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第10章:過去1


幼児虐待のシーンがあります。

不快に思われる方は読まれるのをお止めください。

−− 舞5歳 −−


真っ暗な部屋の中、喉の乾きで舞は目が覚めた。


母親の美樹はまだ帰って来ていないのだろうか、2間あるアパートは静かだった。


美樹が帰っていれば台所へと続く隣の部屋の襖を夜開けることはないのだが、 居ないのであればかまわないだろうと、隣の部屋へと続いている襖を開けた。


すると、舞の目に映ったのは知らない男の下に抱かれキスをしている美樹の姿だった。


2人は服を着たまま濃厚なキスを繰り返していたが、襖が開いた事で美樹を上から覆い被さるように抱いていた男が振り返った。


男は驚いたように美樹を見下ろし


「お前、子供いたの?」


美樹はばつの悪そうな顔をした。


しばらくの沈黙の後


「悪い、俺帰るわ」


男が起き上がると、美樹は慌てて男を引き止めた。


「この子の事なら気にしなくていいから」


「俺、ガキは嫌いなんだよ」


男は振り向きもせずそれだけを言うと部屋を出て行った。


扉の閉まる音がすると美樹は睨むように舞を見る。


舞を睨んでいる美樹の目は、生みの親だとは思えない程冷たく鋭いものだった。


舞は竦み上がり、その場に立ちつくす。


「まったく! いつも邪魔するなって言ってるでしょ! 人の邪魔ばかりして、お前なんか生むんじゃなかった!」


殴られる!


とっさに身構えたが、美樹はヒステリックに叫びながら右足で舞の肩を蹴り飛ばした。


女性とはいえ大人に蹴り飛ばされ、体の小さい舞は勢いよく尻餅をつき後ろに1回転する。


そして追い打ちをかけるように、美樹の平手が舞の頬を叩く。


殴られた方の頬に手を当て恐怖に身を縮めている舞を、美樹は腕を組んで見下ろし


「お前のせいで私がどれだけ迷惑していると思ってるの! タダ飯食わしてやってるのに恩を仇でかえしやがって!」


それだけを言うと美樹は乱暴に襖を閉めた。


舞は座り込んだまま溢れてくる涙が止まらなかった。


しかし、決して声を上げて泣くような事はしない。


泣き声が聞こえれば、また美樹に殴られるのではないかという恐怖感があったからだ。


舞は溢れ出る涙をパジャマの袖で必死に拭いながら、ごめんなさいと心で呟いていた。






目が覚めた時、ベッドの横では優が座ったままベッドの縁に上半身を預け俯せの状態で寝ていた。


夢か……。


小さい頃の嫌な思い出……。


舞は上半身を起こすと優は気づいたようで


「起きた?」


「ありがとう、ずっと居てくれたんだ」


手に違和感を感じ目線をやると、優はずっと舞の手を握っていたようだった。


舞の目線に気づいた優は手に少し力を込め、片方の手を舞の頬に触れた。


「まだ少し辛そうだな」


舞は顔を横に振った。


「もう、大丈夫だよ。明日も仕事だし、もう帰った方がいいよ」


「俺のせいで嫌な思いさせたんだ。ほっとけない。それに……舞の大丈夫は信用出来ないから」


クスッと笑う優につられて、舞もつられて少し微笑むと


「ようやく笑った」


優はホッとしたように言った。


「舞、携帯出して」


「携帯?」


「そう。舞の携帯」


舞はベッドの脇に置いてあったバックを手に取り、携帯を取り出し優に手渡した。


何をするのかを見ていると、舞の携帯で何か操作をすると2種類の着信音が1回ずつ鳴った。


「俺の携帯番号とメルアドが発信歴とメール送信に記録されているから。何かあったら連絡して」


そう言うと優は舞に携帯を返した。


「少し元気になったみたいだから、俺帰るね」


舞は玄関先まで送り、優は靴を履き終えると舞の方を見て


「今日は、ホントにごめんな」


「そんなに気にしないで、杉原君が悪い訳じゃないから」


優はジッと舞を見た後に、右手を舞の頭の後ろに添えると軽く唇を重ねた。


「今日のお詫び」


舞は一瞬何が起こったのかわからず佇んでいたが、状況が飲み込める頃には優はドアの鍵を開け出て行った後だった。



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