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一眼一足の化物退治<後編>

――やはりベルだった。


 ベルは、あらぬ方向へと滅茶苦茶に魔法を撃ちまくっていた。


 その近くには、そのベルを嘲笑(あざわら)うように見ているモノアイがいる。


「――ミオ!」


 呼び掛け、俺はミオと目を合わせる。


 ミオは頷き、俺の意図を理解してくれたようでベルの方へと向かって行く。


 俺は、モノアイの方へと向かう。


 また幻覚を見せられては堪らない。


 直進せず、モノアイに直視されないよう、ジグザグに走り寄っていく。




「――アーマー!ファースト!」


 防御と速さの強化だ。


 まだベルほどではないが、ミオは強化の魔法を自分に掛けながらベルへと接近する。


「――ベルさん!私です!聞こえますか?」


 ミオはベルに呼びかける。


「……アイラさんが……アイラさんが……許……さない……!絶対に……許しません――!」


 ミオの呼び掛けに対して、ベルの言葉は会話になっていない。


「――ベルさん!落ち着いてください!私の言葉を聞いて!」


「――うるさいです!私……もう何も知りません――!」


 ダメなようだ。


 ベルにミオの言葉は届かない。


「……仕方……ありません……。」


 ミオは、ベルを無力化するために攻撃することを決めたようだ。


「――ウォーターボール!」


 ミオはベルに向かって魔法を放つ。


 ベルはそれを見切り、あっさりと避けてしまう。


 総合的に言えばミオの方が強いだろうが、素早さに関してはおそらくベルの方が圧倒的に速いだろう。


 ミオは自分自身を強化してはいるが、それでもベルの速さには及ばない。


「――ウォーターボール!」


 当たらない。


「――ウィンドカッター!」


 ある程度加減をしながら戦うしかないミオに対して、ベルは幻覚を見せられているため、容赦なくミオを殺傷するための攻撃を放ってくる。


「――ウォーターボール!」


 ミオの攻撃は何度撃っても当たらない。


 ミオは考える……。


 そして、覚悟する。


「――ベルさん……ごめんなさい――!アクアスプレッド―ー!」


 ミオは、ベルに多少の怪我をさせてでも止めるということを優先した。


――当たった!


 その覚悟と決心は形になった。


 それでも威力は抑えてある。


 ベルは跳ね飛ばされ、後方の建物に打ち付けられる。


 ベルを捕縛するため、ミオはベルへと一気に駆け寄る。


 だが、それよりも早くベルは体勢を立て直してしまう。


「――ワールウィンドケイジ!」


 ミオは、風の刃に閉じ込められてしまう。


 ベルの作りだした風の檻の中で、風の刃によってミオは切り刻まれてしまう。

 

