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お祈りの日

作者: 緑の青葉


 嫌な予感がしていたのだ。

それに気付かないふりをしていた。聞かれる言葉は大体二種類。辛いぞ?未来は?

 どちらも知ったことじゃないんだ。

生きていくのに金がいるというのなら。金を稼ぐことが出来ない者は死人である。

いいや死人より悪い。やつらは墓の下で大人しく寝ているじゃあないか。

 とするとさしずめ金を使うだけで稼ぎもしない者は怨念かなにかか。いるだけで迷惑をかける。

 選ばれる選択肢の中にすら入れないのは努力が足りないからだと知った顔の奴が言う。

ではどうすればいいのか?聞いてもしたり顔で目を逸らすだけだ。

ついでに酒を飲んでいれば赤ら顔で続ける。そういうところがダメなんだと。

 聞くことが罪になるならお前の話も聞かないでおこう。


 最悪の曇り空。いっそ雨でも降ればいいんだ。シャワー代わりに気持ち良く濡れて帰って、本物のシャワーで身体を温める。そうしたら老廃物の戯言の聞こえない、自分の部屋に入ってアイスでも食べるんだ。それで状況が好転するわけじゃないが。気分だけは良くなる。

 顔のない臆病な愚者は荒いだけの口調で繰り言を繰り返す。

気分が悪くなる。ブラウザごと閉じてしまおう。

 口うるさい友人が心配をしているような顔でもっと頑張れと言う。

どうすればいいかと聞いたら、自分で探せと言われた。お前じゃなければその顔に唾でも吐きかけていたよ。

歩けば酒が回る。小銭で飲んで、小銭で食って。財布の中には小銭しかない。親に泣きつけば諭吉の顔くらい見れるんだろう。だが、それでどうなるっていうんだ?気まずい中で食う飯のどこが美味いんだ?

 だがこのシャワーも、この後のアイスも。どれもこれもが親の金だ。なるほど俺は寄生虫か。益虫なら良い。どうせそうじゃないんだろうが。


 幸運なことに部屋にはお気にい入りのウィスキーがなかった。買っていないからだ。嫌な思い出ばかりのウィスキーを取り出す。EarlyTimes。早い時?どうせ飲めば酔える。そこに何の違いもない。

 テレビを付けると大して面白くもないラインナップが並ぶ。このゴキブリような連中の下に自分がいると考えると、なんだか笑えてくる。このゴミ虫を撮っているやつ、編集しているやつ、あるいは書いているやつ。それよりも下だ。迷惑をかけている範囲で言えばホームレスよりはマシ。質で言えばその比じゃないが。なるほど楽しくなってきた。このまま笑い声で夜空を飾るのもいいが、近所、というより家内迷惑だ。止めておこう。


 テレビを切って魔法の箱の電源を入れる。ここには何でもある。本も、漫画も、映画も、音楽も、ライブも、ドラマも、スレも。無いのは仕事だけだ。

 いいや俺の仕事だけだ。

胃の辺りに嫌な感覚が生まれる。胃にでも穴が空くのか。いっそそのまま死ねればいい。よくある話だ。あぁ、だが。ゴミクズどもが面白可笑しく書き換えでもしたら困る。そこまで暇でもないか。それほど価値もないか。聞いた話じゃ三万だかの人間が行方不明になり、そのうちの何割かは見付からない。たまたま俺は見付かった死体になれるかもしれないというだけだ。見付からない方がレア度が高い。

 せめて働きだしてから胃に穴が出来れば治療費を奪い取ってやれるのに、働けないから穴が空きそうなのだ。全く嫌な身体め。お前がいるからこんなに生きづらいのだ。親もそう思っているのか。余計に胃が痛くなりそうだ。


 ただ普通に働くだけでも、某かの権利がいるのだ。例えばそれは新卒であったり、コネであったり、幸運であったりする。どれもない者は?努力が足りないそうだ。その言葉で済むと思うなよ。

 ただどれも持っていないだけで、人は落伍者になることができる。素晴らしき哉、人生。落ちるのは簡単だ。そして明日が今日より良い日とも限らない。まだまだ先は長い。落ちている最中なのだ。どこかで落下が止まり、どうにか登り出し、永遠とも言える時間の後にようやくこう言える。あぁ、今日は死ぬには良い日とだと。死ぬまでそんな日には、いいや死んでも出会えそうもない。


 回りだしたアルコールで、感覚があやふやになる。音はただの揺らぎとして脳を揺さぶり、光はただの色として脳を焼き、触覚だけはいやに鋭く、そのため鈍い。これじゃあ叩いているんだか打っているんだか分からない。そもそも頭がその辺を教えてくれない。誰も教えてくれないのだ。社会はそういうものだ。社会には出ていないが。少なくとも俺には誰も教えてくれないのだ。きっと誰かに助けられた人は星の数いて、誰かに見捨てられた人も同じだけいて、俺はそっちにいるだけだ。

 眠ったところで何か状況が変わるわけじゃない。だが、真っ当な人間は眠るものだ。ならそうなりたい者もそうすべきなのだ。そうでなくてはそうなれない。


 毎日、朝練と同じ時間に起きて、満員の電車に乗り、大して重要とも思えない仕事をする。自分や、その他や、あるいは関係のないミスでせっかくの仕事が台無しになり、頭を下げて回る。珍しく大きな仕事をこなせば実務だけ押し付けられて、名は持って行かれる。そして満員の電車に乗って、歓迎のない我が家に戻り、安い酒を飲んで寝る。それでいいのだ。それだけでいい。それすら手に入らない。


 それでも眠ってしまおう。そろそろ布団を干した方がいい。明日早く起きたら布団を干そう。スーツをクリーニングにも出そう。そして仕事を探すんだ。そうでもしなきゃ生きていけない。


 では俺はなぜ今生きているんだろうか?



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