い打ちの劣等生レーベルで、ついに吐いた。

 グロウリーで食べた食事に、レイに殴られたときに流れた血液、そして過度な精神的圧力。

 何もかもが酸っぱくなって、外の世界に戻っていく。

 口からキラキラを流す僕を見ても、隣のレイはどこ吹く風、光のない目でどこか遠くを眺めていた。

 この状況を心配されても困るけど、何も言われないのは寂しいな……。


 

「ほら、着いたわよ。ポイズンブレス君」

「……すいません」

 

 出す物全部出し終わったとき、ようやくクロンヘイムの北ゲートに到着した。

 口の中が酸っぱいしマズいし、何よりほぼ初対面の人に変なあだ名つけられてるし、もう散々だ。

 口元を押さえながら、馬車を降りる。


 初めてのクロンヘイムは、まさに花の都そのものだった。

 喉奥のとっかかりのせいでよく感じられなかったけど、日が昇った直後だというのに、大通りには人がごった返している。エルフ、獣人、ゴブリンまで様々だ。

 

 街を物珍しく見渡していた僕に、レイは水を差した。


「クロンヘイムの入学試験は省いてるから、早く行きましょ」

 

 クロンヘイム領主の一人娘の権力はすごいな。どこぞの王都では得られなかった恩恵だ。

 多種多様な種が入り交じる道を、僕は、肉の壁に押し潰されそうになりながらも突破した。

 

 



 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