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新世界での学校経営  作者: MuiMui
第五章 ラントス騒乱編
99/123

094_災いは突然に

バルチ様の今日の一言


 こんにちはー、バルチだよ。

 何かねぇ、大変なことになってるってじーじが言ってた。ちょっとドキドキするね~。

 今日はお仕事お休みで、じーじと一緒にケーキを食べたんだけど、とっても美味しかったよ。ついつい、お代わりしちゃった。

 あっ、そうだっ! バルチ、じーじにお使いをお願いされちゃったんだよ。じーじからお願いされるなんて珍しいから、バルチ、頑張るっ。

 まだ空を飛べた時、彼に敵は存在しなかった。


 空を裂き、獲物の上空から急降下しながら爪を突き立てるその瞬間まで、暢気に草を食んでいたりしたものだ。


 それがある日、体が大きくなりいくら羽を動かしても空に飛び上がれなくなって以来、目の前に広がる世界が変わった。


 大きくなりすぎた体は、獲物を捕らえるのには不向きだった。今までの狩りでは前足と牙しか使ったことがなかったが、自然と尻尾を使うこと覚えた。


 尾を思いっきり振り回し、大地を切り裂き、樹木をなぎ倒しながら獲物を狩る事を覚えたが、それにも限界が来た。


 今の彼に捕まえることが出来る鈍重な獲物を狩り尽くしてしまったのだ。しかしそれにもかかわらず、いまだ彼の体は成長を続け、栄養を、食物を、要求し続ける。


 並であればここで力尽き土へと帰って行ったところだが、彼は一味違った。同じような仲間を集め、集団で狩りを行うようになったのだ。


 その作戦は成功し、再び彼とその仲間たちは腹を満たすことができるようになった。


 次第に仲間は増え、彼の体も大きくなり、強力な組織と固体に成長していったが、それにも破綻の時が来る。


 彼らの住処から、獲物と言う獲物が姿を消してしまったのだ。


 ほとんどの獲物たちは彼らに狩り尽くされ、わずかに残った獲物は生まれた地を放棄し、他所へと移って行った。


 再び獲物を捕らえることが出来なくなった彼と彼の仲間たちは、じわじわと締め付けるような飢餓感に包まれていく。


 だがそれにも転機が訪れる。皮肉にも、飢えにより研ぎ澄まされていた五感が、風に乗って微かに香る獲物の匂いを嗅ぎ取ったのだ。


 もはや選択の余地なく、今では巨大な組織の長となっていた彼の号令で、彼の仲間たちは匂いの元へと移動を開始する。


 腹いっぱいに獲物を貪る事だけしか考えることが出来なくなっていた彼らの頭には、匂いの元へと逸早いちはやくたどり着き、自らの欲望を満たす事しかなかったのだ。





「……それ、本気で言ってるの?」

「ああ。僕の予想通りなら、猶予はそれほどないよ」

「どうする、八十雄さん?」


 応接セットに座り額をつき合わせるようにしながら、3人の男たちが話をしている。テーブルの上にはノサモが色々な記録を調べ、その結果を書きこんであるこの周辺の地図が広げられていた。


 彼らの姿があるのは、ギルド会館の会館長室で、本来であれば会館長付き秘書の姿が傍らにあるはずなのに、今日は不在となっていた。


「ちなみに、45年前の襲撃の際は、何体がここまで来たんだ?」

「冒険者ギルドの記録では13体。傭兵や冒険者、ラントス所属の騎士や警備部隊などで迎撃したが、220名ほどが死亡したらしい。怪我人はもっと多いだろうし、その怪我で亡くなった人まで被害に入れたら、亡くなった人はもっと大勢いると思うよ」


「なぁ、ドリス。ざっとでいいから、このラントスのギルドに所属する傭兵や冒険者で、B級以上って何人くらいいるんだ?」

「そうだな……。登録上では300名くらいいるはずだが、他所の街に引っ越した連中や、依頼で離れている者、怪我や病気で動けない者もいるはずだし、良いとこ250いれば御の字ってところか」

「なるほどなぁ」


 八十雄はギルド会館長ドリスの話を聞きながら、必死に考え込んでいる。


「まずは町の有力者と、戦力のあてに出来そうな冒険者や傭兵たちを市庁舎2階の大会議室まで集められるだけ集めてくれ。対象はB級以上だ。それとギルド会館に窓口を設けているすべてのギルドにも代表者を寄越すように伝えてくれ。

 時間は2時間程度を目安に頼む。第一報はできるだけ早く出さないと意味がないからな。その時、ノサモには現在ラントスがおかれている状況を説明してもらわないといけないから、話をまとめといてくれ。頼む」

「任せておけ」


「それとノサモは、考えられる最悪の状況を俺に教えてくれ」

「ああ。分かった」


 熟考していた八十雄が口を開き指示を飛ばすと、ドリスはバネ仕掛けの人形のような勢いで部屋を飛び出して行った。そして主のいなくなった部屋の中では、八十雄とノサモは地図をにらみ付けながら、ラントスの未来を左右するかもしれない重要な議論を続けるのであった。




