14 自殺少女はただいまをする
帰宅
ピンポーン!という音が玄関から聞こえてきたので、僕は調理の手を止めて玄関に向かうと、鍵を開ける音と共に彼女が大荷物で入ってくる。
「おかえり、恵。荷物はそれだけ?」
「はい。残りは今度にしようかと」
「そうか。なら手伝おう」
「ありがとうございます・・・えへへ」
荷物を受け取ると何故か嬉しそうに微笑む彼女。
「なんだか幸せです。おかえりって言ってもらえるなんて」
「そういえば、まだただいまを聞いてないね」
「あ、すみません。えっと・・・ただいま」
「おかえり。じゃあ、部屋に行こうか」
そうして二階の恵の部屋まで荷物を運んでから僕は言った。
「夕飯はすぐにできるよ」
「じゃあ、部屋を整えたらすぐにお手伝いに行きます」
「ありがとう。母さんと和泉はやってくれないから助かるよ」
「そうなんですか?」
「まあ、仕事の疲れと、やりたいことがあるだろうからいいけどね」
忙しいのはわかっているので、この役割分担も不満はない。そう言うと彼女は微笑んで言った。
「のぞみくんは優しいですね」
「そうかな?」
「はい。のぞみくんはいつでも優しいです。でも少しだけ頑張りすぎるのでたまには私を頼ってください」
「ありがとう、恵」
そう笑うと少しだけ頬を赤く染める彼女。そして思い出したように制服のポケットから家の鍵を取り出して言った、
「のぞみくんからの信用を決して裏切りません。だから、その・・・こちらこそ、ありがとうございます」
「その信用に僕も答えよう。それじゃあ、僕は準備に戻るけどあとは大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
「あ、あともう一つだけ。一応この部屋は鍵をかけられるから。心配ならかけてもいいよ」
「鍵ですか?」
今さらながら気付いて驚く彼女。その無防備さにくすりと笑ってから僕は言った。
「ノックはするけど着替え中とかに入ったら大変でしょ?」
「あ、あの・・・のぞみくんなら私大丈夫ですよ」
「嬉しいけど、一応の礼儀としてね。それに恵にもプライベートな時間は欲しいでしょ」
「わ、私は、その・・・のぞみくんと一緒にいたいです」
「そう?ありがとう。僕は基本的に部屋に鍵はかけないから、いつでも遊びにきていいよ。眠るまでの話相手でもなんでも付き合うから」
その言葉にパアッと顔を明るくする彼女。分かりやすい反応に可愛いと思う気持ちが強くなるけど、自重しないと嫌われかねない。彼女が僕に悪くない感情を持ってくれているのはわかるけど、明確に好意と断定していいか悩んでいる。雛鳥が最初に見たものを親と認識するような刷り込みの可能性もあるので悩み所だ。でも、もし刷り込みでなかったら・・・その時は彼女なら受け入れたいと思う自分がいることも確かだ。




