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第27章:誤解2

「あの時、説明しようとしたら人の話も聞かないて走り去って行っただろ。その後もずっと俺の事避けてるし」


睨むようにして言う優に、舞は優の視線を避けるように下を向いた。


優の話では、涼子は入社して1年程たった頃に長岡と付き合い始めたが、 社内恋愛はいろいろ周りがうるさく2人は周りに内緒で付き合っていた。


しかし、長岡は30過ぎても結婚していないのを心配した直属の上司である部長が、お見合いの話を持って来たのだ。


涼子との事を会社に内緒にしていた長岡は、上司からの話という事もあり断りきれずにお見合いをした。


それを知った涼子はその当てつけに、優と付き合っているふりをして欲しいと話を持ちかけてきたのだ。


2人が付き合っているのを知っているのは相原友香だけで、内緒で付き合っているために他の人には相談出来ず、 ちょうど転勤で同じ部署に配属になった優に彼氏役を頼んだらしい。


「引っ越しを手伝ってもらったお礼に行ったお店でその話をされて、最初は断ったんだよ。 だけど、部署が違うから社食で一緒に昼食を食べるだけでいいからって言われてさ。 それでしばらく一緒にいたけどやっぱりこんなことは良くないって話を踊り場でしていたのを舞がみかけたんだよ」


……そう……だったんだ。


結局、優と涼子の事は私の早とちりてこと?


それにしても、意外な組み合わせだなと舞は思った。


男子社員に人気のある涼子と、お世辞にも女性にもてるとはいえないタイプの長岡が付き合っていたなんて……。


「これで舞の疑念は払拭されたよな」


舞は顔を上げると優は腕をくみ、右手を顎にあてながら舞を見下ろしていた。


「今度は俺の疑問に答えてもらいたいんだけど……」


「疑問って……」


「営業部の主任とのこと」


優は相変わらず良太の事を名前では呼ばずにいたが、その口調は不機嫌そのものだ。


「新見主任のこと?」


優は目を細め


「忘れたとは言わせない。俺、あれから気になってずっと睡眠不足なんだからな」


近寄って来る優から逃げるようにあとずさると、背中に壁が当たりその場から動けなくなった。


優は舞の両肩近くの壁に両手をつけ、舞が逃げれないように左右を塞いだ。


「で、アイツとの関係は?」


優は舞の顔に自分の顔を近付け聞いた。


顔を近付けられ、しかも身動き出来ない状態に舞は心臓が飛び出るのではないかと思うほどドキドキしている。


舞はせめてもの抵抗に目線を優から外した。


「関係も何も……、新見主任とは私が大学生の時に知り合った人で……、特別な関係なんかじゃない」


「ふーん……。でも、向こうはそうは思ってなさそうだけど?」


優の言葉に河原での出来事が脳裏によぎり顔が赤くなった。


幸い暗い住宅街では顔が赤くなったのは気付かれていないだろう。


「舞はアイツの事どう思ってるの?」


「……どうも……、思ってないよ……」


「じゃ、俺の事は?」


急に話を変えられて驚いて目線を上げる。


優の真剣な眼差しと視線がぶつかると、そのまま視線を逸す事ができなくなった。


「俺の事はどう思ってる?」


どうしよう。


なんて答えたらいいんだろう……。


優の事は心惹かれていると思う。


これは好きと言う事なんだろうか……。


好き?


ああ、そうか。


いつのまにか優の事で気持ちが一杯になっていたから、こんなにも苦しいんだ。


自分の気持ちに気づいた舞だが、それを口に出すかどうか戸惑った。


しかし、優の舞を見る眼差しが質問への答えに有無を言わせなかった。


舞は小さく息を吸って自分の思いを伝えた。


「……す、き……」


とても小さな声だったが優は舞の言葉を聞くと、優しい笑顔になり


「俺も、……俺も舞の事が好きだ」


優は舞の頬に右手を添ると、舞の唇の感触を確かめる様に自分の唇を重ねる。


そのまま自分の舌を割込ませると、逃げ腰になっている舞の舌を強引に絡めとり、 息が出来なくなる程長く深い口付けをかわす。


ようやく唇が開放された時には舞は腰に力が入らず、優が手を回し支えてくれた。


「大丈夫?」


放心状態の舞は言葉が出ず、かろうじて首を縦に振った。


優は照れたように言う。


「俺、嬉しかったよ。舞から好きって言葉が聞けて。唯一残念なのはここじゃ押し倒せないことだな」


悪戯そうな笑顔を作り舞の頬にキスをした。


「歩ける?」


少しずつ自分を取り戻し始めた舞はようやく言葉が出た。


「……だっ、大丈夫……」


アパートに着くまでの間、優はずっと舞と手を繋いだままだった。


人前では手を繋ぐのは恥ずかしいと舞が言うと、また逃げられたら困るからと、冗談ぽく笑って言った。


アパートの前に着くと優が顔を近付けてきたので、またキスされるのかと思ったが


「俺の部屋、寄ってく? 舞の部屋でもいいけど」


と、艶やかな声で舞の耳元で囁き、耳朶を軽く噛んだ。


その行動に心臓を掴まれるようにドキッとした。


それって……、誘ってるんだよね……。


もちろん舞も経験がないわけではないが、こんなふうに誘われるとどうしていいかわからなくなる。


「きょ、今日は……もう……遅いし……」


舞はしどろもどろになりながら言うと、優はククッと笑い出した。


「舞って、からかうとホント面白いのな」


……からかわれたの……。


「もうっ! 知らないっ」


舞は呆れてアパートの階段へと歩き出した。


「ごめん」


舞を追いかけてきた優は後ろから舞を抱きしめる。


急に後ろから抱きしめられ再び心臓がドキッとする。


「からかって、ごめん……。でも、舞を抱きたいのはホント。……だけど、今日はやめとくね。 これ以上調子に乗って舞に嫌われたくないから」


優は少しの間後ろから舞を抱きしめていたが


「おやすみのキスしていい?」


と、耳元で囁いた。


舞が小さく頷くと、舞を自分の方に向け額にキスをし


「じゃ、また明日」

 

そう言って優は自分の部屋へ帰って行った。


舞は自分の部屋に帰るとヘナヘナと床に座り込んだ。


まだ心臓がドキドキしている。


優ってちょっと慣れすぎてない?


それに私、好き……って言っちゃった……。


優にも好きって言われて……。


思い出すと頬が熱くなってきて、舞は両手で頬を押さえた。



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