プロローグ
ある雨の日、駅前の広場は騒然としていた。傘をさして歩いていた少年に落雷が直撃し、一瞬のうちに傘と鞄を残して消えてしまったのだ。
少年の名は卯七タカヒコ。
筋肉も体脂肪もない17歳の高校生で、どこにでもいそうなブサイクな顔に、黒縁のメガネがより一層陰気な雰囲気を漂わせている。
下校途中のタカヒコはスマホを眺めながら駅に向かっていた最中、突然目の前が真っ白になり、雨の音が聞こえなくなった。
何が起こったのかと顔を上げると、扉があった。あたりを見回すと、真っ白な空間が静かに広がっている。
「えっ」と声が漏れる。
状況が飲み込めないでいると、扉の向こうから「次の方、どうぞ」と無機質な声が聞こえてきた。
ボーッと立ち尽くしていると、さらに扉の向こうから「はやく」と催促される。
恐る恐るドアノブを握り、扉を開けると、小さな面会室のような部屋に、白い机と椅子が置かれていた。ガラス窓の向こうは何も見えず、机の上にはマイクとスピーカーが置かれているのみだった。
不気味な空間に困惑していると、スピーカーから「お座りください」と単調な声で指示が出された。
タカヒコは言われた通りに座りマイクに話しかけてみた。
「あ、あの、ここは?」
スピーカーから返事が来る。
「イレギュラーな事態が発生しました。システムのバグにより召喚落雷が発射され、無関係な民間人に直撃し、こちらへ送られてしまいました。それがあなたです。」
「はぁ……?」
「あ、あの、質問いいですか?」
「あまり時間をかけることはできません、簡単な質問ならどうぞ」
「ここ、どこなんすか?」
「亡くなられた方の魂の次の配属場所を案内する窓口です」
「えっ、俺、死んだんですか?!」
「はい」
「ええっ?! お、俺はこれからどうなるんですか?」
「こちら側のミスの対処として、別の世界へ転移されます。規則上元の世界へ戻すことはできませんが、ご安心ください、補償として転移先で使えるモバイル端末を付与いたします。」
「端末って、スマホとかっすか?あの、使い方とかって普通のやつと違ったりとか……」
「デジタルネイティブ世代なので触っているうちに慣れるでしょう。」
唖然とするタカヒコ。10数秒もしないうちに、スピーカーが再び喋りだす。
「時間です。次の方が待っていますので、質問は以上とします。なお、ここで見聞きした情報は機密保持のため、記憶から消去されます。それではさようなら」
スピーカーからの声が聞こえなくなると同時に、再び視界が白くなる。
「ちょっ、待っ─────────!
気がつくと、タカヒコは大きな木のふもとでボーッと寝そべっていた。
「………って寒っ!」
体を起こして身震いすると、見渡す限りの草原が目に飛び込んできた。
空を見渡すとまだ日が昇ったばかりのようで、冷たい風が吹いていた。
「どこだここ……俺さっきまで駅で……」
頭に手を当てて記憶を巡らせていると、さっきまで持っていた鞄や傘がないことに気づく。全身のポケットを調べると、ジャケットの内側からスマートフォンが出てきたが、自分が持っていたものとは違い、画面には「生体認証済み」の文字が映し出されていた。
画面に指を触れてみると、見慣れたホーム画面に変わった。中のデータは自分が使っていたものと変わらなかったが、見慣れないアプリが追加されていた。「必殺」と書かれている。
「なんだこれ」と呟いてアプリを起動してみると、カメラモードのように向こうの景色が映し出された。画面の中央には円の中に十字マークと、まるで照準器のような模様が描かれていた。
「これで何をするんだ……?」
少し離れたところにある木を映し、画面に指を触れてみたが、何も起こらない。
と思ったが、指を触れ続けていると、だんだん画面が強く光り、スマホが熱を放ち、それを持つ手が強く震え出した。
驚いて指を離すと、その瞬間スマホの背面から太い光線が飛び出た。光線は映していた木に当たり、大きな爆発を起こした。
タカヒコは爆風に飛ばされ、後ろの木に打ち付けられ、しばらく痛みにのけぞった。
「いてて………何だよコレ……!」
スマホをひっくり返してみると、背面のレンズから煙が出ていた。
「こんなの……俺の知ってる世界の物じゃない……! まさかここ……!」
試しに地図アプリを起動してみるが、自分のいる周りには何もなかったが、少し離れたところに道があることがわかった。タカヒコはひとまずそこを目指して歩くことにした。
丘を越え、広い草原を歩き続け、夕方になる頃にようやく地図で見た道にたどり着いた。しかし普段慣れない距離を歩き続けたタカヒコは疲れ果て、道端の岩に腰を下ろす。
休憩がてらスマホをいじっていると、なぜかネットに繋がっていることがわかった。安心して知人に連絡しようとSNSアプリを開こうとしたが、何故か連絡手段を持つアプリはことごとく起動することができなかった。
今の彼が持っている唯一の荷物であるこのスマホは、情報を手に入れることはできるが、どうやら発信することはできなくなってしまったらしい。
すると急に大きな不安と孤独感に襲われた。
いつものように過ごしていたら突然見知らぬ場所におり、誰とも連絡することができない。
体にあたる風がより一層寒く感じる。
地図アプリを開き、この道がどこまで続くか辿ると、遠くに行けば街があることがわかった。しかし日が落ちていく中、喉も乾き、すでに歩き続ける体力はなくなっていた。
タカヒコは頭を抱えた。
体は疲れ果て、空はみるみる暗くなり、最後に話したのがあのスピーカーから出る無機質な音声だったことを思い出すと、涙が出てくる。
「これ……ひょっとしてアニメでよく見る異世界転移なのかよ………? 俺が知ってるのと違うぞ………!」
悲しみに打ちひしがれ、道の真ん中でうずくまるタカヒコ。
しかしじっとしていると、地面を伝わって何か音が聞こえてきた。顔を上げると、遠くから馬車が走ってくるのが見えた。
タカヒコは思わず両手を上げ、大声を出した。
「おっ、おぉ〜〜〜〜い!!」
彼の声に気づいた御者が、馬の足を止める。
「どうしたんだい、こんなところで」
「あっ、あの、この先の街へ行くんですか?」
「そうだけど」
「の、乗せてってくれませんか!」
「ああ、荷台でよければいいよ」
そうして馬車の荷台に乗り込むと、タカヒコはすぐに眠ってしまった。
読んでいただきありがとうございます。
電球食人びゃッこパス。
このお話は「よくある異世界ナーロッパで転生した最強系なろう系主人公とチー牛が出逢ったらありきたりな話でも面白くできるのか?」というコンセプトのもと、突発的に書いたものです。
ちなみに、作者はなろう系どころか小説すらまともに読まないため、小説としておかしい描写があるかもしれませんが、もし耐えられなかった場合は、そのままおくたばりください。
では、今後もよろしくお願いします。