豪族世界
・日曜日の投下です(土曜日2回目の投下のつもりでした遅刻すみません)
孫堅さんに間違って逮捕されてしまった無害な馬商人を偽装している私。
一生懸命に孫堅さんに事情を訴えます。
「ということで、あの盗賊を牢屋に入れて懲らしめたいんですよ。髡鉗城旦にでもなれば性根を入れ替えるでしょうから」
「ちょっと待ちねぇ、商隊を襲ったんじゃねえのか?二十も三十もいたんだろ?」
「はい」
「それは群盗だから罪が一等重いぜ?全員まとめて棄市だ。しかも人を殺してたなら賊殺でこれも棄市だな」
孫堅さんがさらっと仰います。
うっ……盗賊の罪って重いんですね……。
自分が訴えたから、何十人もの人が斬り捨てられて市場に晒されるとか……。
……あれ?
いや、悪いのは盗賊ですよね。
それに私の信者を傷つけて私の銭……あ、いや銭行の銭を奪うとか死刑でも妥当では……?
これは一族皆殺しみたいな蛮行や三国志での虐殺じゃない。
大丈夫。
「それが裁きならばやむをえません、なので長沙に向かいたいんです」
「まぁ、ちょっと待ちねぇ」
引き続き事情を訴える私。
しかし、肩幅の広い江東猛虎さんは赤い頭巾を引っ張りながら後ろを振り向いてしまいました。
「おうい、まだかい?」
「ははっ、主公のお考えが当だってますだ。区星の手の者ですだな」
幽州訛りの武将が房子の外から入ってきて報告します。
お久しぶりです程普さん。
初めて聞く名前に頭を捻ります。
いや、名前が面白いのでどっかで聞いたことあるような気もしますが。
「区星……?」
「長沙近辺で最近ブイブイ言わせてる悪ぃ奴だな。兵は数千から万ってなもんよ」
「万って……そんなの野放しにして、長沙の太守は何やってんですか?!」
「長沙の区氏っていやぁ名族でよ。戦国時代は呉越の名工、欧冶子の子孫で、高官だって出してる。」
はぁ、欧冶子ってあの名剣、干将・莫耶を作った干将と莫耶の師匠だか父でしたっけ。
でも欧と区だと字が違いません?
いや、読みはオウで一緒なんですけど。
「で、あまりにも勢力が大きいんで、太守の命令も聞かずに、最近は税金を滞納したり、部曲を集めては気に入らない豪族をぶっ殺したり、商人を襲ったり好き勝手してるわけよ」
「なんで討伐されないんですか!」
「荊州南部じゃあ親戚も多くて仲間の豪族が庇うし、小さい商人なら襲われても泣き寝入り。太守は任期の間に面倒が起きないように見て見ぬふりってな」
孫堅さんが広い肩幅をすくめてやれやれという手振りをします。
「許せません!!!」
「そこで、区氏を恐れない他所もの……つまり木鈴さん、あんたの出番だぜ。いやぁ、董氏に手を出すなんてバカだねぇ?」
「……え、私が戦うんですか?」
「違う違う。ただ、訴えてくれたらいいんだぜ?太守じゃねぇ。俺にだ」
「へ?」
「いやぁ、区星の野郎はいつかぶん殴ってやろうと思ってたが、いーい口実が来やがったな?」
孫堅さんがニヤリと笑いました。
しかし、洛陽から一か月の距離にある地方って、こうやって豪族が好き勝手してるんですね。太守が処罰しようにも土地の豪族が全員結託してたらどうしようもないわけで……。
そういえば三国志でも江南地方を支配してた呉って豪族の発言力が高くて、豪族連合みたいなところありましたよね。
しかし、なんでそんなに力が強いのか……。
北では農民に銭を貸して奴婢にしたり、土地を買い集めたりしてましたけど、堂々と太守を無視して行動するような規模ではなかったはずなんですけど。
― ― ― ― ―
というわけで哀れな洛陽の商人某の涙ながらの訴えを孫堅さんが上奏文にして洛陽の皇帝に送りました。
私も洛陽の弁くんに同時に手紙を送って、南荊州の豪族の横暴と太守の無能を書いて送ります。
折り返して早馬が飛んできました。
車騎将軍の趙忠さんから、長沙太守の印綬と区星討伐の命令が届いたのです。
北方出身の精鋭騎兵を中心にした、孫堅軍1万が長沙に進軍を開始しました。
船を使って湘水をさかのぼり、洞庭湖にはいりました。
「いやぁ、俺も宦官の命令で戦うようになっちまったか」
孫堅さんがニコニコなさっています。
口では宦官の文句を言いつつ、太守の任命が嬉しいみたいです。
そして船から長沙郡の景色を見ている私。
同じ船に乗っている私は、豪族たちが強い理由を知りました。
「……開拓地じゃないですかぁ……」
豊富な水と豊かな木々、そしてなだらかな山に谷が手つかずで目の前に広がっています。
河北は人余ってるのに、江南は土地が余ってるぅうううう?!!!
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・漢律(張家山漢簡『二年律令』)
賊傷人……皆黥為城旦舂。
盗五人以上相与功盗為群盗
群盗…… 皆磔
・漢書:景帝中二年「改磔曰棄市勿復磔」




