5 自殺少女は本気で惚れる
芽生え
「送ってもらってありがとうございます」
夕飯を食べてから僕は彼女を自宅まで送っていた。彼女の家は予想に反して普通の一戸建てだった。てっきりかなりの豪邸かと思っていたが、外でお金を使ってる分こちらにはあまりお金をかけなかったのだろうと思っていると、彼女は苦笑して言った。
「本当なら、お茶でも出したいですけど生憎と人様が入れるほどに片付けてないので、すみません」
「ゴミ屋敷とかのレベル?」
「いえ、そもそも使ってるのが自分の部屋と洗面所だけなのであとはぐちゃぐちゃで」
「まあ、嫌じゃなければ近いうちに掃除でも手伝おうか?」
「気持ちだけで結構です。それに・・・どうせ掃除しても私しか帰ってきませんから」
そう寂しそうに笑う彼女に僕は少しだけ迷ってから思わず口にしていた。
「なら、家に住まない?」
「・・・え?」
「ここほど大きくはないけど、三食個室付き、妹と母さんもセットでつけよう」
「あの、そんな簡単に家族売っていいんですか?そもそもご迷惑じゃ・・・」
いつもならここで冗談とでも言って誤魔化すかもしれないけど、その時はそんなことはせずに答えていた。
「今さら一人増えたところで何も変わらないさ。もし大丈夫なら恵の両親の連絡先だけ教えてくれる?」
「両親のですか?」
「未成年が他人の家に住むなら一応両親の同意が必要だからね」
「でも、あの二人が許可してくれるかどうか・・・」
「ま、そこは僕に任せて、恵の本音を聞きたいな」
そう言うと少しだけ迷ってから彼女は言った。
「・・・できるなら、のぞみくん達と一緒にいたい。でも、迷惑かけちゃうかもしれないし、それにのぞみくんと一緒に住むならのぞみくんとそういう関係だって誤解させちゃうかもしれない。そしたらのぞみくんに迷惑かけちゃう」
ま、ある意味同居に近いからな。姑と小姑付き。嫌な物件だろうがそんなことは問題ではないのだろう。なら、僕の言うべきことは一つだけだ。
「別にいいんじゃない?」
「え?」
「恵が迷惑に思うなら断ってもいいけど、僕は気にしないから」
「どうして、そこまで・・・」
「そうだね・・・多分、恵のこと好きだからだろうね」
今日だけの印象できっと少なからず好意を抱いてしまったのだろう。寂しそうにこちらを見る彼女のその純粋さにひかれてしまったのだろう。その孤独を癒してあげたいと。だから・・・
「ま、面倒なことは僕に全部任せてよ。だから恵は恵の答えを出してくれればいいさ」
そう笑うと、恵は何故か胸を抑えながら小さく頷くのだった。そうして僕は恵の両親の連絡先を教えてもらってから時間的におそらく逢瀬のタイミングギリギリなので早速電話をしてサクッと言質を取るのだった。向こうも早く電話を切りたいのかあっさりと承諾してくれた。それを録音したので万が一の場合も大丈夫だろう。そうして僕は恵を家に迎えるために最後の説得、母さんと妹の待つ家へと向かうのだった。
「ふぅ・・・」
ベッドに倒れこんでから恵はため息をつく。
「本当に色々あったな・・・」
自殺をしようとしたら、それを止められて家にまで呼ばれて、家族の温かさに触れてから、美味しい手料理を食べて、そして・・・
「好きって・・・言われちゃった」
思い出すだけでも胸が高鳴る。あの笑顔とその言葉に恵はすっかり魅了されてしまっていたのだ。今まで何人かの男子から告白されたことはあった。でも、皆自分のことを邪な目で見てくるので恵はあんなに純粋な好きという言葉が凄く嬉しかった。
「こんなにチョロかったんだ私・・・ふふ」
そう笑ってから恵は自覚する。自分はのぞみのことが異性として好きなのだということに。だから、恵は貰ったチャンスは逃がさない。
「例え、あれが嘘でも、私もう止まらないから」
そうして恵の中で新しい自分が完成しつつあった。小さな想いは燃え上がり業火となる。そんなことを知るよしもないのぞみを置いておいて、恵は固く決意するのだった。絶対にのぞみから離れないと。




