緊急警報!!サキュバス襲来
―――朝の光を受けて目が覚める………。
あれから、何日経っただろう?
あっちでもこっちでも、それなりの日常を過ごし、日が昇り、また沈む日々を過ごした。
あの夜の翌朝は、尻を突き出しただらしのない姿のまま、優しく布団が掛けられていた。
そのあと一日中は相当に疲れていたのか、ずっと体が重たかった。
それとは反対に、ミオとベルは清々しいくらいに明るく元気だった。
俺は、ミオとベルの二人に助けられっぱなしだったことが少し恥ずかしく、申し訳なさを感じていて、余所余所しくなってしまっていたかもしれないが、二人はそんなことを全く気にもしていない様子だった。
そんな調子で今日まで過ごしてきた。
まぁ、二人が気にしていないのなら、それはそれでいいだろう。
クラーケンとアルラウネのおかげで大分稼ぎがあり、暫くは平穏な日常を過ごすことができていた。
今日も特に予定もなく、楽しそうな二人を見て過ごすことになりそうだ。
そんなことを考えていた午前が終わり、昼食を取る。
俺は、あっちでもこっちでも、昼食を食べないことが結構ある。
朝食を食べ、あとは夕食さえしっかり食べれば問題ないことと、あっちでは節約のため、こっちでは戦闘などのせいで、そもそも食べる時間すらまともに確保できないないまま夕食となるからだ。
だから、昼食を取れるということは、色々な意味で余裕があるということになる。
そんな今日の昼食は、二人の好みで、甘く焼いたパンケーキで簡単に済ませた。
今日はミオだけでなく、ベルも手伝い、二人で作ってくれたらしい。
三人でおいしく頂いた。
いやー美味しかった。
幸せだ。
「ごちそうさま。」
「「おそまつさまです!」」
二人揃って笑顔で返事をくれる。
そうして昼食も取り終え、ゆっくりしていた頃だった……。
『こちらはギルドです。緊急警報!緊急警報!戦闘可能な方は、すぐにギルドに集まってください!!繰り返します!緊急警報……。』
町中に放送の声が響き渡る。
これは……すぐにギルドに向かわねば!
ミオとベルも連れ、すぐにギルドに向かう。
ギルドに到着すると、装備で身を固めた戦闘が可能なあらゆるものたちが集っていた。
どんな武器でも軽々と振り回せそうな屈強なものから、か細いながらも有り余る知性が溢れ出る知的な雰囲気の女性。
全身を鎧でガチガチに固めた打たれ強そうなものや、胸の大きな近寄るだけで魅了されてしまいそうな女性。
可愛らしい見た目でありながら、背中には見たこともないような凶器を大量に背負っている女性。
はたまた、あっちの世界のどこにでもいるような、ひょろっとした体で、思い思いの武器や装備を身に着けているものまで、本当に様々だ。
見た目こそ様々だが、ここにいるものたちは皆、大なり小なり戦う力があり、守るために戦うことのできるものたちだろう。
見た目だけで判断できるものなど、まずいない。
そこに集まった全てのものたちに向かって、ギルドの受付の女性から知らせられた。
内容は……現在、この町の周辺には大量のサキュバスが蔓延っており、その大群がこの町にも侵入し始めようとしているとのこと。
そのサキュバスたちを退治するなり拘束するなりして、大人しくさせ被害を食い止めて欲しいとの内容だ。
このサキュバスたちの目的は男性の精気であり、男性と見れば見境なく襲い掛かってくるという。
接触した男性は精気を全て吸い取られ、廃人のようになってしまうらしい。
そして、既に多くの男性がその被害に遭い、ギリギリまで精気を吸い取られ使い物にならなくなっているとのことだった。
確かに、このギルドに集まった人々も、心なしか女性の割合が多いような気がしていた。
この町の男性も既に被害に遭ったものがおり、ここに残っているのは、運良くその被害から逃れたものや逸早く情報を得て逃げ延びていたものたちなのだろう。
今回の一件にあるサキュバスとは、男性に襲い掛かったり、あるいは、淫らな幻覚を見せたりし、男性から精気を吸い取る悪魔である。
その見た目のほとんどは、もともと刺激的でセクシーな女性だが、男性の精気を吸い取るという特性のためか、ある程度見た目を変化させることが可能だ。
また、様々な好みに合わせてか、子供のような見た目をしたものから、華奢な体をしたもの、包容力のありそうな見た目をしたものなど、様々な見た目のものがいる。
共通するのは、どのサキュバスも、男性が好むような服装や見た目をしているということである。
また、見た目以外でも、一言にサキュバスと言っても今回のように独自に精気を求めて単体で生息し、出会った男性に襲い掛かるタイプのサキュバスから、召喚などで呼び出され、使役されている、比較的理性的なサキュバス。
はたまた、人間の男性とサキュバスの間に産まれた子供たちが成長し、独自のコミュニティーを築き上げ、男性に喜んでもらう商売をしている、そんな害のない、むしろ男性にとっては有益で良識的なサキュバスまで、様々なサキュバスが存在している。
それにも関わらず、今回のこの案件だ。
なにか根底に原因があるのかもしれないが、今は目の前の依頼を達成することを考えよう。
一通りの詳細をギルドにて聞き終わる。
ギルドにいたものたちは散り散りになり、各々行動を開始する。
「さて……じゃあ、俺たちも行くか。」
ミオとベルに行動開始を告げる。
「はい!でも……大丈夫でしょうか……?」
ベルは元気な返事をしたあと、質問してくる。
「……ん?なにがだ?」
「いえ、その……。」
ベルが口籠る。
「……サキュバスですよ?今回、アイラさんは関わらない方がいいのでは?」
ベルの言葉を補うようにミオが言う。
二人の言うことも分かる。
確かに、今回被害を受けているのは男性だ。
俺は大人しく後方支援にでも回って、前線は戦える女性にでも任せた方が安全かもしれない。
「んー……まぁ、平気だろう。極力注意するようにするよ。それに、放置もできないだろう?」
俺は考えて、そう返答する。
「そうですか……。」
ミオとベルは、まだ少し心配そうな顔をしている。
「……もしもの時は、ミオとベルに頼らせてもらってもいいかな?」
俺のその言葉を聞くと、二人は少し驚いたあと、微笑む。
ミオが小さな溜息を吐く。
「分かりました。でしたら仕方ありませんね。もしもの時は私たちが何とかします。」
なんとか肯定的な返答をもらえた。
そう、放置もできない。
多くの人たちが襲われている。
これは戦えるものとして、少しでも被害を食い止めたい!
それに……実際にサキュバスに会ってみたい!どんな見た目をしているのか……本当に男性を虜にしてしまうほど可愛いのか気になる!
サキュバスに……会ってみたい!!
ま、そういうわけなのだ。
まぁ、そんなことは、口が裂けても言えないがな……。
そんなことを言おうものなら、ミオとベルに体を二つに裂かれてしまう……。