 基本的には拘束のための魔法ではあるが、ミオの身体中には細かい傷が付けられてしまった。


 ミオは痛みから地面にへたり込んでしまう。


 それを見たベルは、一瞬、不愉快そうな顔をする。


「――ウィンドカッター!」


 ベルはすかさず魔法を放つ。


 ミオはなりふり構っていられない。

 即座に立ち上がり回避する。


 だが、痛みのせいか若干動きが鈍い。


「――ウィンドカッター!」


 ベルの次の一撃がくる。


 僅かに掠る。


 ミオにはこれ以上回避し続ける体力も、精神的な余裕もない。


 ミオはベルの側面へと一気に回り込み、円を描きながら徐々にベルに近付いて行く。


 これが最後の一手となるだろう。


「――ウィンドカッター!!」


 ミオに的を絞ったベルは、渾身の力を込めて一撃を放つ。


 だが、ミオはこれを待っていた。


 ベルが魔法を放つ一瞬の隙を狙っていた。


「――ウォーターボール!」


 ベルの頭上目掛けて、巨大な水の球を放つ。


 ベルの魔法が自分の身体を切り裂く痛みに耐えつつ、ミオはベルの頭上に作り出した水の球を落としていく。


 水の球で作られた牢の中へとベルを閉じ込め、その水を静止させた。


――ゴボゴボゴボゴボ……。


 ベルは水の中で暴れる。


 風の魔法を放つが、水の牢屋に相殺され、攻撃にならない。


 しばらくもがき続けたが、とうとう呼吸ができなくなる。


 ベルは……そのまま意識を失った……。




 俺は、モノアイに一気に接近した。


「――くらえ!」


 持っていた短剣をモノアイに振り付けるが、飛び退き、避けられる。


 催眠にさえ掛からなければ割と簡単に倒せると思っていが、そういうわけでもないらしい。


 一度後方へ飛び退き、すかさずモノアイへと再度踏み込み、斬り付ける。


 また躱される。


 さらには、そのままモノアイに重たい蹴りを入れられる。


「―――うぐっ……。」


 重い……。


 蹴られたというより、巨大な腕に殴られたようだ。


 おそらく、このまま短剣だけで戦えばやられてしまうだろう。


 モノアイの蹴りを回避しながら俺は考える……。


 このまま避けてばかりじゃいつかスタミナ切れになる。


 こんな時にミオやベルがいてくれれば隙を作ってもらえるのだが……。


 そこまで考えて思い出す。


 前に、ミオとベルに自衛用に渡した道具があった。

 おそらくあれなら、隙くらい作れるんじゃないか?


 ましてや、相手はほぼ目だけみたいなやつだ。


 最大の武器であり、最大の弱点でもあるんじゃなかろうか……。


 一気に後退、距離を取り、蹴りが届かない場所まで離れる。


 モノアイから離れつつ、倉庫から転送魔法で道具を取り出す。


 万が一にも悟られないように、攻撃に合わせて道具を使うことにする。


 離れた距離から、俺はモノアイに向けて、時には円を描き、時には飛ぶようにジグザグに動きながら一気に距離を詰め……斬り付ける。


 躱された。


 だが、それに合わせて俺は可能な限り大きく後ろに飛び退く。


 そして……着地と同時に目を閉じた。


「――――閃光弾だ!」


 それを投げつけると、目を閉じてても見えるほどの真っ白な光が一瞬のうちに広がった。


 光が消えた頃を見計らい、目を開け、モノアイを見る。


 モノアイは視力を失った様子で、フラフラとしていた。


 それを見るや否や、俺は一気にモノアイへ走り寄る。


「――くらえーーー!!」


 渾身の力を込め、モノアイの眼球目掛けて右手の短剣を突き刺す!!


 さらに追撃のため、左手の短剣を逆手から持ち換え、目の下の体……いや、足なのか……?


 体と目の繋ぎ目を……斬り付ける!!


 切断するまでには至らなかったが、モノアイは絶命する。


――バタン……。


 モノアイは後ろ向きに静かに倒れた。


「――――だぁ!しんど――!!」


 思わず、そんな感想が口から出ていた。




 ミオとベルは……無事だろうか?


 怪我をしていたりはしないだろうか?


 あるいは、どちらかがどちらかを殺してしまうようなことになっていないだろうか?


 そんな最悪のパターンも考える。


 今すぐにでもこの場にぶっ倒れて休みたいところだが、ミオとベルの安全が確認できるまではそんなわけにもいかない。


 足を止めて休むことよりも、一秒でも早く二人の無事な姿を確認したい。


 気持ちが逸る。


 さらに早足になっていく。


 ミオと別れた場所とほぼ同じ辺り。


 そこにミオとベルの姿があった。


 ミオは……なぜかベルを膝枕している。


 よくよく見ると、ミオは身体中傷だらけだ……。


 自分の不甲斐なさにやるせない気持ちになり、泣きそうになる。


 きっと二人に危険な思いをさせてしまったのだろう……。




 二人のもとへと近付く。


「……ミオ……頑張ったな……。」


 身体の傷が心配で、言葉に詰まってしまった。


 だが、その傷の分だけ頑張ったのも分かる。


 心配するよりも、ミオのことを労いたくなった。


「――はい!」


 ミオは笑顔で俺の方を見て、返事を返してくれる。


「――ん……んん……。」


 ベルが目を開ける。


「……ん……あれ……?私……アイラさんに、アイラさんが……酷い目に……それで、ミオさんもやられちゃって…………。」


 目を覚ましたばかりだからだろうか?


 あるいは、モノアイに見せられていた幻覚のせいだろうか?

 ベルは、いまいち要領を得ないことを言う。


「……あれ……?ミオ……さん?よかった――!よかったですぅ――!」


 そう言い、泣きながらミオの胸に顔を(うず)める。


――な……なんて羨ましい!ベル、今すぐ俺と代わらないか!?


……じゃなかった……。


 いつまでもミオをこんなボロボロの格好にしておくわけにもいかない。


 ミオに羽織れるものを渡し、そのまま頭を撫でた。


 急に撫でたくなってしまったのだ。


「……えっと……アイラさん……?」


 胸の中でベルを撫でているミオは、俺に撫でられ、困惑したような、照れくさそうな様子だった。


「二人とも、大変だったな……。よく頑張った。じゃあ……帰ろうか?」


「はい――。」

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