自然少女との出会い
初めての作品です。
『自然』をテーマにしています。
読者の皆様が少しでも気に入って下さればこれに勝る喜びはありません。
拙い文章ですが読んで頂けますと嬉しいです。
「ねぇ……選んでよ。どちらにするのか」
君が僕に問いかける。
僕の目を、僕だけを強く見つめている。
辺りに咲いている桜の花びらがまるで涙の様に地面へと落ちていく。
「……っ」
僕はただそこに立ち尽くしていた。
それでも君のことだけは、はっきりと視界に捉えたまま……。
これまでのことが脳裏に思い出されてくる。
君と出会った一年前のことを。
『自然』それは水や木々といったこの世界に溢れているもの。
美しくそこにある自然がとても好きなんだ。何故かと言うと「落ち着くから」と答える。
僕が住むこの若葉町は自然に囲まれた小さな町だ。
若葉町は誰が見ても田舎と呼んでしまう場所だけどこの町で生まれ、育ってきた。
そんな僕の名前は森野誠。
この若葉町にある『若葉高校』に入学したばかりで勉強も運動もそこそこという自分で言うのもあれなんだけど、どこにでもいる普通の高校生だ。
そんなこと言ってたら高校に行く時間だ。少し慌てて準備をして家を出る。
「今日も空気がおいしい」
家を出れば外には川や田んぼと畑が広がっているくらい。
少し歩けばコンビニやスーパーは辛うじてあるけどショッピングモールとかになると車や電車を使わないと行けない距離になる。
不便だと思われるかもしれないけれど僕はこの町の生活に満足している。
登校中に川の水が流れる音や木々の葉の擦れる音が耳に心地よく聞こえる。
「おーい」
声をかけてきたのは親友の小山剣山。
何でもそつなくこなすことできるまるで物語の主人公みたいな凄いやつだ。
あと基本的にクールでかっこいい。
「よっす」
「おはよ剣山」
「碧は?」
「もう来てるみたいだな」
二人で歩くとよく知る女の子が待っていた。
彼女は若葉碧。
僕達の幼馴染で短く切られた黒髪と茶色の瞳が印象的で頭が良く運動神経が抜群なこれまた文武両道な女の子。
少し気の強いところはあるけどね。
「まことー、けんざーん。おはよー」
「おはよ」
「うーす」
「ごめん待った?」
「全然!」
いつもと同じ挨拶を交わす。
家族ぐるみで仲が良いこともあって僕らはいつも一緒だった。
小学校、中学校も同じで登下校も基本この三人だった。
これからも三人ずっと一緒に居られればと思ってる。
歩いていると碧がこんなことを言った。
「そういえば今日って転校生が来るらしいねー」
「え、そうなの?」
「昨日、田中が言ってただろー」
田中というのは担任教師の名前ね。
「そうだっけ……?」
「そうだよ。しかも女の子だって良かったねー」
碧が不敵な笑みを浮かべながらこちらを見る。
「可愛い女子だったら気をつけろよ、誠」
「え、なにに気を付けるの?」
「まことなら可愛い女の子に騙されそうだからじゃない?」
「二人は僕をなんだと思ってるんだよ……」
「困った人を放っておけない性格でしょ」
「誰にでもお節介を焼くお人好しだろ」
二人共、そう言うけど自分ではそんなことないと思うんだけどなぁ……。
「二人には僕がそう見えてたの?」
「見えたっつーかそんな感じだったよ、お前は」
「そうそう」
どうやら二人の中で僕はお節介焼きというレッテルを貼られてしまったようだ。
そんな話をしながら歩くこと数十分、僕らが通う高校が見えてくる。
『若葉高校』はこれといってなんの変哲もないただの高校。共学で偏差値も平均的な普通の学校だ。
まだ入学して一週間しか経ってないこともあり、僕はクラスに馴染めていない。
若葉高には同じ中学から入学した生徒もいるだろうけど、そもそも中学時代に友達が全然いなかった僕にはなかなかハードルが高い。
碧と剣山に至ってはさも当然のように持ち前のコミュニュケーション能力を存分に発揮してクラスメイト達と打ち解けている。
剣山は自分から話すタイプではないけど話しかけられても爽やかに対応することで上手くやり過ごしているようだ。
碧は明るい性格で誰にでも分け隔てなく接するからクラスで男女共に人気を得ている。
クラスメイトと話をする二人を尻目に僕はそのまま自分の席に座る。
すると横から声をかけられる。
「よー、誠」
声のする方に視線を向けるとそこにいたのは小野坂太一。
僕と同じ中学出身で顔はイケメンの部類に入るんだろうけどいかんせんチャラい。
