外伝14話~アメリカ三冠馬~
グリーンターフの上を10数頭の馬が駆ける。中の1頭が抜け出した。それを追って後ろの馬も反応し競りかける。しかし差が詰まらない。先頭を譲らない。2馬身突きぬけてゴールイン。
「ふぅ、良い感じかな」
「絶好調だな勤」
「荻野さんが良い馬を回してくれてるからですよ」
BCデーを来週に控えたその日。横川の奴は第10レースを勝利して今日5戦2勝2着3回の完全連対を決めていた。
「はっ、未勝利戦に続いて昇級戦も問題なく突破した、勢いある馬だからな」
「ファーとの併せ馬が効いたんでしょうね」
さも当然と言うように、さきほど一勝クラスで突き抜けたコンディルムを撫でながら言う。つい先日まで未勝利戦を勝ち抜けるかをハラハラしてたって言うのに、今じゃ2連勝を決めている。
来週に控えているBCクラシックに出場するステイファートムと横川勤にとっても、万全な状態で迎えられるだろう。
それに最近の横川は戦績は目を見張るものがある。もう10月だが、さっきの勝利で今年の勝利数を70勝まで伸ばした。既に去年記録した自己ベストの80勝が見えるところまで近づいてきている。
騎手リーディング現在6位。プリモールで一皮むけてステイファートム、タガノフェイルドに乗り始めてから本当に変わったな。
「まぁケガだけはしてくれんなよ?」
「もちろんです。シャレになりませんし」
そんな事を言い、横川は笑って今日のメインレースの準備を始めた。はは、昔のアイツとは雲泥の差だな。さて、俺も色々と片付けますか。
***
【BCに黄金旅程一行参戦!!!スレ】
1:名無しの競馬ファン
【朗報】ステイファートム、オーソレミオとの再会を果たした模様
2:名無しの競馬ファン
因縁のライバル……って雰囲気じゃねぇな?
3:名無しの競馬ファン
てっきりこの厩舎締めてたオーソレミオと美穂のボス、ステイファートムで喧嘩始まると思ってたわ
4:名無しの競馬ファン
へぇ、オーソレミオもBC出るんや、ターフ?
5:名無しの競馬ファン
>>4
BCクラシック、初ダート
6:名無しの競馬ファン
>>5
!?!?!?
7:名無しの競馬ファン
仕方ないよ。オーソレミオが覚醒した去年のドバイSC以降で唯一負けたステイファートムがマイルだったりダートに浮気してるから
8:名無しの競馬ファン
オーナーが決着付けたいって殴り込んできたと、、、
9:名無しの競馬ファン
オーソレミオの馬主「ステイファートムがBCに!? ワイも出るで!」
オーソレミオ「ステイファートムと再戦!? やった出るでぇ!」
BCクラシック選出後「「出るレースってダート? ナニソレシラナイ」」
10:名無しの競馬ファン
草ww
11:名無しの競馬ファン
一応ブックメーカーオッズじゃ4番人気なんですよこの馬
12:名無しの競馬ファン
1番人気はアメリカ三冠馬アナザーレイン
2番人気は我らが砂の英雄グルグルバット
3番人気はドゥームネルト
4番人気オーソレミオ
5番人気ステイファートム
以下混戦らしいね
13:名無しの競馬ファン
ステイファートム5番人気かぁ。3番人気にはなって欲しいぜ
14:名無しの競馬ファン
1番人気のアナザーレインは新馬戦2着以外は全て1着取ってる現在のアメリカ代表馬だし仕方ない
15:名無しの競馬ファン
GIケンタッキーダービーの前哨戦で走ったGIフロリダダービーの15馬身差はインパクト強すぎるからな
16:名無しの競馬ファン
ケンタッキーダービーも4馬身差。プリークネスステークスはノーステッキで2馬身差。ベルモンドステークスは5馬身差
GIトラヴァーズステークスでも突き抜けてレーティング125叩き出してる
17:名無しの競馬ファン
