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外伝22話~ラストランその3~

中山競馬場第11R:有馬記念 <GI>(芝・稍重・右・2500m)


【馬番】

①サトノシュタイン

②サザンプール

③バーストインパクト

④アスクオペラオー

⑤パスオブグローリー

⑥ステイファートム

⑦ペルツォフカ

⑧マイネルクラウン

⑨コンディルム

⑩ドゥラブレイズ

⑪エアジクイーン

⑫ドゥラスチェソーレ

⑬パフィオペディルム

⑭ダノンマカヒキッド

⑮ワナビアヒーロー

⑯オーソレミオ



1番人気ステイファートム2.8倍

2番人気ドゥラスチェソーレ6.2倍

3番人気オーソレミオ6.5倍

4番人気マイネルクラウン11.8倍

5番人気コンディルム17.6倍

6番人気ペルツォフカ23.9倍

7番人気サザンプール24.0倍

8番人気エアジクイーン26.9倍

9番人気ワナビアヒーロー30.5倍

10番人気パフィオペディルム33.4倍

11番人気パスオブグローリー35.2倍

12番人気ドゥラブレイズ37.8倍

13番人気サトノシュタイン40.6倍

14番人気バーストインパクト56.3倍

15番人気アスクオペラオー70.8倍

16番人気ダノンマカヒキッド99.9倍



***



 この有馬記念を振り返った後世の俺はしみじみと思う。あの時の選択は間違いじゃなかったと……。



《さぁ第1コーナーから第2コーナーを一団が過ぎていった。改めて先頭から馬群を確認していきましょう。


まず先頭は3馬身4馬身のリードをとったステイファートム横川勤。新馬戦から4年半、共に歩み、育んだ絆。今までの全てをこのレースに賭けると口にした想いを胸に、旅路の終着点へと向かいます!


そして2番手、去年のジャパンカップを逃げ切ったワナビアヒーロー今日は控えた。アメリカ帰りのラストランを見事に飾れるか。


並ぶ形でサザンプール、天皇賞・秋馬がじっくりとステイファートムを見る形でマークしています》



 俺はペースを緩めることなくリズムを刻む。横川さんの促しに従って走っているが正直言おう。まだ、余裕はある。さすがに第3コーナーで体力が切れて差されるような展開はないな。



『いつでも差せる位置に付ける。他でもないファートムさんだからな』


『目の付け所いいなお前! 競馬はあいつをマークして最後に差せば勝ちだぜ!』



 だが、後ろの奴らを思ったより離せていない。後ろで馬鹿なことを言っている、いつも逃げてるワナビアヒーローとストーカーのサザンプールは理解できる。


 だがそれより後ろのマイネルクラウンを筆頭に一団となっている奴らも着いてくるってどういうの事だ!


 春天を走り切れる俺ですらこのペースを続けるのは辛いってのに、このレースはそれより短いとはいえ大体2500mぐらいだぞ!


 3歳のマイネルクラウンは恐らく具体的な距離までは理解していない。そしてそれに釣られた奴らが引っ張られて、それを見た後続も行かざるを得ない状況なのか?


 はっ! ならそのまま着いてくればいいさ。死の行進デスマーチに全員ご招待してやるよ!



《そこから1馬身切れて今年の二冠馬マイネルクラウンが虎視眈々とポジションをキープしています。3歳総大将の意地を見せられるか。


団子になってエリザベス女王杯で復活しこちらもラストランのペルツォフカ、香港GI2勝の引退レースのドゥラブレイズ。4歳世代のダービー馬パスオブグローリーの3頭。


その後ろに囲まれる形で2番人気の三冠馬ドゥラスチェソーレがいます。こちらも現役最後のレースです。3度目の対決でステイファートムを降し有終の美を飾れるか》



『ゴール板の位置は確認した。前回走った菊花賞よりは明らかに短い。なら勝てる。コンディルムの奴にも、あのステイファートムっておっさんにも』



 マイネルクラウンの言葉が耳に届く。はっ、スタミナに関して距離だけが問題だと思っているうちには敵じゃねぇな。


 まだ体力は持っているようだが、ハイペース、ミドルペース、スローペース。これらを経験してきた年長勢にその認識で通用するか楽しみだぜ!



『それがあんたの最後の競馬なのね、ステイファートム。……なら、私がそれをぶち破ってみせる』


『ファートム……最後のレースで逃げを選択したのか。追いついてみろと、そういうことなんだな』



 同じ転生者のペルツォフカ、そして長く走ってきた同期のドゥラブレイズの声が耳に届く。はは、追いついてみろよてめぇら。俺はいつでも受けて立つぜ!



『逃げるのを見るのは初めてだが……決して侮ることはしないさ。相手はあのステイファートムだ。ただ、どんな競馬をしようと俺は必ず差す。継承者の意地に賭けて』



 なんだよお前ら、全員俺の事意識しやがって……。そんなに意識されちゃ照れるぞおい。てかドゥラスチェソーレの野郎、囲まれてるように見えて良い位置に付けてるな。まぁ関係ねぇ。すり潰してやるよ。



《後ろに秋華賞馬エアジクイーン、大阪杯勝ち馬のパフィオペディルムがいて、今年の菊花賞馬コンディルムはこの位置!


