外伝8話~乗り替わり~
ふははは! やって参りました久しぶりのレース!3ヶ月ぶりぐらいか? どうやら今回は日本のレースみたいです! でもダートか芝かはまだわかんない!
多分芝だとは思うんだよね。だって安田記念って確か、確かフェイの奴が走ったことあるんだよ。だからマイルのGIレースだ。
はっ、アイツが居なくなってからマイル路線に進むとはな。引退前のアイツとも、走りたかったぜ。でも……フェイはこのレース、勝ってないんだ。
4歳の時に1度走って2着。俺の記憶が確かならそうだったはずだ。確か3歳の時は走らず、5歳は海外遠征だから1度しか走ってないよな。
……次会った時、俺が走ったって聞いたらどんな反応するんだろうか。いや、まだ勝ち負けすら決まってないんだ。考えるのは野暮ってもんか。にしても……。
『お兄ちゃんと一緒! えへへ。新馬戦と香港以来だね。同じ競馬場で走るの』
『ねぇ、僕もいるけど? まぁ兄さんと一緒で嬉しいのは否定しないけどさ』
コールとセチアも一緒とは驚いた。俺より早めに牧場から姿を消したが、どうやらレースに出て勝ってきたらしい。話を聞く限り恐らく、GIレースだろう。
にしても何で同じ? 俺の走るレースは安田記念だが、2人ももしかして安田記念に? ……いやいや、流石にそれはうちの関係者がさせないだろう。フェイともぶつからなかったしな。
『2人とも、今日のレースも勝とうぜ』
『うん! 勝ったら褒めてねお兄ちゃん』
『僕もよろしく。まぁ勝てるでしょ』
こうして俺たち3人は今日もレースの勝利を目指し、共にパドック周回を果たした。……あれぇぇぇ!?
***
「兄妹対決、憧れると思わないかい?」
宮岡オーナーが呟いた。
「まぁ、3歳で年度代表馬となり春の古馬を統べた兄貴ビワハヤヒデと、その弟にして10年ぶりの三冠馬となったナリタブライアンのように兄弟対決は夢でしたが」
俺もそう肯定する。
「だから実現させられるならしたいのさ。ファートムのマイル適正を試せる。カーテンコールとの兄妹対決が実現させられる。セチアの世代レベルを軽く測れたりも出来る。今後のレース選択肢も幅が広がるからね」
「セチアは秋以降、古馬との対決に向かうか、オーストラリアの1着賞金5億円のレース、ゴールデンイーグルもアリという事ですか」
「そうだね。オオバンブルマイのレースには痺れたよ。国際GIではないが、メンバーレベルはGI級。充分価値のあるレースさ」
「ですが横川の奴は反対しました」
俺の言葉に宮岡オーナーは少し沈黙した。横川も分かっちゃいるさ。でも、それでもプリモールの子達の主戦は明け渡したくなかったんだろうな。
「ファー、コール、セチア……3頭の主戦を務めるのは無理って物さ。秋以降はコールとセチアの主戦をどっちが乗るかで悩んだはず。なら、今の間に慣れておかないとね」
「悩むという経験をさせつつ、ファーに絶対乗るという考えあってのもの。そう言った言葉を直接投げかければ横川もあそこまで拗ねなかったでしょうに」
「私は教育者ではないよ? それに、彼自身で乗り越えるべきだと私は感じたからね。騎手としてはまだまた若い。そんな若者に試練を与えるのもまた、馬主として出来る精一杯の教育なんじゃないかな」
「でしょうね。今までにもお手馬をリーディングジョッキーや短期外国人ジョッキーに奪われることはあっても、お手馬を選べず他者に渡さなければ行けない状況は少なかった。しかもそれがGI馬ともなればね」
2人に共通している横川の成長。それはいずれ自分達にも返ってくる事を期待してのものだろうか、それとも親心のようなものだからだろうか?
一つ言えるのは、その思いは実績となって返ってくるとだけだ。
***
正直言ってファー、コール、セチアのどの子に乗るのかと言われれば迷わずファーを選ぶ。僕はそれくらいファーの事が好きだ。
それは誰もが分かっていると思う。とある騎手の昔の話だが、タマモクロスの主戦騎手は骨折した際にタマモクロスに誰も乗らせたくないと思い痛みを我慢して医者の前でジャンプすると言った荒業をした。
それを見た医者は首をかしげながら全治2週間と言い渡したらしい。なお本人曰くめちゃくちゃ痛かったとのこと。全く騎手としては最低だが、気持ちはよくわかる。
多分乗り替わりとか言われたら僕は泣く。無論、それはコールやセチアでも変わらないが。とにかくだ、今回僕はお手馬を二頭手放した。
コールには外国人ジョッキー筆頭、リーディングトップジョッキーのクリストファー・ルモール騎手が。
セチアにはこちらも同じくリーディングトップジョッキー、日本人代表の河田将雅騎手が乗り変わる。
自分より遥かに格上の大ベテラン騎手への乗り替わり、これを鞍上強化や代打としては文句なしという声は大きい。
ふざけるな、というのが僕の本音だ。僕以上にプリモール、モールの子に乗れる騎手がいてたまるかって話だ。誰にも譲りたくない。
だが現実問題として三頭に乗ることは厳しい。いや無理だ。だから今の僕ができることは一つ、圧倒的なまでの完勝をあげることだろう。
『ん? どうした横川さん。やる気十分だな。はっ、まぁ俺も妹弟たちの前でいい格好はしたいからやる気だけどよ。変に力入れすぎたりはすんなよ?』
ちらりと目線を向ければファーが僕を少し心配そうに見てくる。わかっているさ、いつも通りの力さえ出せば勝てるレース、不安にさせて悪かった。さぁ、勝ちに行こう!
『お兄ちゃんがいるぅぅぅぅぅ! どけセチア!!! そこは私の場所だ!!! お兄ちゃぁぁぁぁんっっっっっ!!!!!!』
『おい! 兄さんに迷惑をかけるな! 僕の方が近いからこの距離感は仕方ないだけだ1 おい来るなぁぁぁぁ!!!』
『はぁ!? 聞いてない聞いてない! コールやセチアがいるとか聞いてないぞぉぉぉぉぉぉぉ!!! ていうか二人とも喧嘩はダメだって! ああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
ちょ、ちょっとまずいかもしれない。
イクイノックスのレーティング135とか聞いてません。どうしてファートムの単独1位に並ぶんですか。サウジカップ、ドバイWCといい創作に並ばないでください




