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董卓の娘  作者: 神奈いです
第一章 黄河の北で

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列肆(いちば)

・金曜日3回目の投下です。

ああ、荷馬車がごとごと、私をのせていきます。

董青トウセイです。馬車ごとさらわれてしまいましたです。


とにかく知らない人ばかりなので怖いです。


びくびくしながら荷物の影に隠れていると、周りの建物が豪華になっていきました。明らかに城外とは格のちがう御殿が並んでいます。


これって絶対宮殿の中ですよね、しかもかなり中心。

これは……もしかしなくても皇帝陛下の宮殿に忍び込んだ罪で処刑なのでは……


詰んだ?!



いや、大丈夫。ギュウ義兄にい様だって、さすがに馬車がいなくなったら気づいて、迎えに来てくれるはず……。


たぶん、きっと。うん。……厳しいかなぁ……。



「よし、ここでいい」

馬車が止まって、人が去っていきました。



恐る恐る外を覗くと、なんか出店が並んでいます。

え?


出店には奇麗に着飾った女官が並んで、口々に商品の名前を叫んでいます。

「かんざしー、かんざしはいらんかねー。くしもあるよー」

「こちらはおびがございますよー!絹ですよー」


ええええ。なんで宮殿の中に市場が??


ええっと、めちゃくちゃ賑やかに物売りをしているのですが……宮殿ってそういう場所でしたっけ?

普通はもっと静かで、厳かで……ものものしく儀式とかやってるもんじゃないんですか??出店???



ありえない光景に私が混乱していると、なんか派手なおじ様が子連れでやってきました。後ろにぞろぞろと、ひょろひょろしたお爺さんたちを連れています。


「ふははは。どうだベン寡人の作った列肆いちばは!」

「……あ、はい、父帝陛下のお力で、とてもにぎわってると思います……」


派手なおじ様が傍若無人な大声で笑うと、ベンと呼ばれた子供がおどおどと答えます。


それをみて、出店に並んだ女官たちが一斉に平伏しました。


「「「ははー、皇帝陛下、万歳、万歳、万々歳」」」

「ああ、よいよい。商売を続けろ!」


ええええ?この派手なおじ様が皇帝!?

よくよく見ると、少し太めの身体を派手な商人の服に包んで、眼光鋭く活力に満ちたお方ではあります。これが天下の皇帝でしょうか。

あの子供のベンさんは皇子ですね。あれ?次の皇帝は……献帝ケンテイベンじゃないよね。誰だっけ?献帝の兄弟さん??


いや、三国志でも全員の名前覚えてるわけじゃないので……




女官たちは皇帝陛下のご指示で、物の売り買いに戻っていきました。客役と店役に分かれてワイワイと騒がしくやり取りをしています。


「これは百銭!! こっちは二百銭でいいよ!」

「高いわよ! まけてよ!」


さっき見た洛陽の市場と変わらない雰囲気です。


それを見て皇帝陛下は自慢げに胸を張っていますが、ベン皇子は引き気味です。


「……ベンよ、女官どもが騒いでいるからといって、恐れてどうする……商売とは騒がしいものなのだぞ!」


それにしても皇帝陛下の声でかい。ちょっと離れた場所にいるのに、よく聞こえます。


「あっ……はい……すみません陛下。恐れませぬ」

「ううむ……」


明らかに皇帝陛下、心配そうです。まぁ、皇子が頼りなさげですからね……


「よし、銭をやるから独りで珍しいものでも買ってこい!行け!!!」

「え?!あ、は、は、はい!?」


なんか子供を初めてのお使いに出す親みたいになってます。


皇帝陛下とお付きの人々が心配げに見守る中、お財布を持たされた弁皇子が出店のほうに寄っていき、話しかけようとしてやめ、話しかけようとしてやめ、うろうろ、うろうろ、うろうろ……


「シャンとせい!!!」

「は、はいぃ!」


あ、皇帝陛下のお叱りを受けて、やっと店の人に話しかけました。



「あれできもさえ座ればなぁ……」

皇帝陛下が頭を抱えてしまってます。




うーん、あの皇子様。私と同じぐらいの年なのに、あれはたしかに親として心配ですよね……荷馬車の裏からこっそり同情していると、足音高らかに、帯甲ぶそう兵が陛下に走り寄ります。


「陛下!!戦場よりの伝令が参りました!!」

「む、そうか!……皆は弁の買い物が終わるまで続けよ!」


あ、皇帝さんとお付きの人が帰っちゃった。うーん。三国志での皇帝陛下って宦官に騙される無能だったんだけど……あの人はなんかやる気と自信に満ち溢れてたような気がする。なんか全然違う印象です。

戦場から来た伝令にもきちんと会うし……。


いや?そもそも、なんで反乱中に出店ごっこしてるの??



残されたベン皇子は、そのあとも困った顔で市場をうろうろ、こっちをうろうろ。


「はぁ……疲れた」


なんでこっちに来るんですかー!?


「あれ?ここにもお店が?ねぇ、何を売ってるの?」


居ません居ません、留守ですよー?


「ねえ、馬車の奥にいる人ー?」


なんでバレてるのーーーー!?

もう謝るしか!!


荷物の裏から飛び出て平伏します。


「あ、あの、申し訳ございません!!!その……殺さないでくださいっ!?」

「誰が殺すのさ!怖いこと言わないでよ!」


あれ、皇子様は怒ってない?助かる?