悪いやつではないんだけどね。
碧と剣山の二人を除けば僕に声をかけたりするのはこの小野坂くらいだ。
「まだクラスに馴染めないのか?」
「むしろこの短期間で馴染める方が凄いと思うけど」
「そうか? 俺は結構慣れてきたけどな」
小野坂のしれっと言う態度に小馬鹿にされたような気になる。
「別に無理して話し相手を作る必要なんてないし」
「お前なー。最近の若者かよ」
「最近の若者だよ。僕も小野坂も」
「そんなんじゃこれからの高校生活困るんじゃねぇの?」
痛いところをついてくるやつだ。こちらも負けじと反論する。
「友達っていうのは信頼できる数人いればいいってどこかで見たことあるよ」
「その信頼できる数人には俺も含まれてるやつ?」
「それはない」
ニヤっとする小野坂を間髪入れずに否定する。
「違うのかよ~。それよりも誠」
「ん? 何?」
ここまでヘラヘラした態度だった小野坂の様子が変わった。
「彼女作んねぇの?」
「はぁ……」
正直、呆れた。
「大事なことだろー」
「学生の本分は勉強でしょ」
「でも高校での恋愛だって今しかできないことだぜ?」
「そうかもしれないけど相手がいないとできないことだし……」
僕を好いてくれる女性がいるとは思えないし、なんなら恋愛経験も皆無なのでとても僕には難しい話だ。
「勿体無いなぁ。今度俺が紹介してやろうか?」
「遠慮しておくよ」
「だよな」
小野坂は変わらずのテンションで話を続ける。
「でもさ。俺が思うに誠は好きな子がいないだけだと思うんだよな」
「うーん……。そうなのかなぁ……」
「前は好きな子いただろ?」
「それ小学生の時だよ」
「その子とは結局どうなったんだっけ?」
「何もなかったよ、別に」
僕が小学生の時に好きな子がいた。けど仲良くなるどころか話すことすらなくそのまま卒業してその恋とも言えるのか曖昧なものは終わってしまった。
「ふーん」
自分から聞いておいて素っ気ない返事をする小野坂をむっとして睨む。
「今ならどうよ」
「え……?」
「何もなかったのは小学生の時だろ? 今ならいけんだろ」
「分からないけど……」
「けど?」
「後悔はしたくないよね」
「お前らしいな。頑張れよ、応援するぜ」
「そんなすぐに恋愛なんてできないと思うけど」
「ところがどっこい。転校生がやってくるんだぜ!!」
今日一番のいい顔をする小野坂。
「まさか狙うつもり?」
「いんや今回はなしだな。残念ながら」
「あれ、今いるんだっけ?」
「まぁな」
小野坂はチャラいけど恋人が出来れば本気で付き合うみたいなんだよね。当たり前だけど。
「噂では転校生は美少女らしいって言われてるな」
「クラスは何組になるのかな」
「やっぱ気になるか?」
「そういうのじゃないって」
なんてたわいのない話をしていると担任の田中がやってきて小野坂やクラスの人達が一斉に席へと戻る。
「知っている人もいると思うが一組に転校生がきた」
田中先生の言葉にクラスがざわつく。
「ちなみに女子だぞー。良かったな野郎ども。女子はまぁ次に期待だな。次があるかわからんけど」
転校生が女子だとわかるや否や男子の喜ぶ声が聞こえる。
「一応、名前だけは教えとくからクラスは違うけど仲良くするようにー」
黒板に転校生の名前が書かれていく。
転校生かぁ。
どんな人なんだろう……。
理由もなくふとそう思った。
放課後になるとクラスがざわざわとする。
部活に行く人もいればそのまま帰宅する人、寄り道しようなんて声も聞こえる。
ちなみに僕は部活に入っていないから帰宅部だ。
「誠、帰ろうぜ」
気付いたら剣山が隣に来ていた。
「あ、うん」
帰り支度をしていると「またねー」と友人に声をかけた碧もやってきた。
部活に所属していない僕達は帰るのも一緒だ。
二人とも部活に入るつもりはないらしい。
どちらも文化部、運動部だろうといい結果を残せるだろうから勿体無いと思ってしまう。
前に聞いたら剣山は「誠が入らないなら俺も入らん」とのこと。
嬉しい反面どこか申し訳ない気持ちになる。
それを見抜いてか剣山が「気にすんな」って言ってくれた。
碧も隣で頷いている。
やっぱり僕には勿体無いくらいの自慢の二人だ。
「碧、剣山」
「ん?」
「いつもありがとう」
「おう」
「えへへ」
そう言うと二人は満足そうに笑顔を返してくれる。
昔から二人はいつも何かと僕に合わせようとしてくれた。
