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タカヒコとエイク  作者: 電球食人びゃッこパス
3/4

朝食会議

「異世界人って、どうしてそれを……?!」


異世界人にそう呼ばれて驚くタカヒコに、青年は答える。


「その服、日本の学生服だろ? オレも異世界転生した身だから知ってるんだよ」

「えっ……ええ〜〜〜〜〜?!?!」


驚くタカヒコをよそに、少女が青年の服を摘む。


「ん?どうした?」

「あの……助けてくれたお礼、したい……」

「いや、オレは別に大したことしてないよ。助けを呼びに行ったアイツの判断がよかったんだ。例ならアイツにしてやってくれ」


青年がタカヒコに親指を向ける。


「じゃ、じゃぁわたし、朝ごはん、ごちそうする……お兄ちゃんも、いっしょ……いい?」

「もちろん!」

「やった……!お兄ちゃんの好きなとこ、いく……」



タカヒコは複雑な気持ちだった。


「俺の顔を立ててくれたのはいいけど……なんだ、この全く感謝されてない感じは……」





青年に案内され、朝食は市場から少し歩いたところにある店で食べることになった。

その店は牛丼屋だった。


「牛丼?! この世界、牛丼あんの?!」

「オレも昨日見つけたんだ。さ、入ろうぜ」


「いらっしゃい」と店主の声が響く店内。朝食時だと言うのに3人以外の客はおらず、繁盛していないようだ。


「おじさん、牛丼3人前!」

「あいよ」


青年が注文し、テーブル席に座る。青年の向かい側にタカヒコが座り。少女青年に密着するように隣に座った。タカヒコは、水を飲みながら目を細めて2人を見る。


「まずは自己紹介だな」


青年は言った。


「オレはエイク。エイク・オルアン。17年前にこっちの世界へ転生して、森の中の老師に拾われて育った。17年も森の中にいたから社会勉強してこいって言われて最近こっちに来たんだ」

「へぇ、17年…ってことは、俺と同い年か…」


タカヒコの呟きを、エイクが鼻で笑う。


「って言っても、俺が転生したのが32の時だけどな」

「じゃあ今年49か、おっさんじゃねえかよ!」

「バーカ、リセットしたから17歳なんだよ。それより、お前の名前も教えてくれよ」

「あ、ああ……俺は卯七(うしち)タカヒコ。一応お前と同じ17歳。一応な。けど俺は転生じゃなくて転移らしいんだ。突然のことで何が起こったのかはわかんないけど……」

「ふーん。まあいいや、で、後は君だね」


エイクが少女の頭に手を置く。

水を一口飲み、少女は名乗った。


「イベリス……」

「イベリスか。君はどうしてあんなところに?」

「…………」


イベリスは答えずに黙り込んだ。少しの沈黙ののち、3人分の牛丼が届きエイクが割り箸を配る。

タカヒコはまるで初めて割り箸を見るかのように眺める。


「箸だ……この世界、箸もあるんだな……いや、そんなことより早速食うぞ……!昨日から何も食ってないんだ!」

「そうだな、まずは腹を満たそう!」

「いただきます!」


タカヒコが牛丼をかき込む。唾液腺が痛むほどの旨味が口いっぱいに広がる。咀嚼しているうちに、涙が溢れた。


「うめぇ……うめぇ………! 牛丼をこんなに美味いと思ったの生まれて初めてだ……!」


タカヒコの感想を聞いた店主が鼻をこする。

何しろ1日ぶりの食事、うまくないはずがないのだ。

「泣くほどかよ」とあしらいながら牛丼を口に運ぶエイク。

イベリスももくもくと食べている。





一方、エイクに倒され、路地裏で気を失っていた男の1(モヒカン)が目を覚ました。彼は傷跡をさすりながら、自分がされたことを思い出し、拳を震わせていた。


「あの野郎ども……許さねえ……!!」





牛丼屋で朝食を進めながら、タカヒコは相談する。


「俺、転移した時に金とか売れそうなもの何も持ってなくって、今晩泊まる宿も決まってないんだ。どうしたらいい?」

「実はオレも金はあんまり持ってないんだ。でもオレが泊まってる宿ぐらいなら紹介してやるれよ。あとは……仕事と住むところだなぁ。いつまでも宿代払えるわけでもないし、オレも何か見つけなきゃなぁ」

「冒険者ギルドとかに入るとか?」

「どうやらそういうのはないらしい」

「う〜〜ん……」


腕を組んで考えるエイクに、イベリスが提案する。


「……腕に自信があるなら、賞金稼ぎが手っ取り早く大金を手に入れられる……」

「賞金稼ぎか。具体的にはどんなことをするんだ?」

「………」


タカヒコが尋ねるが、イベリスは何も答えない。

エイクが「イベリス?」と声をかけると、彼女は口を開く。


「……庶民から国王まで、いろんな人が出した依頼をこなして報酬を得る……役所に行けばいろいろ張り出されてるから、食べたら行ってみるのがいいと思う……」

「ちょっ、なんで俺には反応しないんだよ」

「人見知りにはよくあることさ。よし! じゃあ今日の予定は決まりだな!イベリス、タカヒコ、さっさとたいらげて行こうぜ!」

「……うん………」


自分に対するイベリスの反応に、タカヒコはいまいち釈然としなかった。


「そういえば、イベリスも連れて行くのかよ? 彼女は彼女で何か用事でもあるんじゃないのか?」

「それもそうだな。イベリス、君はどうする?」

「……わたしも、行くところ、ない……エイクについていきたい………」

「んじゃ、3人で行くか」


そうして3人は丼を平げ、金を置いて店を後にした。客がいなくなり、店主だけが残された空間には再び静寂が訪れた。


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