花摘み
土日は複数投下します。
巫女ですとお告げを受けてから数年たち、優しい董卓パパの娘の董青ちゃん、つまり私は11歳になりました。
手足もすらりと伸びて背も割と伸びて、とても健康的に育っています。脂肪はちょっと薄めでしょうか。ついてほしいところには中々ついてくれないもので。
これというのも万が一の董卓一族皆殺しエンドに備え、朝晩に体操など適度な運動をし、ご飯もよく食べているおかげでしょうか。
好き嫌いもあんまりしません。あ、膾だけはちょっと。やっぱり蠅が集ってる肉は焼かないといけない気がします。
しかし、ここまで三国志っぽい出来事はあまりありませんね。役者もそろってませんし。劉備とか曹操、孫堅とかも名前すら聞きません。下手に名指しして聞いて回るのは何か変なお告げに取られそうでやめてます。
迂闊なことはしないんです!
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パカ……、パカ……
秋の穏やかなお日和の中を馬車と従者の群れが進んでいきます。満面の粟畑にはぎっしりと実った穂が頭を垂れています。これは大有年でしょう。夏には日照りがあってどうしたものかと思いましたが、実りには影響がなかったようです。
今日はちゃんと女装……じゃなくて、普通の恰好でお出かけです。馬車はガタガタと揺れますがそれを楽しめるぐらいには慣れました。
お日様もぽかぽか暖かく、のどかで平和ですね……
「あ、でも天高く馬肥える秋ですから、異民族さんが来るのでは?」
ここ数年、毎年秋になると北の騎馬民族……鮮卑の皆さんが大勢で来られてお土産に収穫物やら人間を持って帰ると言います。北の辺境にある幽州や并州は特に被害が大きくて、董卓パパも秋口には援軍に行くため、何度も軍勢を仕立てて北をめざし出陣なさっていました。
「鮮卑の大人が死んダ。跡目が決まらんので最近はおとなしいデス」
騎乗で護衛に着いて来てくださってる李傕さんが教えてくれました。
族長さんが亡くなったんですか。それはご愁傷様ですが、大漢にとっては良いことですね。
「おねえさま。おねえさま。むずかしい話はいやなのじゃ」
「小白、どうちましたかー?」
私に話しかけてきたのは姪っ子の董白ちゃん7歳。死んだお兄様の一人娘で私の天使です。
くりくりとしたお目めに色素の薄い髪の毛が陽の光にキラキラ光ります、色も白くて成長したらきっと美人になるでしょう。
「きいてきいて?お歌をうたうのじゃー」
というと董白ちゃんは澄んだ声で歌い始めました。
♪~おねえさまと ばしゃにのるよ
ムクゲみたいに きれいだよ
ばしゃがはしれば シャラシャラいうよ
ほうせきみたいに キラキラするよ
おひめさまみたいに すばらしく
とてもきれいな おねえさま♪
「まぁ、詩経を覚えたのですね!とっても上手!!さすが小白」
「えへん、えらいのじゃ」
「偉い偉いー」
ちっちゃな胸を張って威張る白ちゃん、ああ、可愛すぎる結婚して。
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「お嬢様、ついたゾ」
「ありがとう李司馬」
気が付くと農村地帯を抜けていました。見渡す限りの山際にはいろんな草木が茂って、あちこちに花が咲いています。
そう、今日はお花を摘みにきたのです。とても女の子らしいですね!
「じゃあ二人で行ってくるから、待ってくださいね」
「いや、花を摘むグライ、召使にやらせてハ?あと護衛スル」
李傕さんが着いてこようとします。
む、私たちの逢引を邪魔する気ですか!
「でート?」
あ、口に出てました。
「これは女の子の遊びなのです、男はこないでくださいね」
「尊命、デハ遠くで見張ル」
「おねえさま、いくのじゃー!」
「うん!」
白ちゃんとおててをつないで、歌いながら花を摘んで回ります。
♪~花を摘みましょ
少し摘みます
花を摘みましょ
少し摘めたよ~♪
♪~花を摘みましょ
少し撫でたよ
花を摘みましょ
少し拾うよ~♪
秋の花である菊がたくさんあるところを見つけて、摘んだり、結んで花飾りにしたりなどして楽しく遊びました。
「おねえさま、ヒツジなのじゃ」
「おや、メーメーさん」
放牧されているんでしょうか、ヒツジの群れが寄ってきました。
「あー、お花を食べちゃだめなのじゃー」
「きゃー」
ヒツジさんに集めた花を見つかって、食べられそうになったのでキャッキャ言いながら逃げ回ります。
……
……ふぅ、楽しかった。
「そろそろ戻りましょうか」
「やだ、もっとあそぶのじゃ」
白ちゃんがくりくりしたお目めをウルウルさせながら抱き着いてきます。
ああ、可愛い……でも可愛いけど迷子になるわけにはいかないので行きましょう。
護衛の人たちに手を振って合図をして、街道に戻ります……あれ?なんか騒ぎ声が?
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「聞こえねえのかぶっ殺すぞ!寄越せってんだ!」
「お願いデス!旦那サマ、やめてクダサイ!」
げげげ、盗賊ですよ!!
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・出典:
馬車の歌 詩経 鄭風 「有女同車」
お花摘みの歌 詩経 周南 「芣苢」