小学生の頃に何かと同じ班になってくれたり、中学の時は同じ委員会に入ってくれたりとなんかもう僕の保護者みたいだね、これ。
でもそんな二人の気遣いに僕はいつも助けられてきた。
いつか二人に何か恩返しをしたいと思ってる。
二人はそんなのいらないって言うだろうけどね。
「そうだ。二人はゴールデンウィークの予定ってある?」
碧がふとそんなことを言った。
今年のゴールデンウィークは稀に見る大型連休とかでクラスでもどこかに出掛けようかという話題が飛び交っていた。
「俺は暇。今年はどうするかー」
「私、夢の国行きたい!」
「めっちゃ混んでるだろ……」
「それでも行きたいの! まことはどこか行きたい場所はある?」
「僕は二人が行きたいところでいいよ」
二人がいれば正直、場所はどこでもいいんだよね。
「せっかくの休みだし念入りに計画を立てようね」
碧がはしゃぎながらスマートフォンを慣れた手付きで操作する。
「メンバーはどうするよ?」
「誰か誘いたい人いるー?」
話し合いになると必ず碧が進行役をしてくれて僕と剣山は意見があればその都度出すという流れになる。
「俺は特になし」
「僕は一人、候補がいないこともないけど」
「あ、誰か分かったわ」
誰か察した剣山の顔が歪むのが見えた。
「んー? 誰ー?」
「小野坂」
「あー、小野坂ね。別にいいんじゃない?」
剣山とは対照的に碧は問題ないという様子だ。
「剣山は小野坂が嫌いなんだっけ?」
「別にそういう訳じゃないんだけどな」
「ならなんで?」
「あー……。ああいう軽い男があんま好かんだけだ」
「確かに剣山って一途っぽいもんね」
今まで剣山に恋人がいるのを見たことも聞いたことがなかった気がする。
顔も性格もいい剣山なら女子からの人気はあると思うんだけどなぁ。
「けんざんは好きな子とかいないの?」
「……いない」
「えー、いるでしょー。教えてよー!」
碧に好きな人を聞かれた剣山は「いない」の一点張りだった。
その時の剣山の頬が少しだけ赤く染まっているように見えた。
翌日の昼休み、僕と剣山と碧の三人で連休の計画を練っていた。
ちなみに小野坂はなんだかんだで一緒に行くことになったけど、食堂にでも行ってるのかこの場にはいない。
「んで結局、何処に行くんだっけ? 夢の国?」
「絶対に夢の国! 人混みはもう仕方ない!」
大型連休ということで何処であろうと混んでいるから「どうせ出掛けるなら夢の国でしょ!」という碧の発言により行く先は『夢の国』に決定した。
「それ以外はどうする? この辺り何もねぇしなぁ……。誠の家にでも集まるか」
「せっかくだし他の場所も探してみよ! まことの家には行くけど」
大型連休ということもあって他にも選択肢がないか検討しているみたいだ。
ていうか僕の家に集まるのは決定なんだね……。
「ねぇ。ちょっといいかな?」
そこに声を掛けてきたのは二人の女子だった。
声の主は見かけた覚えがないから別のクラスの人だろうか。
「あたしは一組の日向楓! 楓って呼んで! 後ろにいるのは由佳莉。あたしの親友ね」
日向さんという元気な彼女は茶髪でショートボブをしている。
まるでギャルのような印象を受ける。
その後ろにはもう一人いてこちらは面識がある。
名前は水樹由佳莉。
水樹さんは肩にかかるくらいの真っ直ぐな黒髪で日向さんとは対照的に物静かな人だった気がする。
中学の頃に数回話したことがある程度だけどね。
「私は若葉碧。それでどうしたの?」
「そうだったー」
碧が言うと日向さんは「てへ」っとはにかみながら本題に入り始めた。
「君達って連休中にどこか遊びに行くのかな?」
「そうだよー」
「それって私達も一緒に行ったらダメかな?」
それを聞いた瞬間、碧の目が輝くのを僕は見逃さなかった。
「いいねそれ!! 大歓迎だよ!!」
「ホント!? そちらのお二人さん……は大丈夫かな?」
「まこと! けんざん! いいよね!?」
「まぁ」
「僕も大丈夫だよ」
こうなった碧は絶対に引かないことを知ってるから僕も剣山も同意する。
それに人が増えるのも悪くないと思うしね。
「やったね! あ、他に誰か行く人っている?」
「今のところはうちのクラスの小野坂君だけかな」
「ああ……あの噂のチャラ男クンね……」
別のクラスにもチャラ男で認知されてるって小野坂らしいなぁ……。
「これからよろしくね!」
