4 自殺少女は挨拶をする
家族イベント
『ただいまー』
玄関から母さんの声が聞こえてくる。仕事から帰ってきた母さんかまず最初にやることは子供達にちょっかいを出すこと。僕の元へはつまみ食いに、和泉の元へはイタズラをしにいく母さんなのだが、今日は珍しく普通に入ってきて言った。
「のぞみ、あんた女の子連れ込んだの?」
「んー、まあそうね」
「なぁに?あんたに彼女出来たってきいたらブラコンの和泉が発狂するわね。もしかして狙ってやったの?」
「大丈夫、和泉がなつくくらいにはいい子だから」
そう答えると母さんは笑って言った。
「それで、連れ込んでオイタをする前に和泉に邪魔されたから一人で夕飯作ってるのかしら?」
「ま、そうね。まだ手は出せてないね」
「心にもないこと言うわね。女の子と手を繋いだこともないチェリーのくせに」
「貞操は好きな人のために取っておくものでしょ」
男の初めてというのは女よりも価値は低いが、決して無というわけでもない。そもそも僕はそこいらの女を普通に抱けるほど欲求不満ではなかったりする。万年発情期の人間にはわからないだろうが、僕としては全く知らない他人を抱くなんて吐き気がするほどに嫌なのだ。
そんな僕の台詞に笑ってから母さんは少しだけ真面目な顔で聞いたきた。
「それで?何か訳ありなのかしら?」
「まあね。ちょっとデリケートな子だからあんまり詮索しないであげて欲しいかな。多分これからしばらくは僕が面倒みることになるから」
「ん、OK」
そう言ってから揚げたての唐揚げを一つ盗んでから母さんは和泉の部屋に行くのだった。
「わぁ・・・凄いですね」
和泉の部屋でひと悶着あってからあっという間に夕飯。本日のメニューは唐揚げ、軽い野菜の煮物、ご飯、味噌汁というラインナップ。唐揚げは母さんと和泉の好物の一つなので少しだけ多めに作ってある。
「恵、苦手なものはない?」
「・・・!?だ、大丈夫です」
「そう。無理なものは残してもいいからね」
「はい。ありがとうございます、のぞみくん」
そんな僕と彼女のやり取りに母さんは笑って言った。
「初々しいねぇー、青春してて羨ましいわ」
「まあね。学生ですから」
「若くていいわねー、私の青春は何年前だったかしら」
「僕が産まれるより前には終わってるね」
「いいわねー、今からでも再婚しようかしら」
「ご自由に」
「あら?マザコンの息子の反応が冷たいわね」
マザコンとシスコンの気があるのは否定しないが、そこまで依存はしてないので普通の反応なのだろうと思う。そんな僕と母さんのやり取りを見て彼女はくすりと笑って言った。
「本当に仲良しなんですね」
「ええ、そうよ。だから恵ちゃんも私のことをお義母さんと呼んでいいのよ?」
「お、お義母さんですか?」
「急かしちゃダメですよお義母さん」
「ぶー、だって、今を逃したらのぞみがこんなに可愛い娘を連れてくることなんてないでしょ?」
否定はしないが・・・というか、予想以上に早く適応されていてびっくりするが、まあ彼女も楽しそうにしているのでいいだろう。僕は味噌汁を飲んでからガツガツ唐揚げを食べる和泉に言った。
「和泉、ちゃんと噛んで食べな」
「お腹空いてたんだもん」
「誰も取らない・・・とは言わないけど、そこまで焦らなくても大丈夫だから」
「はーい」
そう言ってから普通に食べる和泉。それを見てから僕はあまり食べてない彼女に言った。
「もしかして、量多かった?」
「い、いえ、ただなんというか・・・楽しいなって」
「楽しい?」
「はい、普段は食事なんてすぐに終わるただの作業だったのに今日は楽しいので、その・・・終わるのが寂しく感じるというか、変ですよね私。すみません」
そんなことを言う彼女に僕は笑顔で言った。
「なら、毎日でも来てくれていいよ。歓迎するから」
「いいのですか?」
「もちろん!待ってるわよ恵ちゃん!」
「うん、待ってる恵お姉ちゃん」
「と、二人も言ってるからね」
そう言うと彼女は嬉しそうに微笑むのだった。