2番人気のグルグルバットは今年のサウジCとドバイWCでGI 12勝を挙げてるな。獲得賞金額も世界1位
でもちょっと脚に熱感が見られたからここに直行。去年のBCクラシックも勝ってるけど2番人気は仕方なし
18:名無しの競馬ファン
3番人気はサウジCとドバイWCで2着の巻き返しを図るドゥームネルト。今の古馬勢の総大将格やな
そこまで強い訳では無いが今年度はGI3連勝で勢いも乗ってきてる
19:名無しの競馬ファン
4番人気は初ダートのオーソレミオ。今年のGIドバイSCで8馬身勝ち。前年同様にレーティング138を叩き出しております
20:名無しの競馬ファン
日本の三冠馬ドゥラスチェソーレさんは今日も元気にちぎられておりましたね
ステイファートムやロードクレイアスとかいう化け物から逃げられたと思ったら海外も同じレベルの怪物
21:名無しの競馬ファン
大阪杯に行きたいけどさすがにドバイSCに1頭も出ないのはアレだからなぁという日本競馬の意地を見させられた感じ
ローテさえちゃんとしてたらGI積み上げられる器よ
22:名無しの競馬ファン
レーティングも123~125をウロウロしてるし強化版シャフリヤールみたいな扱いなってる
23:名無しの競馬ファン
はいはい話を戻すよ、オーソレミオはまぁ、未知の匂いというか、ギャンブルが本質よな
24:名無しの競馬ファン
芝であれだけの強さだし初ダートでも対応できるんじゃって話よね
夢は見たくなるか
25:名無しの競馬ファン
でも俺、正直絶対に罠だと思ってる
26:名無しの競馬ファン
寧ろ罠でしかないやろ、切りや切り
27:名無しの競馬ファン
>>26
お前サウジCでファートム買えなかっただろ
28:名無しの競馬ファン
>>27
たれwww
29:名無しの競馬ファン
て言うかステイファートム5番人気は納得いかんぞ
せめてサウジC2着なんだからオーソレミオよりは上やろ
30:名無しの競馬ファン
それは馬券の差やな。1着だと思う馬がいるなら当然単勝は売れにくくなるよ
だからオーソレミオより複勝とか紐としては売れてるし、配当も低く付いてるで
単勝オッズは頭で買う人が少ないから5番人気になってるけど
31:名無しの競馬ファン
なるほどね
32:名無しの競馬ファン
にしてもマジでテンション上がってきた
33:名無しの競馬ファン
もうそろそろ発走時刻まで1時間切ったぞ
34:名無しの競馬ファン
暴れろ日本馬!!! 日本ワンツー決めてくれ!
以降もスレは続く。
***
『ダートだなんて聞いてないんだが!?』
そんな叫び声をあげたのはオーソレミオだ。こいつ、サウジCの時の俺と似たようなこと言ってる気がする。
いやー良かった良かった。オーソレミオと芝で再戦とか正直勘弁して欲しかったからな。サウジCでダートかよ!? を経験していて良かった。
『ふぁ、ファートムの兄貴! どういうことですか!?』
『俺に聞くなよ……まぁ、お前の馬主さんがここのレース出したがったんだろうな。理由までは分からんが』
『しかもこの砂、というより土! 俺なんとなく走りにくいんですが!』
『そうか、俺は問題ない。頑張れや』
『兄貴ぃぃぃぃぃ!?!?!?』
そんな風に泣いてすがり付かれてもどうしようもねぇんだよ! 頑張って走れ、怪我だけはすんなよ!
『ねぇ、君と彼で芝のレース走るって話はどこに行ったの?』
『……知らん』
だってオーソレミオが居たし!? 俺も芝のレースでこいつと戦うつもりだったし? アイツもそのつもりだったし?
ま、まぁ、細かいことは気にしても仕方ない。オーソレミオと再戦 (ダートだけど)しつつ、グルグルバットへのリベンジも出来るわけだ。一石二鳥だぜ!
