お正月の侯爵令嬢
・月曜日2回目の投下です
年が明けて中平三年。私、悪役の令嬢の董青は14才になりました。
洛陽の宮殿では立春のお祝いがあり、夜漏が夜明け前の五刻を数えるころ、朝廷の百官がみな青い服をきてお祝いをいたします。そして正月の丁の日には洛陽の南北にある高祖劉邦のお堂をはじめとして歴代皇帝のお祭りをします。
皇帝の長子たる劉弁皇子も無事これらの重要な儀式に出ることができました。
というか賈詡さんが早く洛陽に戻しましょうと言ってくれなかったら、すっぽかしてたことになるのでまずかったですね。助かりました。
なお、涼州反乱軍討伐の論功行賞がありました。
総司令官の車騎将軍の張温さんは、都に呼び戻され三公の太尉に。
董卓パパは九卿の前将軍に昇進し、長安の近くの郿県に千戸の領地を貰い、斄郷候になりました。
実際に涼州軍を撃破した孫堅さんは今回の功績特に大として、中郎将に昇進。その他の武将もそれぞれ褒美や昇進を獲得しています。
というわけで私も、ついに侯爵の娘となりいよいよ悪役令嬢として完璧になってきました。
あとは皇子様との婚約者のフリを破棄したら終わりですね。
董卓パパと弁くんの上奏文はそれぞれ皇帝に採用されました。
董卓パパは対羌族の総司令官たる護羌校尉を兼ね、官軍3万を率いて涼州の金城で引き続き騎兵の訓練をしています。
また改めて反乱前後の涼州の刺史、太守の調査があり、総取替に近い人事異動があったようです。あの武威の太守も反乱で交通が遮断されていた間の税金の横領が見つかり無事にクビだとか。
皇帝のこれらの上奏、特に弁くんの上奏文の評価は割と良いようです。弁くんが褒められたと言って喜んでいました。
名士はすぐに「原因は宦官です殺しましょう」って言いだすのに対し、弁くんの上奏文は冷静に涼州の反乱の原因や現地の不満を考察、関東出身の高官の無能を指摘したものでした。
さらに必要な軍事費を惜しまず、良将を選んで討伐を成功させた皇帝の手腕を褒めたたえており、さらなる予算獲得のために西域交易を推進することを提案。そして僕ももっと皇帝の政治を勉強したいですと結んであります。
賈詡さんが「父親がこう育ってほしいと思っている理想の息子が書いた文章にしておきました」と言っていましたが、たしかに経済を気にかけている皇帝が気に入りそうですね。
― ― ― ― ―
私は、洛陽の董家屋敷に戻って、董旻叔父さんや一族の皆と董卓パパの昇進祝いをしていました。
さらに、隴西の実家の土地も回復できたというのでさらに大喜びです。
「いやぁ、しかし郿県の領地が貰えたなら、隴西にわざわざ戻らなくてもいいなあ」
董旻叔父さんは朝から酒をかっ食らって大喜びです。
一族の皆さんは隴西に一度戻りたいとか、領地に行ってみたいとかいろんな意見がでて大騒ぎです。
しかし、私は郿県ってどっかで聞いたことあるんですよね?三国志で董卓の本拠地が……そうそう。三国志の董卓が長安で独裁していた時、豪華なお城をたてて金銀財宝をため込んで、一族が皆殺しにされた場所がたしか郿城……。
「董青はどうする?一度領地に行ってみるか?」
「わ、わ、わ、私は絶対に行きませんよ?!行きませんからね?!」
「……何でそんなに嫌がってんだ」
え、縁起が悪すぎますよぉおお?!
