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第2話~命名~

 はい、どうも。どうやら俺は馬に生まれ変わったようです。しかも、恐らく競馬場で走ることになるだろう競走馬として。


 ……いや、まずなんで? 人間の人生はどこ? 俺の前世が全然思い出せないんだけど!? 人間として生きていた、これは間違いない。


 でも人間だったと言う記憶しかないのだ。どこの誰とかそんな思い出はすっぽり抜け落ちている。風景から年代を察しようとしたが、こんな1面草木の生えた所じゃ無理だ。


 スマホはあったから少なくとも遠い過去では無いと思われる。あ、スマホとかそっちの知識はあるんだ。でも人間として生きた記憶だけがないの。名前とか。


 いやさぁ、これで人の言葉の分からない海外とか遠い過去とか、もっと言えば食用じゃ無かったことには感謝だけどさ……。


 あ、人間の言葉わかるんだよ俺! 話してる内容から競走馬ってのも察したわけ。でも競走馬にとって人間の事が分かる俺ってばチートじゃない!? 絶対強いでしょ、俺。



「プリモール、ファー、散歩の時間だぞー!」



 お、館山生産牧場のスタッフさんが来た。俺の母さんの名前はプリモールって言うらしい。俺の名前はプリモールの20××らしいが、長いのでファーと呼ばれている。


 なんでファーかと言えば、俺が欠伸をした時の声がファーだからだそうだ。ひっでぇ、もう少しちゃんとしたネーミングセンスが欲しかったぜスタッフさんらよぉ!



『ほら行くわよファー』


『分かってるって』



 プリモール母さんに急かされて俺と母さんとスタッフさんの3人で散歩をする。まだ体力の少ない俺はいつも一足先に戻されるけど。



「ファーは相変わらず大人しいなぁ。他の馬もそうだったら良いのに。……あ、もしかして鞍を付けたりレース前になると豹変するタイプかも? ……ぎゃっ!? 悪かったから引っ張るなって」



 うるせぇ! 元人間の俺がそんな頭のおかしいことするかよ! さっさと散歩を再開しようぜ。この生活じゃ娯楽が少なすぎるんだもん。散歩楽しい~!


 そんな日々が続いたある日、1人の男性が姿を見せた。



「へぇ、あの子がモールの初仔か」



 俺が元気よく放牧場でプリモール母さんと一緒に駆け回っていると、館山さんでもスタッフさんでもないおっさんが現れた。……いや、母さんは草食ってるから一緒ではないか。



「ちょ、早すぎですよ宮岡さん」


「モールの初仔だぞ! 馬主の私としてはいち早く見たいに決まってるじゃないか!」



 どうやらこのおっさんは宮岡さんという名前らしい。そして母さんの馬主さんって人でもあるらしいな。



「いやー、可愛らしいな。モールがお腹を痛めて産んだ子かー、げへへへっ」



 あれ、なんかちょっとやばい人っぽい!? と思ったが、後日の話を聞いて見ると多少仕方ないと思える事もあった。


 なんでもプリモール母さんはクラブ所有ではなく、宮岡さんだけで買った個人所有の馬だそうだ。そして競馬界の最高峰のGIクラス、天皇賞・秋ってのに勝つほどの名馬だったらしい。


 いや母さんすげぇぇぇ!? 天皇って文字入ってるし絶対凄いレースじゃん!? 俺ってば親の七光りなわけ? 有名人の二世的な? うっかれちゃう~!



「それで、この子はセールに出すつもりで?」


「意地悪言わないでくださいよ~。初仔も含めて全ての権利を宮岡さんが持ってるくせに」



 そうなのだ。うちのような零細牧場では庭先取引と言うのが主流らしく、宮岡さんはちゃんと競走馬として走るかどうかも分からない状態の母さんと、その産駒を自分が所有する権利まで得ている。


 その分、当然普通に買うより値段は割高になったが後悔は無いそうだ。まぁ、プリモール母さんはGI勝ったし、その産駒の俺にも期待しちゃうわな! こりゃ期待に応えないと!



「人懐っこいですね~。育成牧場の方でも上手くやれそうで良かったです」


「プリモールの時は大変でしたからね。ファーをお腹の中に宿してから別人……別馬のように変わりましたけど」


「最悪すぐにでも引き剥がして我々でミルクを与えることになるかと思いましたよ」



 え、そうだったの母さん? 母さん、気性難って奴だったの!? ……俺の顔を見ずにずっと草食べて誤魔化すのやめてよ母さん!



「それで、この子の名前は決めたんですか?」


「あぁ。それはもう盛大に派手な名前にしてやろうと思ってな。ようやくプリモールが産んだ子だ。きっと運命だったんだろう」


「私も奇跡のようだと思いました」


「……ミラクルファートム。ラテン語で奇跡運命って意味だが……さすがに盛りすぎだな」


「じゃあ母父父のトウカイテイオー、父父父のステイゴールドから取るのもどうです?」



 お、なんかよく分からないが有名な馬なのかな? 俺のおじいちゃん世代の有名な馬から名前を少しずつ借りるつもりとか?



「トウカイファートム、トウカイミラクル、ステイミラクル、ステイファートム……運命の道、運命旅程か。良いね、ステイファートムにします」


「分かりました。申請しておきますね」



 お、俺の名前はステイファートム! 運命の道か! 俺の事だからGIをバンバン取ってこれは運命だー! とか言われちゃうんだろうなぁ!



「「……!?」」



 なんか強そうな名前なので嬉しくてスキップしていると、2人の俺を見る目がおかしい。……正確には、俺の足を見る目が。え、もしかしてスキップダメだったの!?



「「て、テイオーステップ!?」」


「……やっぱりトウカイファートムにしますか?」


「トウカイなどの冠名は許可を得るのがマナーですが……この子なら絶対大丈夫ですね」



 えぇぇぇ!?!? なんでなんで!? なんでスキップしたらトウカイの方になっちゃうの!? 俺もうステイファートムの気分だし嫌だよ!



「うわっ!? なんでかファーがめっちゃ暴れてる」


「ステイファートム」



 ピタッ。



「トウカイファートム」



 ジタバタジタバタ!



「ステイファートム」



 ピタッ。



「「…………ステイファートムでいきましょうか」」



 こうして俺の名前はステイファートムとなった。運命の道! めちゃくちゃ格好いい名前だぜ!


 確かディープインパクトってめちゃ強い馬も大震撼って意味で名は体を表してたし、俺ってば文字通り運命に愛されちゃってるからね! この頭さえあれば競馬なんて簡単よ!


 だって元々人間の頭が入ってるしぃ? 母さんは人間の言葉分からないらしいじゃん? こんな公式チート引っさげて負けるなんて有り得ないでしょ???

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― 新着の感想 ―
読み始めました! 天皇賞秋はよくわかって無いのに庭先取引はわかるのですね。
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