ナナちゃんのクールなぬいぐるみ
ナナちゃんのおかあさんは、じまんのおかあさん。
ごきんじょでもひょうばんのびじんさんで、おしごともできて、おりょうりもできて、いつもキリッとしています。
おかあさんは気がつよく、ぶつりてきにもつよいらしいです。
ぶつりてきってことばは、ナナちゃんにはむずかしすぎてよくわかりませんが、おかあさんはステキなだけでなくムテキらしいです。
ステキでムテキ!!
なんだかすごくカッコイイですよね!
おとなりさんにそう言われたナナちゃんはうれしくて、おかあさんに言いました。
「ママはステキでムテキなのね!」
「あらやだ、ナナちゃんったら~」
おかあさんは『あらやだ』と言いながらも、まんざらでもなさそう。
まんざらでもない、というのは心の中ではよろこんでいるってことです。
おかあさんのはなのあながちょっと広がり、『ふふん♪』とでも言いそうなかんじ……こういうおかおを『ドヤがお』と言うことを、かしこいナナちゃんはしっています。
ナナちゃんには、ユカちゃんというおともだちがいます。
このあいだユカちゃんとあそんだとき、ユカちゃんはとてもカワイイぬいぐるみをもっていたのです。
なんでもそのぬいぐるみは、ユカちゃんのおかあさんが作ってくれたそう。
おかあさんの手づくりのぬいぐるみ……
なんだかとってもうらやましくなったナナちゃんは、おかあさんの手づくりのぬいぐるみがほしくなりました。
でもおかあさんはおしごととおうちのことで、いつもたいへん。
だからガマンをしようとおもっていたのですが、『ステキでムテキ』で『ドヤがお』のおかあさんです。
これならオネダリをしてもきっとダイジョウブ。
そうおもって、オネダリしてみることにしたのです。
「まかせておいて!」
おかあさんはおむねをゴリラさんのようにたたいてそう言いました。
ゴリラさんがおむねをたたくのにはいくつかりゆうがあるようです。
ずかんでしらべたひとつは『むれのリーダーはオレだ!』とみんなにしめすためらしいですよ。
だからナナちゃんは『ママはやっぱりムテキなのね!』とおもい、あんしんしました。
ですが、おかあさんはホントウはムテキではありませんでした。
「ほぎゃー!!」
さけびごえがおうちにひびきました。
こえのヌシは、ナナちゃんのおかあさんです。
「ママ!?」
ナナちゃんのおかあさんの手には、ハリとイト。
おかあさんのお手手は血だらけでした。
なんとナナちゃんのおかあさんは、とってもぶきようだったのです!
おかあさんはおりょうりもじょうずですから、まったく気がつきませんでした。
「ママの手、血だらけよ!? ぬいぐるみなんて作らなくていいわ!」
ナナちゃんはいさぎよくぬいぐるみをあきらめました。ぬいぐるみより、おかあさんの手がだいじですから。
でも、おかあさんはあきらめていませんでした。
『おれのめはまだしんでいない』『あきらめたらしあいしゅうりょう』など、ナナちゃんにはよくわからないことを言っています。
ナナちゃんのおかあさんは気がつよいのです。そうかんたんに、みちなかばでざせつなどはしないのです。
『みちなかばでざせつ』は『とちゅうであきらめる』の、カッコイイひょうげんです。
おぼえておくといいですよ!
そしてナナちゃんのおかあさんは、とうとうぬいぐるみをかんせいさせました。
それはとてもぶかっこうで、おせじにもカワイイとは言えません。
だからナナちゃんは
「ママ! これちょうクールだぜ!!」
と言ってほめました。
おかあさんはまんざらでもないおかおをしています。
クールななにかのぬいぐるみは、『クール』と名づけられ、ナナちゃんのたからものになりました。
なにか、というのは、なんだかよくわからないからです。
あたまがひとつに、どうたいにりょう手足。
……なんのぬいぐるみなんでしょうね?
なぞです。
でもナナちゃんがこわい夢を見たり、しょうがくせいになってあるいてとうげこうするときも、ちゅうがくせいになってじゅくにいくときも、このぬいぐるみをもっているとふしぎとこわくありません。
クールはまるで、れきせんのもさ。
『れきせんのもさ』は、たたかいつづけて、めちゃくちゃつよい人のことです。
ちょっとよれていておつかれぎみにみえるところも、それっぽくて、ナナちゃんはだいすきです。
クールはおかあさんに似ています。
言うとなんとなくおかあさんがかわいそうなので、言いませんが。
おとめごころはだいじですよね!
でもカッコイイところが似ているのです。
だからナナちゃんは、クールがだいすきです。ちょっとのろわれそうだけど。
ずっとだいじにするんだ。
ナナちゃんはそうおもい、きょうもクールをカバンにいれるのでした。
【読み聞かせ版】
https://ncode.syosetu.com/n4241ia/