― ― ― ― ―
さて、政治改革は弁くんがやる気を見せていますので、なんとか後継者としての宣伝を続けてもらうとしましょう。
皆が農業に収入を依存しているせいで、凶作や戦争で収穫を失った時に借金や土地の売却、果ては自らを奴婢として売るなどに追い込まれて挽回しようがないんですよね。
商工業を強化して農業以外にも収入の道があれば多少の借金ができても働いて返すとかできるようになるはずです。
というわけで、新しい生産物として、ローマ金貨やローマ銀貨を使った装飾品を商品化すべく職人さんたちと打ち合わせします。
「お嬢様、これとか奇麗にできたと思うのですが」
「……は、はひ、そうですね?!」
公明くんが職人たちを連れてきて、いろんな試作品を見せてくれます。
「これは細工が上手くできたと思います、お嬢様の髪にも似合うのでは?」
「……え、ええ、いいですね、あははは」
ああああ、賈詡さんが余計なことを言うから、まっすぐ公明くんの顔が見れません!
なのにこの真っ直ぐ君は私の眼をしっかり見つめてくるんです!!
「……お具合が悪いのでしょうか?顔が赤いですが……?」
「い、いえ?!そんなことは?」
わたわたしてどうしていいか分からない私に、白ちゃんの可愛らしい声が届きました。
「お姉様ー、ちょっと教えてほしいのじゃー」
「はい、ちょっと待っててね?あ、公明くん、これ皆すてきだと思うので、洛陽で売り出しましょう!大商人の呂伯奢さんにもご紹介して?」
「はっ、かしこまりました」
そそくさと逃げ出す私。
あああああなぜかわからないけど恥ずかしい……。
― ― ― ― ―
女の子二人で近くの房子に入ります。
「えっと、小白?知りたいことってなあに?」
「あの、お姉様?あれだけ皇子様やら匈奴の王族やら名士とお見合いやらしておいて、いまさら何を公明さんに照れてるのじゃ……?」
「え”……いや、その……びっくりしないでね?なんか公明くんが私のこと好きらしいんだけど」
「……いや、みんな知ってるし……一族どころか周りの人もみんな知ってるし……いまさら何を言っておるのじゃ……」
「ええええええっ?!」
衝撃の事実というか、なんというか。みんな知ってたのに私だけ飄々としてたんですか……。
「そんな、私なんかを好きとかおかしいじゃないですか!」
「お姉様は美人じゃし?おかしくは……というか自分でも美少女って常からいっておるのじゃ?」
「それは冗談ですよ?みんな笑うじゃないですか。だいたい私が男装したら豹くんだって弁皇子だって『ああ、やっぱり男か』って顔するってことは私は男女みたいな感じってことじゃないですか!」
「それは男装とかするからで……あの、お姉様は世間一般から見て十分美人なのじゃ。だからその、いい加減に決めて、祖父様に言うべきじゃ」
う……それもそうですね。娘の結婚に関しては董卓パパに権利があります。
「……ところで、お姉様は弁皇子を見ても照れないってことは、心に決めたお相手は弁皇子じゃないのじゃ?」
「えっと、違いますね。教育したい気持ちはありますが、恋愛はないです」
「じゃあそれもちゃんと祖父様に言うべきじゃ」
あれ?なんで白ちゃんが嬉しそうなんです?
まぁ、そうですね。ちゃんと父上に向き合わないと……。
― ― ― ― ―
公明くんにどう向き合うか。董卓パパにどう説明するかを考えながら房子を出ます。
いや、まず私は好きなんだろうか?……しかし好かれていると自覚して割と嬉しいのは事実ですし。
どうしよう、と思いながら歩いていると、賈詡さんがひょいひょいと歩きながら声をかけてきました。
「おお!そういえば忘れておりました。涼州軍に連動してもらうべく、幽州の烏桓族の反乱を煽っていたのですが。どういたしましょう」
「すぐに止めなさいっ!」
・年が明けて中平三年(186年、董青ちゃん14才です)
・これにて第三章「涼州からの風」完結です。
・次は第四章です。
・ぜひこのタイミングでブクマ、評価をよろしくお願いいたします!




