2 自殺少女はストーカー予備軍
なんだかヤンデレになるまでまだ少しだけ時間がかかりそうだけど、そのうちなるはず(多分)
学校というのは僕にとって通過点に過ぎない。遠くない未来に来るであろう理不尽を耐えるための忍耐力と演技力を磨くための通過点。
きっと、社会人になれば学生より待遇がマシになるなんてこれっぽっちも考えてない。世の中にはブラック企業が多すぎる。そして悲しいことに自分にはそこに入るくらいの能力しかないことは承知している。
だったら努力をしろと言う人もいるかもしれないが、努力をしたところで凡人には限界がある。それにどれだけ努力したところでそれを目障りに思う人間というのはかなり多いので、努力というもの自体を表には出せない。
だからこそ、僕は自然と清らかなものを好む傾向にある。
料理の好みもハデなものより自然な味を。ファッションもシンプルに。性癖もノーマルに。友人も普通に会話のできる人間を。そして、女性の好みも清らかなものを好む。特に純粋にこちらに好意を向けてくる女性は大好きだ。
つまり何が言いたいのかというと・・・
「あのさ・・・そろそろ隠れてないで出てきたら?」
帰り道。後ろから隠れてこちらに視線を向けてくる彼女に僕はそう声をかける。すると、しばらくしてからおどおど出てきたのは先ほど自殺を諦めさせた銀髪美少女の名倉恵だった。彼女はしばらく黙ってからこちらに捨てられた子犬のような視線を向けてきて言った。
「・・・迷惑だった?」
「いんや、ストーカープレイも嫌いじゃないけど折角なら隣に来ない?男が怖いからそのままでもいいけど」
「いいの?」
「別に構わないよ。君と歩いて噂になっても僕にはプラスの要素しかないから」
そう言うとしばらく考えてから彼女はおずおずと隣に並んできた。僕は彼女のペースに合わせながら会話をする。
「学校には慣れた?」
「・・・まだ一人も友達がいません」
「ま、だろうね」
「どうしても、うまく話せないんです」
「うーん、なら明日から友達作りをはじめようか」
「そんな簡単に言われても・・・」
「簡単なことだよ」
友人を作るだけならそう難しいことではない。問題はその関係をどうやって維持するかだけだ。友人関係はどれだけ上手く相手の懐に入れるかによる。それこそ、共通の話題や趣味があれば簡単に輪の中に入れる。
まあ、それでもカーストを気にしているような人間やだれかを虐げることでしかコミュニケーションを取れない人間というのはいるので難しいのだが、僕の知る限りにおいて今の高校のクラスにそういった面倒な人間はいないので多分大丈夫だろう。
問題があるとすれば、どんな会話を彼女が出来るのかということだけど・・・女子の間で一番楽な話題はどんな世代でもこれしかないだろう。
「とりあえず名倉さんさ、恋話とか好き?」
「恋話ですか?」
「うん、明日僕がクラスの女子で名倉さんと合いそうな人を紹介するけど、その子と話すなら一番楽なのは恋話なんだよね」
「はぁ・・・そんなことで友達ができるのですか?」
「ま、騙されたと思ってやってみなよ。嫌いじゃないでしょ?」
「それは・・・人並みには好きですが」
うんうん。健全でよろしい。そうでなければ面白くない。
「あの・・・ところでどこに向かってるのですか?」
「ん?ああ、夕飯の買い出し」
「夕飯の・・・お母様が作るのではないのですか?」
「母子家庭だからね。基本的に家事は僕の仕事だよ。名倉さんも食べていく?」
「いいのですか?」
「もちろん、名倉さんの家みたいに豪華な料理は作れないだろうけど、お袋の味くらいなら作れるからね」
そう言うと彼女はくすりと笑って言った。
「そこは男の手料理とかじゃないんですか?」
「お袋の味の方が美味しそうでしょう?」
「確かに。でも私あんまり手作りとかは経験がないので少しだけ楽しみです」
「名倉さんは普段は食事はどうしてるの?」
「基本的には外食や出前です。お金だけ事前に渡されているので」
なるほど、かなりお金持ちなのはわかった。
「なら、門限とかも特にないの?」
「はい、二人とも帰ってきませんから」
「そっか、なら今日食べて気に入ったら折角なら僕の料理を毎日食べない?」
「ふぇ!?」
その言葉に顔を真っ赤にする彼女。何をそんな反応になるのか少しだけ考えてからプロポーズっぽく聞こえることに気付いたので僕は言った。
「外食ばっかりだと栄養偏るでしょ?それに名倉さんと仲良くしたいしね」
「な、仲良くって・・・どういう意味ですか?」
「どういう意味なら嬉しいのかな?」
「そ、それは・・・その・・・」
しばらくゴニョゴニョしてから彼女は答えた。
「その・・・橋本くんからの好意なら嫌ではないです」
「そっか。なら嬉しいよ」
「はい・・・」
そう言ってからはにかむ彼女の姿に不覚にもときめいてしまった。やはり清らかなものを見ていると心が潤う。これから先、この少女とどのような関係になろうとも、きっと後悔はないだろう。こんなに清らかな心を見れるとそう自然と思えたのだった。