「こっちこそよろしくね! 楓ちゃんと水樹さん……は由佳莉ちゃんって呼んでもいい?」
碧が言うと水樹さんが日向さんの後ろからひょこっと出てきた。
「うん! よろしくね碧ちゃん」
「レイン交換しよー!」
「うん!」
日向さんが待ってましたと言わんばかりの早さでスマホを取り出してトークアプリのレインを起動する。
「じゃ、後でグループ作って招待するね!」
「お願い!」
ここで昼休みが終わり人数が増えたこともあって改めて日程の調整をすることになった。
その日の内に日向さんからレインのグループの招待がきたので詳しいことはそこで決めるようだ。
グループには渋々(しぶしぶ)、小野坂も追加されてた。
少しばかり時間が経ち当日まで僅かとなった今日。
レインのグループでは毎日、主に女子達が楽しそうに話をしている。
目的地が夢の国については皆それで問題ないということで、日付もほぼ確定したし後は当日を待つだけになった。
学校の行事くらいでしか大人数で出掛けたことがない僕は正直とても楽しみだった。
「よーす。リア充ランド楽しみだな」
教室に行くと早速チャラいやつに絡まれた。
「楽しみなのは同意するけどその名前はどうかと思うよ」
天下の夢の国に大変失礼な男である。
「おっといけね。そんなことより誠君よ」
「まさかそんなことで終わらせるとは何事だ小野坂君よ」
小野坂の顔がいつもの気だるげな顔ではなく真面目な顔付きなことに気付いたので話を聞くために姿勢を正す。
この顔をした小野坂は冗談を言わないんだよね。多分。
「その……夢の国なんだけどさ。もう一人行きたいってやつがいるんだけど連れてってもいいと思うか……?」
「ん? 誰? まさか彼女とか言わないよね?」
「んな訳ないだろ。流石に俺でもそんなことしねぇって」
彼女ではないなら一体誰なんだろう?
「いや……ほら、あいつ」
「あいつ? あいつって? 僕も知ってる人?」
「おう。会ったこともあるぞ」
うーん……?
誰だろう……。
あー……。
「なるほどね……」
僕は察っした。
小野坂が誰の話をしているのかを。
「おお! 分かってくれたか! 流石だな。友よ」
「僕はてっきり一緒に行かないものだと思ってたけど」
「俺もそのつもりだったんだよ! でもどこからか嗅ぎつけたみたいでな……」
「ご愁傷様。一人増えてもいいかをグループで確認しておいてね」
「分かっとるよー。はぁ……」
大きな溜息を吐きながらガックリと肩を落とす小野坂だった。
その日の放課後、帰宅中に僕はある場所に向かっていた。
向かっていると言っても帰り道に通り過ぎる場所なんだけどね。
「碧、剣山、ちょっと寄ってもいい?」
「いいよー」
「おう」
二人はいつものことかーって感じで特に気にした様子でもないようだ。
「あれだったら先に帰ってていいよ?」
「ううん。ここで待ってる。そんなにかからないでしょ?」
「うん。すぐ戻ってくるよ」
碧が「早く戻らないと置いてくよ」って笑いかけてくれる。
剣山も碧に同調してくれている。
そんな二人を待たせないように目の前の階段を駆け上がる。
少し長い階段を登り終えると見えてくるのは神社だ。
『神月神社』と言って春だと満開で咲いている桜が見れる僕のオススメスポットだ。
この時期になると時間があれば桜を見に来るのが日課になっていた。
鳥居をくぐり境内に入ると綺麗な桜が舞っていた。
「凄いなぁ……」
自然と声に出ていた。
慣れた手付きでスマートフォンを取り出し、桜の写真を撮る。
いい風景の写真を撮るのが割と趣味になっていたりする。
「えっ?」
何枚か写真を撮り終わったところで突然どこからか声が聞こえた。
振り返るとそこにもう一人いることに気付いた。
その人は女の子でしかも若葉高校の制服を着ている。
整った顔立ちと長い黒髪が風で靡いている。
すれ違えば誰もが振り向くんじゃないかと思うほどに彼女はこの場において存在感を放っていた。
目が合うと彼女は少し驚いた顔ををしたがすぐに微笑んでこちらを見遣る。
そんな彼女から僕は視線を外すことができないでいた。
初めまして、奈倉憐です。
前書きでも言ったように初めての作品となりますが
『自然』というワードを使った作品を形にしたいと考えていて今回書いてみました。
拙いものではあると思いますが宜しければ目を通してくださると大変嬉しく思います。
基本的に読みやすくを意識して書きました。
感想等、是非ともよろしくお願いします。