ベン皇子は馬車をちらちらと見て、馬車に掲げられている董の字の旗を見つけました。


「ええっと、トウの旗?ということは、キョウのところの子かな?おばあ様の。ああ……だ、大丈夫だよ殺さないよ……僕は」


僕はってなんですか?!!


「あ、あなた様以外に誰かお殺しになるんでしょうか……」

「な、ないよないよ、大丈夫!母さんは毒殺したりしないから!」


やけに具体的ですね???


「その、キョウ様は存じ上げませんが、董家と関係があるのでしょうか?」


「何言ってんの。弟はおばあ様が手元に置かれてるじゃないか。董家で面倒をみてくれているんでしょ?」

「そうだったんですか、失礼しました」


うちの一族って、皇帝の息子さんを預かっていたんでしたっけ??知りませんでした。


「それはさておき、僕は、何か珍しいものを買わないといけないんだ。陛下の命令だからね。何か売って?」

「陛下のご命令ですか」


でも、ここにあるのって全部贈り物ですよね。

ええっと、何か売ってもいいものは……


「あ、その帽子珍しいじゃない。いくら?」


そういってベンくんが指さしたのは、劉豹リュウヒョウくんのイタチの帽子です。


ダメダメ!人からもらったものです!!いや、次に会った時に持ってなかったら気まずいし。いや会いたいわけじゃなくて。


「1金でいいかな?」

ベン皇子が財布から小さな金の塊をお出しになります。1金って一万銭じゃないですか。一家族の年収ですよ……。


「すみません、これは売り物ではなくて……」

「いいじゃん、売ってよ」


むっ。さっきまでおどおどしていたのに、同い年でおとなしそうな女の子だと思ったのかずいぶん強気ですね。


「ダメです!!!!」

「ひっ?!!……ご、ごめんなさい……」


げ。


皇子様を怒鳴りつけちゃった……

死刑、死刑でしょうか……


ってよく見たら弁皇子もびびってます。


落ち着かれる前に何か替わりのものを……

ん? これは……と、とりあえずこれでいいや!


「あ、あのう、よろしかったらこれ……白黒です」


お手製のリバーシを差し出します。何回か作り直して、結構出来が良くて気に入ってたんですが。


「これは何?いご?」

「いいえ、珍しい新しい遊びでして、こうしてコマを挟んで取って多いほうが勝ちです」


簡単にルールを実演しながら説明するとすんなり理解してくれたようです。頭はいいみたいですね。


「珍しいね……よし、それでいいや」

「ま、まいどあり……」


うわ、小さい金塊貰っちゃいました。明らかに多いんですけど……。

それにしてもなんで宮廷のど真ん中に市場があるんですかね。偉い人の考えることはわからないです。


「あれ、知らないの?」

……また口にでてた?!迂闊うかつっ……


ベン皇子はいたずらっぽくにやりと笑いながら言います。

「それはね、陛下が偉大だからだよ?」

「あっ、はい」


なぜか弁皇子が胸を張って自慢げに教えてくれました。しかしこの王子様、なんか弱気だったり強気になったり極端ですね。


「陛下はね、国家のことをお考えなんだ。大漢このくにを立て直すためには銭が大事だと思っておられるんだよ。だから銭のことを学ぶために列肆いちばを建ててくれたんだ」

「なるほど、さすが陛下です」


「朝廷の財政は厳しいからね、三公九卿だいじんを任命するときに銭をとったりして、宮廷の修繕費とかいざというときの貯えにしているんだ。今回の反乱討伐の軍事費もそこからでてるんだよ。そこまで先に備えておられたんだ。すごいでしょ」


「すごいですね、すごい……殿下もお詳しいですね?」

「陛下から学んでるからね!」


そういってベン皇子は、またエヘンと胸を張ります。

……んん? あれ、おかしいな。


「でも、そもそも朝廷は税を集めていますよね。本来の税収はどこへ??」

私、塩税とか均輸のお仕事でもう何千万って銭を洛陽に送ってるはずなんですけど。あと農民から田租(ねんぐやら算賦じんとうぜいやらとってるはず??



「陛下は、夷狄いてき対策にお金がかかるんだって言ってたよ」


夷狄いてき……ようするに異民族ですよね。でも、そんなに異民族って攻めてきてますっけ?鮮卑センピは落ち着いたし、匈奴キョウドとは仲いいですよね。


「あ、しまった。陛下に、買い物できましたって報告しないと。じゃあね? 」

「ありがとうございました」


頭を下げてベン皇子を見送ります。


ふぅ……なんとかなったか……では、馬車に戻って……






「ねぇ、そこのあなた。ちょっといい?」


気が付いたら女官たちに囲まれてました。

遠くから兵隊さんも走ってきます。


なんとかなってないーーっ?!!

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現行連載作  迷宮伯嫡子はカネがない

大借金で領地取りつぶしの危機である。頼れる親や重臣たちは外出中、財布は空で留守番役。
状況を切り抜ける特別なご加護や卓越した武勇や超魔力なんかもない。
そんな状況だけどボクは前向きに取り組んでいく。
まずは軍資金ゼロで軍隊を動員?できなきゃ領地は大変だ?
― 新着の感想 ―
[一言] ヒロインドナ○ナされる
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