表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吸血従者とハンターお嬢さま ~バルトリー伯爵領のかぐわしき事件簿~  作者: 枢 呂紅
3.リリア・ラプラントという可能性

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/34

2.




 リリア・ラプラントがヴァンパイヤかもしれない。


 その疑惑を確かめるべく、ステラは夕食後、リリアに夜の散歩を持ちかけた。


 散歩といっても、怪しまれないように夜の庭をぐるりと巡るだけだ。


 幸いラプラント家の屋敷の庭は広く、小さな小川やミニ菜園などもあり、散策に向いている。屋敷からもそこそこ距離を取れるため、会話を聞かれる心配もない。


 なにより、万が一リリアが黒で、ここで戦闘になったとしても、屋敷のひとびとを巻き込まずに済むのだ。


「懐かしいです」


 夜風に髪を揺らしながら、リリアが空を見上げた。


「昔、ステラ様が屋敷に遊びにきてくださった時も、こうしてお庭をご案内しました」


「そうでしたっけ?」


「あの時はたしか夕暮れで、オレンジの斜光が物悲しかったのかステラ様が泣き出し、つられて私も泣いてしまって……」


「ああ……」


 そこはかとなく思い出したステラは、バツが悪くなって首をすくめる。


 そんなステラに、リリアはくすくすと笑った。


「あの頃は私も幼くて、ステラ様の不安を受け止められなくてすみません。ですが、年月を経るのはよいものですね」


 リリアがくるりと振り返り、栗色の髪が夜闇に舞う。ふわりと広がるそれを抑えて、彼女はにこりと笑みを浮かべた。


「ほら。今では私たち、こんな綺麗な星空の下も堂々と歩けるようになってしまいました」


 満天の空の下、微笑む彼女は知らない。


 木立の影に、リスに変身したロアンがいることを。


 屋根の影、一層濃くなった暗闇の中に、いつでも飛び出せるようにノクスが控えていることを。


(リリアさん……)


 ステラは覚悟を固めた。


 鬼が出るか蛇が出るか。蓋を開けない限り、答えは出ない。


 少なくとも自分がここにきたのは、真実の蓋を開けるためだ。


「このしおり。リリアさんのものですか?」


 日中にロアンが持ってきた押し花のしおりを、ステラは差し出す。


 白い鈴百合が押されたそれを見た途端、リリアは目を見開いた。


「これは! どうしてステラ様が?」


 敢えてすぐには答えず、ステラは経過を見守る。


 リリアも、ステラの答えを大人しく待っている余裕はないらしい。震える手でしおりを受け取ると、涙さえ滲ませて胸に抱いた。


「ああ、ああ! もう見つからないかと、諦めかけていたんです。本当に良かった……!」


「これがどこで見つかったか、想像が付きますか?」


「え?」


 リリアの瞳に、初めて戸惑いの色が浮かぶ。


 それを逃さないように、ステラは一歩踏み出した。


「これを持っていたのは、ジェフリーさんです」


「それって、ジェフリー叔父様が見つかったということですか!?」


「答えてください。なぜ、ジェフリーさんが、あなたの宝物を持っていたんですか?」


「え? あの、わかりません。本当に大事なもので、叔父様にお預けした記憶もないですし……」


「ジェフリーさんが誘拐された日の翌日は、あなたの誕生日だったそうですね。しかもジェフリーさんは、あなたとの結婚を強く望んでいた」


 強い風が、二人の間を駆け抜ける。


 ――リリア・ラプラントは息を呑んだ。月光の下、凛と佇みこちらを見据えるステラは、まるで別人のようだ。


 どこまでも気高く、どこまでも気圧される。単に伯爵家の令嬢だからと、納得するには空気が張りつめている。ピンと張られた弓のような迫力は、まるで別の使命を彼女が背負っているのような。


「あの日。ジェフリーさんが、用事があるといって早く酒場を出て行ったあと。ジェフリーさんはリリアさんと会っていたんじゃないんですか?」


「ち、違います!」


「では、ジェフリーさんは何をしていたんですか? そのしおりと関係はありますか?」


「そ、それは知りません……。叔父様がどこで何をしていたかなんて、そんな……」


「ジェフリーさんのアピールを、リリアさんはまともに相手してこなかったようですね。そのことで、ジェフリーさんとトラブルになることはありませんでしたか?」


「ステラ様が何を仰っているのか、ぜんぜんわかりません!」


 叫んだリリアに、僅かにステラも緊張した。


 だが、リリアが暴れたり、逃げ出したりする様子はない。


 彼女が黒なら――ヴァンパイヤであるなら、何かしらのアクションを起こしてもおかしくないくらい、刺激したはずなのに。


(……リリアさんは、ヴァンパイヤじゃない?)


 忍ばせた小型銃に布越しに触れつつ、ステラが眉根を寄せた、その時。




 キーン……と。金属を打ち鳴らしたような甲高い音色が、頭の中で響いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