「おい、誰でも良いから手が空いている奴は力を貸してくれっ」


 足音も荒く、一階フロアーに移動したドリスは、ギルド会館メインフロアーにたむろしている各ギルドに所属する会員たちに向け大声を張り上げるが、ドリスに近づいたり協力を申し出る者はいない。


 お互いに顔を見合わせながら、誰もが躊躇ちゅうちょしているのには訳があった。


 ギルド会館長という特別な地位にいるドリスの顔と名前は知れ渡っていたが、元冒険者として相当にいかつい外見をしている。声も大きく体格も良いため、商売や農業を生業としている者にとっては、ちょっと近づきがたいのだ。


「おいおい、どうしたんだ会館長。あんたが慌てているなんて珍しいな」


 そう言いながら近づいてきたのは、ラントスに所属する古参の冒険者たちだった。彼らは仕事の終わりを報告に来たのか、服や靴が泥や返り血で汚れていた。


「ああ、お前たちかっ! ちょうど良かった。 悪いが、今からゴッヅ砦までひとっ走り使いに行ってくれないか。今、手紙を書くからそれを持って行ってくれ。もちろん、報酬は出すから」

「いや、そんなことくらいいつでもやってやるけどよ、何があったんだ?」


 今にも自ら飛び出していきそうな勢いのドリスに驚きながら、冒険者グループのリーダーは説明を求めた。


「……こんな所じゃ大っぴらに言えねぇ。ただ、ラントスにとって一大事が迫っている可能性がある。その対策を2時間後に市庁舎でやるから、お前らもゴッヅに行った後、出来れば時間の間に合うように来て欲しい」

「そういう事なら、なおさら金なんかいらねぇよ。おい、チカとカイトで依頼達成の手続きを済ましとけ。俺とゲラム、それにライオスで使いに行ってくるから。

 今から2時間後って事は、11時頃か。場所は市庁舎だな? ゴッヅ以外にも、宿屋や酒場に、武器屋も行った方がいいな。とにかく、誰でも呼んで良いのか?」


「声をかけるのはB級以上のメンバーだけにしてくれ。会場にも限りがあるからな。場所は市庁舎2階の大会議室だ。細かく理由を聞いてくる奴には、市庁舎で説明するって言ってくれ。招集をかけるのは、俺と八十雄さんの連名でだ」

「ああ、分かった。出来るだけ多くの奴に声をかけてくるぜ」


 そう言うと、冒険者のリーダーザップは、ドリスが書いたばかりの手紙を受け取り、ギルド会館の出口に足を向ける。彼の仲間たちも細かいことには口を出さず、自分のやるべき仕事に向けて歩を進めた。


「おーい、各ギルドに連絡事項があるから、ちょっと来てくれないかー」


 何事かと注目している職員たちに向け、会館地中に響き渡るほどの大声を上げる。普段、ドリスと顔を合わせることの多いギルド会館勤めの職員たちには、彼の地声が大きいのは知れ渡っている。


 何だろうと首を捻りながらも、徐々に人が集まってきた。


「それじゃ、これから事情を説明するから中会議室に入ってくれ。それと、ここでの話は市長の方から正式発表がない限り、他言無用を守ってくれよ」


 急に振って沸いた難題にドリスも頭を悩ませながら、先ほどの事情をかいつまんで説明していく。最初は何がなんだか分からなかったメンバーも、徐々に事態の大きさが理解できていくと、顔を真っ青にして泣き出す者まで現れた。


「話は以上だ。必ずギルドの幹部に報告し、11時には市庁舎2階の会議室まで行くように伝えてくれ」


 ある者は駆け足で、又ある者は気落ちし足を引きずるようにしながら部屋から出て行く。


 ドリスは最後の一人が部屋から出て行くのを確認すると、自分の今日のスケジュールを変更するため会館長室から退避を命じていた秘書が待つエリアに足を向けた。




「なぁ、バルチ。実はさ、ちょっと大変なことになっちゃうかもしれないんだ」

「ん~? じーじ、どうしたの?」


 今日は朝から少し話したい事があるとノサモに相談を受けていたため、バルチと一緒にギルド会館まで足を運んでいたのだが、思わぬ話のないように、午後からの予定は過ぎてキャンセルすることにした。


 すでに市の職員や学校関係者に通達は済ませ、今はバルチと冒険者ギルドの喫茶コーナーで軽食を食べている。


「ラントスにね、凄い大きいドラゴンが沢山襲ってくるかもしれないんだよ」

「わ~、それは大変だねぇ」


 食べていたケーキから目を離し、バルチは腕組みをしながら、うんうんと頷いている。


 だが八十雄は知っている。バルチは昔白竜山脈を越える時、遥か上空を飛んでいた豆粒ほどのサイズしかない飛竜しか見たことがないのを。ランドドラゴンはまだ見たことがないのを。


