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第29章:敵意2

「やっぱ、お酒と言えば焼酎が一番だよな」


良太と向かい合わせに優と舞が座り、良太は楽しそうにメニューを眺めている。


入ったお店は焼酎居酒屋だった。


「杉原君は、お酒飲めるんだろ?」


「……ええ」


良太とは対照的に優はムッとした表情を崩していない。


「じゃ、最初は俺のお勧めでいい?」


そういうと、良太は店員を呼びお酒と料理を適当に頼んだ。


舞は良太の意図がよくわからずに困惑している。


なぜ、この3人で食事をしなければいけないのだろう……。


ああ、早く帰りたい!


そんな舞の気持ちを知ってか知らずか、良太は運ばれて来た焼酎のグラスを持ったが


「乾杯……って、雰囲気じゃ……なさそうだな……」


結局、持ったグラスをそのまま自分の口元に運び一口飲んだ。


「大学時代の友人に熊本出身の奴がいてね、そいつとつるむようになってから焼酎にハマっちゃってさ。杉原君は毎日晩酌はする方?」


「ええ、まぁ」


「いつも何飲んでるの?」


「缶ビールと焼酎です」


良太はお店に入ってからは舞にではなく優にずっと話しかけ、優は良太の質問に不機嫌ではあるが一応丁寧に答えている。


しかし、舞にとってはそんなことはどうでもよく、その場の居心地の悪さについお酒のピッチが早くなっていく。


「焼酎は何飲んでるの?」


「部屋では、△△です」


「△△の麦焼酎ね。普段飲むにはお手頃でいい焼酎だよね。××は飲んだ事ある?」


「あぁ、あれは旨いですよね」


しぶしぶながら話していた優だったが、営業で普段人と話すのがうまい良太とのトークは、元々お酒が好きなこともあってかだんだん話が焼酎トークで弾み始めた。


そんな様子を見ていた舞は、ため息を吐いた。


なんなんだろこの2人は……。


あんなに険悪だったのに……。


女性では決して有り得ないシチュエーションに舞はますます困惑してしまう。


グラスが空になった舞は新しくお酒を頼む。


打ち合わせに行く時とは違い幾分か和んできたところで、店を出ることになった。


飲み過ぎたせいかお手洗いに行きたくなった舞は、良太と優の2人きりにするのはどうかと思ったが、断りを入れて洗面所へと向う。






良太と優は店の外で舞を待つことにした。


優は幾分か話をするようになったが、打ち合わせに行く時の挑発な態度と店でのフレンドリーな態度とを考えると、一体良太が何を考えているのか計り兼ねていた。


良太はタバコに火をつけ吸った煙を細く吐いた。


「舞は渡しませんから」


お店にいた時とは違い沈黙が2人を包んでいたが、優は良太を真っすぐ見据え低くハッキリと言った。


良太はタバコを口に運びながら薄く笑みを浮かべている。


「君は……、本当に彼女を受け止める事ができるのか?」


何か含みのあるような口調に優は目を細める。


「あなたが何を知っているのかは知りませんが、俺は俺なりのやり方で舞を受け止めるつもりですよ」


「せいぜい、お手並み拝見させてもらうよ」


良太はふっと笑い携帯灰皿でタバコを消した。


「じゃ、これで俺は帰らせてもらう。同じアパートに住んでるんじゃ俺が送ってく訳にはいかないからな」


良太は背中を向け歩き出したが、ふと足を止め肩越しに振り返りニヤリと笑った。


「そうそう。舞の事狙ってるヤツ、社内に結構居るって知ってたか? ライバルは俺だけじゃないぜ」


優を背に右手を軽く振りながら、夜の街へと歩いて行く良太の背中を忌々しく思いながら見送った。


ムカつくヤローだな。


なんだよ、あの余裕しゃくしゃくな態度は!


良太の姿が見えなくなる頃、舞が店から出て来た。


「あれ、新見主任は?」


キョロキョロと辺りを見渡している。


「先に帰ったよ」


「えっ、先に帰ったの?」


予想外の展開に舞は驚いていた様子だった。


「帰ろう」


優は舞の手を取りタクシーの拾える大通りまで歩いた。


「新見主任と何かあったの?」


「いや、別に……」


優の素っ気ない言い方が気になるのか舞は質問を続ける。


「何……、話してたの?」


「ん? 男同士の話……」


言葉少なめに語る優に舞は疑問に思っている様子だったが、そのまま口を噤んでしまった。


タクシーを降りると舞がおやすみを言って自分の部屋へ帰ろうとした時、優は舞の腕を引っ張り歩き出した。


「……優……?」


優は自分の部屋の鍵と扉を開けると、強引に舞を部屋へと入れた。


扉が閉まり優は鍵をかける。


優の不審な行動に舞は戸惑っているが、優は強く舞を抱きしめ唇を重ねた。


力強い腕にほとんど身動きが取れないままの舞に、いつもより強引に口を開かせ、口内をむさぼるように何度も角度を変えながら舞の舌を絡めとる。


唇が離れると耳元で囁くように


「今日は帰したくない」


舞が優の言葉に体が少し強張っていたのがわかったが、良太に挑発され余裕のある態度を見せつけられた優は、舞の心も体も全て知りたいという気持ちが押さえきれなくなっていた。


優は舞を抱き上げるとそのままベッドに寝かせ、覆い被さるように長く深く唇を重ねる。


唇が離れると舞の首筋にキスをし、優の手が舞の胸に触れる。


その瞬間、舞の体が震えるようにビクッとした。


その反応に優が顔を上げると、舞は両目をギュッと瞑り顔を横に向けいていた。


「……舞……?」


何かにジッと耐えているその様子に声をかけると


ゆっくりと瞼を開け、少し脅えるような眼差しが優を射竦めた。


その瞬間、罪悪感が湧き上がってきた優は瞼を閉じ、小さくため息を吐くとそっと舞を抱きしめた。


「……ごめん。……俺、ちょっと焦ってた。アイツに挑発されて……、舞の気持ちも考えずに先走ってた。……もう、無理に抱こうなんてしないから、しばらくのこのままでいさせて……」


すると、舞の腕が優の背中に回されるのを感じ、優は体を起こし舞を見た。


「ううん。私の方こそ……ごめんなさい。でも、大丈夫だから。だから……、このまま抱いて欲しい」


「…………」


「私ね、いままでいつも逃げてた。いろんな事から逃げる事で自分を安全な位置に置いて、出来るだけ傷つかないように……、人との関係もそう。でも、優なら……、優となら逃げずにちゃんと向き合えるかなって思ったの。いつまでも逃げてばかりではなにもかわらないから……」


優は愛しそうに舞の髪をなでる。


「無理……、しなくてもいいよ」


舞は首を振った。


「無理なんしてない。今、優が欲しいの」


「……舞……」


優は額に瞼に頬にそして唇にそっと口づけた。


「ホントに、いいの?」


舞は言葉の代わりに、優の背中に回した腕に力を込めてギュッと抱きしめ、自らの唇を優に押しあてた。


それに応えるように優は舞を抱き寄せた。



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