第19章:夕食
舞は少し目眩がしベッドで横になっているうちに寝てしまったようで、メールの着信音で目が覚めた。
メールを確認すると
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夕飯準備完了!
料理が冷めないうちに降りておいで
優
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本当に作ってくれたんだ。
舞は髪を梳かし薄く化粧をして優の部屋の前でインターホンを押した。
しばらくして優が扉を開け
「どうぞ」
と中へ入ると机の上にはすでに料理が並んでいた。
「すごーい!」
煮物を中心に焼き魚やお味噌汁、茶碗蒸しまである。
男の人でこんなふうに和食が作れるなんて……。
思っていた以上に立派な夕食に舞は感動していると
「ほら、早く座って」
優に促されテーブルの前に座り一緒に夕食を食べた。
「おいしい! これ本当に全部杉原君が作ったの?」
「当然!」
「なんか……、お嫁さんいらずだね」
「なに、そのお嫁さんいらずって」
舞の言葉に面白そうに優は聞いた。
「だって、こんなに完璧に料理が作れちゃうんじゃ、奥さんになった人は立場無いなぁと思って」
優はクスッと笑って
「どんなに上手に料理が作れても、やっぱり奥さんになった人の料理は食べたいよ。 まあ、俺の場合一緒に作るのも楽しいかなと思うけどね」
夕食が終わり、せめて片付けはやろうと舞が台所に行くと、
「いいよ。俺やっとくから」
「でも、いろいろやってもらって悪いから」
と結局2人で片付ける事になった。
「こうゆうのもなかなかいいもんだな」
優は洗った食器を拭きながら笑顔で言った。
「誰かと一緒に食べたり片付けたりするのって。俺、家で1人で居る事多かったから」
食器を洗い終わって手をタオルで拭きながら
「そうだね」
舞にとっては1人で居る事の方が居心地が良かった為、少しそっけない感じの答え方だった。
優は食器を棚に片付けるとお湯を沸かし、緑茶を入れてくれた。
男の人に緑茶をいれてもらうのはなんだか変な気がしたが、舞が体調を崩しているからコーヒーより緑茶の方がいいだろうとのことだった。
片付けが終わったからといってすぐ帰るのも気がひけ、舞は優とベッドを背もたれにしながら何を話す訳でもなく、並んでテレビを見ていた。
「舞」
急に名前を呼ばれ舞は体をビクッとさせ、優の方を見ると
「そんな警戒するなよ。まだ体調良くなってないんだろ。襲わないって、ってか俺何回この台詞言ってるんだろ……」
優は自分の言葉にガックリ肩を落としながらうなだれた。
「ご、ごめん」
「別にいいけどさぁ」
口を尖らせて拗ねている様子がいかにも年下らしくて、とてもかわいく見え少し可笑しかった。
「ホント、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだけど……」
「じゃ、ひとつだけお願い聞いてくれる?」
うなだれたまま上目遣い見る優にドキッとした。
「お願いごと?」
「そっ」
「出来ることだったら……」
舞が答えると、優はさっきとはうって変わって笑顔を作り
「じゃ、優って名前で呼んで」
「えっ!」
「だってさ、舞って初めて会ったときから一度も下の名前で呼んでくれた事ないだろ」
確かにそれはそうだけど……、でも……。
舞は困って下を向いていると、優が舞の顔を覗き込んだ。
「ダメ?」
甘えたように聞いてくる優。
「ダメじゃないけど……。急には……ちょっと……恥ずかしい……かな」
いいながら舞はだんだん声が小さくなってしまい、顔が赤なっていくのが自分でもわかった。
そんな様子を見ていた優は舞を抱きしめ
「赤くなって、かわいい」
優の言葉に舞はますます恥ずかしくなってしまった。
抱きしめられているから、顔が見えないのが幸いだ。
「こうしてたら顔見なくていいから、恥ずかしくないだろ。呼んで欲しいな」
いつもストレートな言葉を舞に投げかけてくる優。
そんな優に舞はいつも翻弄されているような気がする。
「ねぇ、舞」
少しせかすような、でもそれを楽しんでいるような優の声。
仕方なく舞は小さな声で呼んだ。
「ゆう……」
「ん、聞こえない」
もう一度、先程より声に力を込めて呼ぶ。
「優」
舞が名前を呼ぶと優は舞を腕から離し
「舞」
そう呼ぶと優は舞に顔を近づけやさしくキスをした。
そして、そのまま優は舞の唇に自分の舌を割り込ませ舌を絡ませる。
それは、自分の事を舞に刻み付けるように何度も深いキスをした。