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第1章:別れと出会い1


初めて書いた小説ですので、つたない文章もあるかとは思いますが楽しんでいただけたらと思います。

一部幼児虐待を記載したシーンがあります。

ご不快に思われる方は、読まれるのをお止めください。

8月の終わりの土曜日。


夏の暑い日差しが照りつける外とは違い、長く居ると肌寒いくらい冷房がきいた店内で、男と女がテーブルをはさんで座っている。


テーブルの上に置かれたコーヒーには手を付けることなく、お互い少し下を向いていた。


すると、男の方が意を決したように顔を上げ口を開いた。


「別れよう」


男の言葉を聞いた後、女はコーヒーに手を伸ばし一口飲む。


今日、会いたいと言われた時なんとなく別れを告げられるのではないかと予感はしていた。


だから、驚きはしなかった。


「そう、わかった」


女がそう答えると、男は少し下を向きため息を吐いた。


「舞、君は俺のこと好きじゃなかったんだな」


そう言われて、舞は少し戸惑った。


確かに、『愛しているか』と聞かれたらそれは違うような気がするが、少なくとも相手に対して好意があったから半年間つきあっていたのだ。


「佐伯さん……」


「君は俺なんかといなくても一人でやっていける」


それだけを言うと、佐伯は財布からお金を出しテーブルに置き


「じゃ」


と一言言って椅子から立ち上がり、店を後にした。


舞は店から出て行く佐伯の後ろ姿を見送りながら、小さくため息を吐いた。


『君は俺なんかといなくても一人でやっていける』


これで何度目だろう。


つきあった人から言われた台詞。


確かに、かわいげのない性格なのは自分自身よくわかっているつもりだが、こうも同じセルフを別れ際に何度も聞くといいかげんイヤになってくる。


いままでつきあった人はみんな向こうからつきあって欲しいと言ってきているのに、いつも別れを告げられるのは、舞の方だった。


肩より少し長めの髪に、美人とは言えないが28歳という年齢より若く見える顔立ちは決して悪くなく、言い寄ってくる男は少なくない。


舞は暑い中、人々が行き交う外の様子を窓から眺めながら、かつて別れを告げられた男達を思い出していた。


『もっと頼って欲しかった』


『僕より仕事の方が大事なんだね』


『なんで連絡くれないの』


『君には僕よりもっとふさわしい人がいる』


『君は僕を必要としていない』


別れ際に言われる台詞は、言葉は違うものの似たような台詞ばかりだった。


毎日の忙しい仕事の中、自分一人の時間も大切にしたいと思っていると、彼氏と会う時間も限られてしまう。


そのうえ、舞は電話やメールはあまり得意ではない。


電話は相手にとって都合の良い時間なのかを考えているうちに、つい電話をするタイミングを逃してしまい、メールだとどんな言葉を送ればいいのかを悩んでしまう。


もっと気楽に考えればいいのだが、そんな性格を簡単に直せるものでもなく、結局相手を苛つかせてしまうのだ。


残っていたコーヒーを飲み干し、もう一度小さくため息を吐いた。


そして、会計を済まし店を出る。


外に出ると、夏の日差しが照りつけてきて店内との温度差に一瞬目眩を起こしそうになるのを、ぐっと堪え駅の方へ歩き出した。


しばらく歩いていると、ふと後ろから声をかけられた。


「そこのお姉さん」


振り向くとそこには長身の男が一人立っていた。


20代前半ぐらいだろうか、親しみやすそうな笑顔を向けながら


「俺とデートしない?」


ナンパ……。


「今、急いでいますから」


そう言うと、舞は再び駅の方に向かって歩き出した。


男は舞の隣で一緒に歩きながら、屈託のない笑顔で


「まぁ、そう言わずに。男にふられた時はパアーと遊ぶのが一番だよ」


舞は足を止め、男を少し睨んだ。


「盗み聞きなんてずいぶん趣味が悪いのね」


「イヤ、盗み聞きなんて……。隣の席に座っていたから自然と聞こえてきただけだよ」


少し申し訳なさそうな顔をしている。


「なら、ほっといてもらえる。そんな気分じゃないの」


「でも、お姉さん泣いていたみたいだし」


泣いていた……?


私が……?


「どこをどう見ていたのか知らないけど、私涙を流した覚えはない」


「確かに涙は流れていなかったけど、でも泣いているように見えたんだ。ココが」


男は右手に拳を作り、親指を立て自分の胸を指した。


一瞬、言葉を失った。


自分で気づかないようにしていた心の奥を、言い当てられた気がしたから……。


「だから、俺とデートしよ」


いつもなら相手にするようなことはないのに。


なぜこんな返事をしたのかわからない。


ほんの気まぐれだったのかもしれない。


だけど、自然と言葉が出ていた。


「いいよ」


すると、男はうれしそうに舞の手をとり、駅とは反対方向へと歩き出した。



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