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董卓の娘  作者: 神奈いです
第六章 董卓の娘

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(閑話)暴力で解決すれば何とでもなる

董卓のもとに新帝からの勅命が届いた。


書式はすべてそろっている。

しかし、新帝は服喪中で政治はしていないはずである。

摂政している何太后が兄である何進大将軍を殺すように命じると言うのもおかしい。


娘婿の牛輔(ギュウホ)が董卓を見て訝しげにつぶやく。

「……偽勅(にせもの)では?」

「ふん。で、あろうな。宦官どもは(わし)がこの程度の企みを見抜けないとでも思っておるのか」


董卓は鼻先で笑い捨てたが、改めて豪奢な絹に書かれた勅命を読み返し、頭を捻った。

「いや、しかし、書式が完全に揃いすぎている……宦官がそこまで馬鹿でないとすると……」



「董閣下がお見抜きになるのは当然として、そのうえで「乗ってくれ」と誘うておるのでしょうなぁ」

その場の董卓軍の将校たちが一斉に声の方を見やった。

徐晃の後ろに座っている若白髪で痩せぎすな中年、賈詡(カク)だ。


「なるほど、(わし)が偽勅に従えば宦官の共犯でもはや一心同体ということだな」

董卓が唸る。


世間一般からは董卓は宦官派とみられている。董卓は宦官の人事により侯爵(だいみょう)前将軍(たいしょう)に引き立てられ、娘の董青は大宦官趙忠(チョウチュウ)の元部下で関係が深い。

董卓はあくまでも自分の武功で成り上がったと思っているが、評価をしたのは人事を担当した趙忠なのだ。


偽勅の共犯となれば宦官にこの先一生逆らえないであろう。

漢朝(このくに)として皇后がいないわけにはいかないので、それならば宦官の共犯の董卓の孫娘を皇后にするのが今後の宦官政権安定のために最善の手となる。


「しかし、このようなことをして、新帝陛下に叱られぬのか」

勅命の偽造は大罪である。決して許されることではない。


しかし賈詡は事もなげに言葉を連ねる。

「人間は一度成功したことは二回やりたがるものです。前回も宦官どもは先帝(霊帝)の即位直後に先帝(霊帝)の目の前で『外戚を反乱したと決めつけ』て誅殺(しょけい)し、反乱に怯えた先帝陛下の信用を得たのは閣下がご存じのことで」

「確かにな。多少の行き過ぎがあっても『反乱を防ぐための緊急事態でした』と丸め込むつもりか」


董卓の言葉に軽く頷く賈詡。

「まぁ、兵をまとめて政権を取ってしまえばたいていのことは何とでもなりますし」


まことに王侯將相寧有種乎(勝ったものが正しい)、長年宮中に住み着いている宦官たちからすれば、16の少年皇帝など何とでもなると思っているのだろう。


「しかし、ここまで短絡的に外戚を殺すなどという企てにはさすがに協力できんぞ。せいぜい脅すだけだと思っておったが……」

董卓が頭を抱える。



牛輔が何か思いついたかのように口を開いた。

「義父上、ここは我らが行かなければ良いのではないでしょうか。実際に外戚を殺す部隊がいなければ流血沙汰を避けることができるのでは?」

「それもそうだな……」


そこで董卓は勅命の下に添えてある竹簡を発見し、読み始めた。

「むむむ、荊州の孫堅にも上洛を命じているだと?!(わし)だけじゃ足らんのか!」

「それは宦官としては味方と考えているものをできるだけ多く集めるでしょうなぁ」



他人事のように言う賈詡を見て、牛輔が睨みつけるように言った。


「おい、そもそも貴様がなんで幕僚のような顔をして口をはさんでくるのだ。貴様は青の奴婢(どれい)ではないのか」

「いや、奴婢(どれい)ではなく……」


徐晃が説明しようとしますが、牛輔が遮ります。


「だから貴様は幕僚ではないのだから、発言権などないと言っている!」

「これは大変な失礼を。この舌がどうも勝手に話し出すことがありましてな」


賈詡が謝ってるのか冗談かよく分からないことを言って頭を下げる。

董卓が押しとどめた。


「よいよい。なかなかモノが見えているようだ。さて、この董卓。偽勅を貰ったが、偽勅に従うべきでないとも思う。どうするのがよいか?策があろう。申してみよ」

「上洛し、政権を取り、偽勅を告発して宦官を成敗し、服喪の後の新帝に政治をお返しすれば董閣下は救国の中心として垂名竹帛(名を歴史に残る)とできましょう」

「なるほど、それもよいな……ん?」


と、ここまで言ったところで、董卓は徐晃の表情が強張っているのに気が付いた。

徐晃が改めて頭を下げて董卓に縋りつく。

「董将軍、どうか上洛だけはおやめください。お嬢様(董青)もそうおっしゃっています」


「ん??……おい、賈詡よ。さっきの策は青の意見ではないのか?」

「……あ、えーえっと」

董卓が賈詡に問い詰めると、賈詡は目に見えて冷汗をかき始めた。


「……もうしわけございません!この賈詡の舌が勝手に策を!」

平伏(どげざ)する賈詡。


賈詡としてはそうすべきだと思っているので勝手に舌が献策したのだ。どうも自分の主人は最近気が弱くなっている気がしてならない。妊娠したせいだろうか。


董卓は納得しがたい顔つきで徐晃を問い詰める。

「しかし、(ジョコウ)よ。こやつの策のほうが正しいような気がするぞ。それでもか?」

「……お嬢様(董青)は『父上が軍を率いて上洛されるのがまずい』と」

「いや、どうまずいのだ?」

「『皆殺されてしまう、歴史が』と泣きながら仰っておられました」

「は??」


その場に少し白けたような空気が流れた。

まったく理屈に合わない、感情に任せているだけではないだろうか。

やはり女子供の言うことは……



と、董卓は思わなかった。



「いかん?!青が!?あの青が泣いただと?!軍は解散じゃ!!貴様ら涼州へ帰れぃ!!!」

いつもありがとうございます。感想も嬉しいです!


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@kana_ides

#董卓の娘


ニコニコで董卓伝和訳などアップしています。ついったらからどうぞ。

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現行連載作  迷宮伯嫡子はカネがない

大借金で領地取りつぶしの危機である。頼れる親や重臣たちは外出中、財布は空で留守番役。
状況を切り抜ける特別なご加護や卓越した武勇や超魔力なんかもない。
そんな状況だけどボクは前向きに取り組んでいく。
まずは軍資金ゼロで軍隊を動員?できなきゃ領地は大変だ?
― 新着の感想 ―
[一言] ①前々から董家の未来に関わる事について知っているのではと疑っていた ②『董卓』の名前を知った途端に大泣きされた ③黄巾の乱の予知が成功して自分の所だけは平和に終わった ④割と『お告げ』が信じ…
[一言] そりゃ董卓パパからしたら河伯の巫女としての実績がバッチリあるし、お告げの一環だと考えれば従うよね。
[良い点] 面白い [一言] 青ちゃんが泣くレベルでヤバいってなったらそら解散させるよね
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