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第15章:それぞれの家庭

次の週、舞と優は毎日同じ時間に仕事を終え一緒に帰っていたが、2人ともアパートまでの道のりを特に何をしゃべる訳でもなく歩く。


舞は優と涼子の事を頭に浮かべていた。


個人情報保護がうるさい会社で個人の住所は簡単には教えてはくれない事を考えると、きっと優が自分でアパートの住所を教えたのだろう。


最近は社員食堂でも総務の相田友香も含め3人で一緒に居る所をよくみかける。


気になりながらも舞は涼子の事を聞く事が出来ずにいた。


いや、聞いたところでどうにかなるわけでもない。


だけど、あまりに会話がないのもどうかと思い、まったく関係のない話を振った。


「男の人ってどんなものプレゼントされると喜ぶかな」


舞はおじさんへのプレゼントに悩んでいた。


女性へのプレゼントなら何かと思いつくのだが、40過ぎの男性へのプレゼントとなると何を送ったらいいのかわからず、毎年迷いながら結局ネクタイやネクタイピンなどになってしまう。


「プレゼント? 誰に送るの?」


「親戚のおじさん」


優は怪訝そうな顔で舞を見てる。


「私、両親いないから。中学から高校卒業まで親戚の家でお世話になっていたの。で、叔父さんの誕生会に何をプレゼントしたらいいか毎年困ってるんだよね」


優は驚いた顔で舞を見ていたが何事も無かったように


「そのオヤジいくつだよ」


「たぶん、40半ば」


「40半ばで誕生会ね。そんな年になってまで誕生会ってやるか、普通」


優の言葉が結衣の言葉と重なり舞はおかしくなった。


「何、笑ってるんだよ」


「別に」


「変なヤツ」


優は少し考えていたようだが


「プレゼントって言われてもなぁ。俺ん家、母子家庭だったから、それぐらいの年齢の人だと何をプレゼントしたらいいのか……」


「ごめん……」


優の意外な言葉に舞を立ち止まり下向いて謝った。


すると、優は舞の頭に手を乗せ髪をクシャッとした。


「気にするなよ。母子家庭なんて今時めずらしくもないし、今は再婚してるから」


舞は顔を上げると優はやさしく微笑んでいたが


「それに……、舞の方が大変そうじゃん」


真剣な眼差しで真っすぐ舞を見ていた。


そんな真剣な眼差しで見られ舞はまた下を向いてしまった。


「ごめん……」


「そこ、謝る所じゃないから」


言葉を言い終わらないうちに舞は優に抱きしめられていた。


「言ったろ。俺で良かったらいつでも胸を貸すからって。父親がいないだけでもつらい思いする事があるのに、 両親がいないんじゃ舞の方がもっとつらかっただろ」


優の胸の中で舞は優の心臓の音を聞きながら、その規則正しい心音に心地よさを感じた。


心臓の音ってこんなに心地いいものなんだ。


舞は今までつきあった彼氏に両親がいない事を告げた事があったが、みんな同情の言葉を一言二言言って、 その後は決して両親の事を話題に出さないよう気を使われるだけ。


こんなふうに抱きしめられる事なんてなかった。


それが当たり前だと思っていたし、それ以上の事を望んだ事はない。


優は抱きしめていた腕の力を緩めた。


舞が顔を上げると優は右手を舞の頬に触れた


「舞、泣きたいときはちゃんと泣けよ。がまんする必要なんてないんだから」


優のストレートな言葉が、とても心に響いてくる。


舞と優はしばらく見つめ合っていると、優の顔が近づいてきた。


お互いの唇が触れそうになった時、舞は顔を背けた。


キスをされるのが嫌だった訳ではない。


感情に流されてしまいそうになった事に怖さを感じたのだ。


このまま優に甘えてしまえば、二度と自分の足で立つ事ができなくなるのではないかと。


人の暖かみや優しさを受け入れることで、自分が自分でなくなってしまうような気がしたから。


優は舞を自分の腕から離した。


「ごめん」


舞は首を横に振る。


再び歩き始めたが、お互いずっと無言のままだった。



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