もう一つの日常
――――ジリリリリリリr…………。
騒々しい音で、ぼんやりとした頭と視界のまま、徐々に意識が覚醒し始める。
「――ん……7時か……。」
時計を見て、時間を確認する。
今日も億劫だ……もっと寝ていたい……。
だが、仕方がない……。
二度寝するわけにもいかず、起き上がることにする。
顔を洗い、歯を磨き、着替えをし……朝の支度を一通り済ませる。
準備をしながら、点けていたテレビからは、原因不明の心臓麻痺で突然死した男性のニュースが聞こえてきた。
支度を終え、仕事のために家を出る。
職場までは電車と徒歩で20分程度だ。
決して遠くはないが、かったるいものはかったるい。
面倒なものは面倒だ……。
「ああ、ダルい……しんどい……めんどくさい……。」
職場に着き、仕事をするための制服に着替えながら、そんなことを呟く。
俺の名前は『瀬濃磯香』どこにでもいるような普通の人間だ。
職場はホームセンター。
家具だったり、DIYとかの色々をするためのものだったり、園芸なんかをするためのものが売っているお店だ。
売っているものに特別興味がある訳でもないので、特に詳しいわけではない。
ただ、生きるためには仕事をしなくちゃ食っていけない。
面倒だが仕方がない。
「いらっしゃいませー」
俺はリア充やパリピではないため、元気よく活発に挨拶はできない。
だが、仕事なので多少のやる気は持った上で、お客様を歓迎する挨拶をする。
品物を販売するために売り場に出したり、商品に関する客の質問に答えて接客をしたりして、午前中の仕事が終わり、休憩を取って、また仕事に戻る。
「――ちょっと!これ返品したいんだけど!!」
客の一人が、顔を見せるや否やそんな言葉を言い放ってくる。
「申し訳ございません。どちらでしょうか?」
「これよ!!」
返品するというのに、やたらと品物の扱い方が雑だ。
「ちなみに、念のため、理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「使わなかったし、気に入らなかったから返品したいの!!文句ある!?」
こいつ、常識無さすぎだろ……。
もちろん言葉にはしない。
「店長に確認しますので、少々お時間頂いてよろしいでしょうか?」
「時間ないから早くしてもらえる?」
なにを言ってるんだこいつは……。
完全に自分のことしか考えていやがらねぇ……。
そんなことを思いながらも、店長に確認を取る。
結果、レシートがあれば返品可能とのことだった。
「お待たせ致しました。店長に確認を取らせて頂いたところ、返品可能とのことでしたので、返品させていただきますね?処理がありますので、もう少々お待ちください。」
「こっちはレシートもちゃんと持って来てるんだから、さっさとしてもらえる?ホントとろいわね!時間ないって言ってるじゃない!これだからこういう店の店員は使えないのよ!!」
――イラッ。
とするに決まっている。
俺も人間だ。
こんなおばさん居なくなればいい……。
そんなことを思う。
もちろん言葉にはしない。
返品処理を完了し、お客様を追いはら……。
じゃなかった。
お帰り頂く。
「ありがとうございましたー。またお越し下さい。」
いや、もう二度と来んな。
てか、迷惑だからどこの店にも行かずに飢え死ね!!
などと、思っていることを言わずに堪えた。
俺、頑張った!俺偉い!
「おつかれさまでーす。」
こうして、俺はイラつきながらも今日も仕事を終え、帰宅する。
帰宅できる!
さっさと帰路に就く。
「ただいま。」
家に着き、一応そんなことを呟いてみる……。
返答は無い。
当然だ。
俺は一人でこの家に住んでいるのだ。
あちら側の世界なら、きっとミオやベルがおかえりを言ってくれるのだろう。
今日は嫌なこともあったし、先に体の汚れを落としたい。
まずは風呂に入ろう。
風呂から出て、飯を食い、歯を磨き、布団に入る。
「ああー……疲れた…………。」
そんな独り言を言い、眠りに就いた……。