『てか何あれ? 君のモノマネ?』
『うっせぇバット! 俺はあそこまで取り乱してねぇよ』
『そうかな? ファートムにそっくりだったけど』
『よし捻り潰す』
グルグルバットと軽口を交わす。なんか怪我明けみたいな話を聞いた気がするが……あまり問題無さそうだな。
おまけにこのレースも去年勝っていると聞いた。俄然1番人気だろうこいつをぶっ潰して俺が1着で入選しなければ。そうしなきゃ俺の気がすまん。
『ちょっと待って? 君、もしかしてライバルは俺だけって思ってない?』
『あ?』
『あっちにはサウジCで戦ったドゥームネルトがいる。向こうにも何人か強そうなのいるでしょ? ここは相手のホームだってこと忘れてないかい?』
グルグルバットが俺をジト目で見てくる。だがな、グルグルバットよ。ドゥームネルトを筆頭に他の馬のほとんどがお前を見てるんだわ。
あれは去年辺りでやられた古豪共かね? 向こうも警戒してるんだよ。本場で名を挙げてきた猛者が、アウェイで参戦してきたお前の事を。
『? ……なにさ?』
『いや、お前も大概だよな。格上のお前の方が潰しがいがあるってもんだ』
『それはこっちのセリフだよ。君みたいなライバルがいてこそやりがいもあるってもんさ』
バチバチと睨みを効かせ合う。はっ、楽しそうな笑み浮かべてやがる。まぁ、お前も俺と同じだもんな。強い奴と死闘を繰り広げて、そんで最後に競り勝つ。その時の勝利は堪らねぇもんがあるからな。
『『ははっ──ッ!?』』
なんて笑いあっていたら空気が変わった。いや、変えられたの方が正しい。一頭の馬が近づいてくる。その足音だけで、俺とバットの空気も引き締まるほどに。
『やぁやぁグルグルバット先輩? だよね。はじめまして』
『合ってるよ。君は誰だい?』
『アナザーレイン。レインって呼んで欲しいかな。今回もまたこのレースにご参加下さりありがとう。……お陰で俺の手で叩き潰せる』
俺たちの前に現れたそいつはまさに若き獅子と表現するのが正解だろうか? 凄まじいオーラを放っている一頭の馬だった。
つえぇな、コイツ。……ドゥームネルトと同じ、いやそれ以上は確実に強い。明らかに雰囲気が違う。
『君のことは知らないけど……叩き潰される覚悟はしておいた方がいいよ。その伸びきった天狗の鼻、へし折られるのはさぞ悔しいだろうからさ』
『はは、たかが俺の居ない3流レースで年上の雑魚をいたぶってた程度で?』
瞬間、グルグルバットの雰囲気が変わった。いや、アナザーレイン以外の全ての馬の雰囲気が変わった。
……こいつは今、自分が居なければ3流レースと、ここにいる今までの生涯全てをバカにした発言をしたのだ。
昔のオーソレミオはどうせ自分が勝つと思って慢心していたが、それは勝負に対する期待と絶望から生まれた物だった。
俺とグルグルバットは共に競い合い、高め合い、その上で自分が競り勝ちたい。そう考えているはずだ。だからこそ、相手の全てを侮辱するその発言は特に許せないだろう。
『君は……徹底的に潰す』
『やってみなよ侵略者。夢敗れ散るがいい。受けて立とう。アメリカ三冠馬として』
三冠馬……今度はアメリカの三冠馬か。はは、ドゥラスチェソーレを思い出す。生意気な年下はちゃんと潰しておかねばな。だからこそ……俺を無視した発言は許せねぇよなぁ!
『グルグルバット、お前は俺よりそいつと戦いたいってのか?』
『いきなり、何を言うんだステイファートム?』
『あぁ? 誰ですあんたさんは?』
『てめぇの方こそ誰だよ? グルグルバットは俺が潰すんだ。ぽっと出の三冠ポニーちゃんは引っ込んでろ』
てめぇなんぞに俺のリベンジマッチを邪魔されてたまるかってんだ。
『この俺を、ポニーだと? ……くく、ははは! 良いでしょう! あなたはグルグルバット先輩の前座としてのピエロに相応しい! ……名前を聞きましょう』
『運命旅程、ステイファートム。それがてめぇを降す奴の名前だ、覚えとけ』
『アメリカ三冠馬、アナザーレインです。すぐに散りゆく道化には、名乗りすらも贅沢だと思いますがね』
はっ、どうせ俺が1着になるんだ。倒す相手がグルグルバットに加えてアナザーレインも増えただけのとこと。あっ、オーソレミオも入れとかないと。あいつ拗ねそうだから。
『ステイファートム、良い啖呵を切ったね。後で恥をかく準備はしておきな』
『その言葉そっくりそのまま返すぜグルグルバット』
『いいえ、準備するのは2人ともです。勝つのは俺なので』
俺、グルグルバット、アナザーレインの3頭による火花が散る。かか、俄然面白くなってきたってもんさ。
「ん、そろそろか。ファートム……勝とうね」
『横川さん、もちろんだ!』
ダートの王者を決める試合で、前回負けたグルグルバットにリベンジを果たしての優勝……最高だな。さぁ、勝って世界一になろうじゃないか。横川さんとならどんなところにだって行けるさ!