そして少し位置を上げた3番人気、有馬記念史上初の外国馬参戦となった、世界ナンバーワンホースのオーソレミオはここにいます》



『ファートムさんぶっ飛ばすなぁ。俺と併走してる時は本気じゃなかったってはっきり分かる。……舐められっぱしで終われるかよ……!』


『おぉ、お前もファートムの兄貴の知り合いか! 仲良くしたいが今回俺はファートムの兄貴を倒すから許してくれ。後でまた話そうぜ』


『……まずはあんたから倒す必要があるってことか』


『いいねぇその心意気! さすがファートムの兄貴の知り合い!』



 なんでレース中に後輩のコンディルムと自称舎弟のオーソレミオが仲良くなってんだよ! あんま余裕かましてると大差つけるぞゴラァ!



《おぉそしてぇ! 後ろにバーストインパクトが、上がっていく上がっていく! バーストインパクト! 沼添! 沼添がここで仕掛けた!


バーストインパクトのいつも通りの奇襲だ! さらに後ろのアスクオペラオー、サトノシュタイン、アスクマカヒキッドを離していく!


それと同時にオーソレミオも動いた! 動いた! 向正面で隊列が動き出しました!》



『ひゃはははははは! やってやるぜぇぇぇ!』


『んっ。了解だぺリオ、行っていいんだな! 任せろ!』



 後ろから聞こえるざわめき。これはあれだ。懐かしいと一瞬思ってしまったがあれだな。バーストインパクトが動いた時の合図のどよめきだ。


 さぁ、あいつ1頭の行動で後ろの方は一気に隊列やペースが乱れ始めただろう。掻き乱すねぇ! 好きだぜそう言うの!


 さて、ここで続くように行く馬と控える馬が現れる。それがペースを読んだ上での動きか、乱れに動じず自分の競馬をした者か。今回のは果たしてどっちに転ぶかな!



《向こう正面でバーストインパクトとオーソレミオが上がっていく! その前にコンディルムも動いた! 後方の有力馬が動く!


ドゥラスチェソーレ控える形! 先頭ステイファートム2番手とは5馬身ほど! まだまだリードはあるぞ!


第3コーナーを駈けるステイファートム! 2番手離れてワナビアヒーローとサザンプール!


マイネルクラウンも前の2頭に迫っていく! ペルツォフカとドゥラブレイズ少し差が開いたか! そしてそして、3頭交わしたオーソレミオ!


既に前を! 射程に入れているのか! オーソレミオがドゥラスチェソーレを交わす! 菊花賞馬コンディルムと並ぶ形で第3コーナーを過ぎていきます!》



 一気に乱れ始めた後ろのペースだが、俺は気にしない。正確にはもちろん気にはするが、それで自分の競馬を惑わされたりはしない。


 自分にとってベストだと思うペースを、己の体力の続くまま維持し続ければいいんだ。さぁ、どっかでもかかってこい。俺は正面から受けて立つ。受けて立って……ねじ伏せてやるよ。



『同じタイミングかよ!』


『はっ! お前勘がいいな!』


『誰に鍛えられたと思ってる!』



 恐らく同時に動いたと思われるコンディルムが悪態をつくと、それに気づいたオーソレミオの嬉しそうな声が聞こえてきた。



《さぁ! さぁ! さぁ! 第4コーナーのカーブ! 後ろを3馬身離したステイファートム単騎先頭!


サザンプールとワナビアヒーロー、それに迫る二冠馬マイネルクラウン! ドゥラスチェソーレ、ラストランはいつの間にか外に出しています!


オーソレミオきた! オーソレミオ来た! オーソレミオ来た! 並ぶ形でコンディルム!


有終の美か! 世代交代か! 外国馬が全てを持っていくのか! 全ての想いを愛馬に込めて! 直線コースに出てきます!》



『貴様を……捉えてみせる! 貴様に負けて、追いかけて……そして今日ここで、お前を超える!』


『逃げてこその俺を封印までして勝ちに徹した! そのスタイルで勝たせてなるものか!』



 サザンプールとワナビアヒーローが。



『古馬の壁を超える! 俺は世代最強じゃなく、現役最強になるんだ!』


『あなたの選択を1番近くで見届ける! それは背中を押した私の役目よ!』


『お前は強い。でも、負ける姿を知っている。勝てない姿を知っている! だからこそ、勝機はある!』



 マイネルクラウン、ペルツォフカ、ドゥラブレイズが。



『勝ち逃げなんて絶対させない! 己が三冠馬としての! 継承者の! 意地と誇りに賭けて!』


『芝もペースも問題ない。凱旋門賞の時の二の舞にはなりません。兄貴……最後の勝負、勝たせてもらいますよ!』


『弟子は師匠を超えるもの! あんたの教えで勝った菊花賞の時の再現! ここで見せてやりますよ!』



 ドゥラスチェソーレ、オーソレミオ、コンディルムが。



『悪ぃな! 誰も追いつかねぇよ!』


「最後だ。あと少し、もうちょっと! だから……全力で逃げ切るぞファー!」



 意地を張って、重たい脚を懸命に走らせる。横川さんの鞭を受けて、俺は進む。最後の、本当に最後の正面場だ。





 栄光のゴールまで残り、300m。

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