浪費癖(ばらまき)
・日曜日の投下です。夜にもう一回?
「ぎゃはははははははは、兄者らしいーー」
憎しみに満ちた「皇甫嵩死ね」の筆跡を見て、董旻叔父様が笑い転げています。
いや、まぁ、わかりますけど、あんなのが上司だときっついでしょうけど……。
でも、あれが董卓パパらしいですかね?
「らしいですか?父上はいつも立派で落ち着いておられて……皇甫嵩が関わるときだけ人格が変わるように思ってたんですが」
「逆だよ、そっちが素の兄者だ。青だって普段他人には悪いこと言わないのに、皇甫嵩だけオッサンよばわりじゃねーか」
「あれ?」
たしかにそうですね。まぁ、話が通じないので嫌いなタイプですし。
「親子そっくりだぜ、やると決めたら暴走するしよ。兄者だって若いころに客を呼んだのに食いもんねーからって農耕用の牛を食っちまって、明日からどうやって耕すんだって聞いたら「そういえばそうだな」って。ぶん殴ってやろうかと思ったぜ」
董旻叔父様が楽しそうに昔話をしながら酒を汲んでいます。
「あ、あれ?それって父上の器量が大きいという逸話では。普段から他人に気を使ってますし」
「兄者は直情径行いて、迂闊なんだよ。人徳がある名士が憧れだからそーしてんだ。深い考えはねー。銭があったら使うし。なくても使うだろ。おかげで隴西の財産は減る一方だぜ?」
うぐ……。た、たしかに心当たりがある気が……いつも家に余分な銭はありませんでしたし。臨時収入は軽率に人に配っちゃうし。
で、優しいように見えるのは外面……いや、違う。仲間や家族には本当に優しいです。
いざとなったらパパに頼ればいいと思ってましたが、実はけっこう危ういんでしょうか……?
父上のところを離れて、董旻おじさんのところに来て良かったかもしれません。父親としてはもちろん尊敬しているのですが、冷静に英雄としての董卓パパを評価する必要があったのかも。
そこまで考えて、嫌な想像が浮かびました。
……え、つまり、その、董卓パパが憧れてる「人徳のある名士」の仮面を剝がされたら魔王化するってこと?……
そんなことになりませんように!!
……
……
「おお、こっちは牛輔の添え状だなー」
董旻叔父様が紙束から次の信を取り出しました。董卓パパといっしょに従軍している牛輔義兄ですね。
「うんうん、兄者の俸給から、一族の費用分を洛陽で先に抜いて送れと……こっちは申込書か」
涼州は大反乱の真っただ中なので、隴西の実家の人たちや董一族、牛一族は洛陽に逃げ込んでいます。彼らの生活費を先に抜いておかないと董卓パパが全部使ってしまうので、牛輔義兄様が気を使ってるようです。
信の続きを読み進めていた董旻叔父様が突然笑い出しました。
「ぎゃはははは。兄者が黄巾の乱のときはゆっくり攻めててクビになったから、今度は急いで攻める案をだしたら皇甫嵩に「戦況が見えてないのか!」って却下されたってよ。で大喧嘩になったらしい」
本当に皇甫嵩とは気が合いませんね。
「ただ、そのあと皇甫嵩の息子がこっそりやって来て、「実は攻撃用の予算が足りないのです、しかし反乱軍の手前、それも言えず……董将軍には本当にご迷惑を」と平謝りに謝ったと。いや、将軍には最初から言えよ」
……まったくですよ。何やってんですかもう。でも皇甫嵩の息子さんはまだマトモなようですね。
「うん、だから兄者はしばらく防衛に専念するそうだ」
まぁ、皆さん安全ならいいことです。
しかし、長安に迫ってきている反乱軍討伐の予算がないって、漢朝もいよいよ厳しいですね……焼け落ちた宮殿すら放置してますし。
「あの、夫から私に手紙はありましたか?」
「おう、あったぜ」
お姉さま、牛輔義兄様のお嫁さんになった人です、の発言を皮切りに、一族郎党でわいわいと私信を配ったり、読めないのを代読したりして和やかに過ごしました。
うーん、平和な一族団欒の情景ですね。……大反乱がおきてなければ。
この幸せをできるだけ長く。
ー ー ー ー ー
洛陽城内。
がやがや……
大勢の人出で騒がしい車肆には多くの荷車が並んでおり、様々な産物を売り買いしております。
「おねえさま、いろんなものが売ってるのじゃー」
そこを軽やかに歩き回る美が一つ、まるで一羽の可憐な蝶々のように、ひらりと絹の服に茶色の髪の毛が舞います。我が仙女、董白ちゃんです。
休沐のお休みは、五日に一回。これはお風呂に入って官服を洗濯する日になります。官服を洗っちゃったら乾くまで出仕できませんから、お休みなんです。
今日の白ちゃんは、私が手作りの石鹸と糠汁を用いて、お風呂でピッカピカに磨き上げた仙女ちゃんなのです!
なぜか董旻叔父様には「いや、お前の風呂休暇じゃないのか……」って呆れられましたけど。可愛いものに奉仕したくなるのは当然ですよね。
というわけで、今日は白ちゃんといっしょに車肆で買物です。
「うんうん、さすがは首都洛陽。いろいろありますね」
「おねえさま、あれはなんじゃー?」
白ちゃんが荷車に山積みになっている竹?笹?のようなものを指さします。
「おお、これはお奇麗なお嬢様がた。こちらは江南で取れる甘蔗で、とっても甘い……」
「買います!」
私が即答すると商人さんはちょっとびっくりして、お側にいた公明くんに話しかけました。
「えっと……遠くから運んできてるから高いですぜ?この切ったやつで1本10銭。お買い上げでいいかね?」
う……、一日分の食費ぐらいですか。
しかし、女官の経済力ならば!
「買います!食べやすい大きさに切ってくださいね」
商人さんが鉈で甘蔗を短く切って、皮を軽く剥いて渡してくれました。
公明くんが私の預けてた銭で支払いをします。女の子がお金を持っていたら危ないですからね。
「はい、これ、白ちゃんの分!おくち開けてー」
「あーん」
私の言う通りに甘蔗をほおばる白ちゃん。
か、可愛い……小動物みたい……。
「噛んで汁を吸うんだよー」
すなおにモグモグした白ちゃんの顔がぱあっと明るくなります。
「甘いのじゃ!!」
北の方で暮らしてたので、甘蔗は初めてなんですよね。私も一つ。うん、砂糖だぁ……。
「あ、あの……お嬢様。外でものを食べるのは……」
「……」
公明くんが恐る恐る助言してくれました。
あ、うん。行儀悪いですね。周りの人がじろじろと見てきます。美少女二人なのもあってものすごく目立ってるような……
味見!味見だけだから!!
……
……
せっかくなので、こまめにいろいろなものを見ては物価を書き留めていきます。
やっぱり大都会ですし、全体的に物価、高いですね。
ただ、穀物だけはやけに安かったです。消費地なのになんで?と思ってたんですが。答えは簡単でした。洛陽にたくさんいる役人さんの給料で大量に穀物が配られてるから、余らせて売る人のほうが多いんです。
で、それ以外の品、布や雑貨、贅沢品なんかは役人さんが買うばかりで作る人が少ないから高いと。
ここでモノを売ったら儲かるのでは?
いろいろ考えながら物価調査をしていたら、白ちゃんが飽きちゃったので次に行くことにしました。
……
……
そのあと列肆に行って、白ちゃんに似合う髪飾りを探しました。
いろいろな形や色を合わせてみて、じっくりと選びます。
「うぐぐ……赤もいい、青もいい……でも、この髪の色に映えるのは……もう一歩足りない気が」
「紫はどうですか?」
公明くん、それだ!
新しい髪飾りをつけた白ちゃんが私の前でくるりと回ります。
「どう?にあうー?」
「はぁ……可愛い……」
幾らですか、200銭?20日分の食費ですね。持っていってください!
ふぅ……満足です。
久々に董白ちゃんを甘やかせたので、とても満ち足りた気分でいたところ、公明くんが聞いてきました。
「あの、お嬢様の分は買われないんですか?」
「……なんで?」
白ちゃんを愛でるために来たんだけど。
「え、いや、その……お嬢様にも、お似合いだと……思ったので」
なんで公明くんが照れるの。こっちまで恥ずかしいじゃないですか。
でもまぁ、たしかに一つぐらい買っても……。
「どれがいいと思います?」
「え、そ、その、僕はそういうのは」
いや、似合うのみつけてくれたんじゃないんですか。
あたふたしている公明くんを尻目に、白ちゃんがあちこち見て回って。
「お姉さまは、こっちの黄色のがいいと思うのじゃ」
「そう、真っ直ぐこれがいいと思います!」
そこまで言うならと商人さんに試しに着けてもらいます。
「可愛いのじゃーー!!」
「いいです!」
うん、自分では見えないので、分かりませんが。いいんじゃないでしょうか。
「ではこれで」
「これかい?こっちも200銭でいいよ」
「はい、ただいま……あれ?」
財布が……空でした。
「出直します……」
うそ、今月のお給料もうなくなってたーー?!
ー ー ー ー ー
屋敷に戻ったら董旻叔父様に「兄者そっくりだなお前」って笑われました。
「……だ、大丈夫!食費は先にお預けしましたから」
「兄者そっくりだなお前」
「なんで2回言うんですか!」
董旻叔父様が爆笑しています。
「お嬢様!もうしわけありません!!!恥をかかせてしまいました」
そして公明くんはなぜか落ち込んでいます。
いや、公明くんは悪くないですよ?!
後先考えずにお金使った私が……董卓パパそっくりなだけで。
うぐぐ。
・感想、レビューありがとうございます。
・ブクマ、評価お願いします!