「午後から忙しくなりそうだから、早めにご飯を食べておかないと」

「うんうん。バルチも先にご飯を食べておくのは、賛成かもっ」


 1つ目を攻略し、早速2つ目のケーキに取り掛かりながら、バルチは非常にご機嫌だった。今が成長期真っ盛りのバルチにとって、いつでもお腹が空いているのだろう。どこに入るんだというくらい、そのほっそりした体に、大量の食べ物が吸い込まれていく。


「それでな、バルチにお願いがあるんだ」

「ん、なーにー?」


 スプーンを咥えながら、目をくりっくりさせてバルチは嬉しそうだ。それもそのはず、今までバルチが八十雄にお願いすることはあっても、八十雄の方からバルチにお願いすることは、ほとんどなかったのだから。


「じーじ、お手紙を書いたから、それを届けて欲しいんだよ」

「はーい、バルチ、ご飯を食べたら行ってくるね」


 八十雄が差し出した手紙を受け取りあて先を確かめると、バルチは自分の肩がけカバンの中に大事そうにしまった。


「牧場のセリオに言って、モモに乗っていけば良いから。そんなに慌てなくても良いけど、あんまり遅い時間にならないように頼めるかな?」

「バルチ、分かったよ。モモにお願いして、乗せて貰うね」


 そう言うとバルチは2個目のケーキ攻略を再開し、それを八十雄は優しそうな眼差しで見つめていた。




 食事も終わり、お使いに出発したバルチと分かれた八十雄は、市庁舎に足を向ける。そうは言っても市庁舎は公園を挟んだ向かいにあるため、大した距離でもないのだが。


 ちらりと今出てきた建物を振り返ると、街のシンボルともいえる大時計は10時を回った所だった。


「さて、どうしたもんかなぁ」


 両手をズボンのポケットに突っ込み、ぷらっぷらと歩く。やらなきゃならないことは山積みだが、慌ててことに取り掛かっても、決して成功はしない。まずは何をしなければならないのか、自分の中である程度は整理しておかなければならないのだが、それには大きな問題があった。


(そうなんだよね、俺って本物のドラゴンを見たことないんだよな~)


 噂話程度では何度も話題に上ったし、実際に戦ったノサモからその恐ろしさも聞いたことがある。だが、『百聞は一見にしかず』という言葉通り、いまいちドラゴンという存在がピンと来ないのだ。


「結構ピンチのはずなのに、なんかこう焦りや恐怖が無いというか……」


 そんなことを考えながら歩いているうちに、市庁舎の建物に到着してしまった。考え自体はまだまとまっていないが、後はラントスに住む仲間たちの力を借りながらこの難局を乗り越えるしかない。


 すでに市庁舎周辺にはどこかで見たことがあるような冒険者や、魔導師たちの姿がちらほら見える。中には顔見知りも含まれていたので、片手を上げ挨拶をしながら八十雄は市庁舎へと入っていった。


「あ、市長。言付け通り、2階の大会議室は空けて椅子も運んでおきましたが、これから何が起こるんですか?」

「おっ、流石に仕事が速いなー。急な用件頼んじゃって悪かったな」


 玄関ホールで八十雄を待っていた職員に対し、よっ、と軽く言葉を投げながら八十雄は近づいていく。


「実はさ、ちょっと問題が起きちゃって色々話し合う必要があるだよ。悪いけどさ、各課の責任者クラスの人間に11時までに2階の会議室に来るように伝えてもらえるかい? 何があったかは、その後に発表するからさ」


 抱えている問題とは裏腹に、八十雄の言葉や表情は明るい。職員の男とすれ違い様、男の肩をぽんっと叩き、そのまま2階に上がる階段へと向かった。


「あ、そうそう。これから多くの人が市庁舎の会議室に来るからよ、面倒くさい手続きとか簡略化して通してやってくれ」

「了解しました。そのように手配しておきます」


 後ろから聞こえてくる返事に感謝の言葉を返すと、八十雄は1人会議室へと姿を消した。


 その後、100名を越える職業も立場も違う者たちが市庁舎を訪れ、そのまま2階の会議室へと入っていった。何の統一性も無く、まるで接点が無い人たちが、ある者は駆け足で、また別の者は真剣な表情で集まってくるその様子に、市庁舎の職員たちもラントスに何が起ころうとしているのか首を傾げるばかりである。




 その頃バルチは、ラントス郊外のセリオが管理する牧場の柵にぶら下がりながら、元気に走っている馬たちを眺めていた。


 以前の林間学校で捕らえた盗賊たちの乗り馬も、今では荒い気性はなりを収め、調教師であるセリオやその補助をしているロイカの言うことに従順に従うようになっていた。


 学園でも偶然に手に入った馬たちの乗馬を授業に組み込んだりと、思わぬところで役に立っていたりする。


 今では、ほとんどの生徒が馬に普通に乗るくらいなら問題なくこなせるようになっていた。


 今も調教が続く牧場の中でバルチが見つめているのは、八十雄とバルチの愛馬であるモモと、今年生まれたばかりのモモの子供であるコモだ。


 元々モモは軍馬として調教され、とても賢く人の指示にも素直に従う大人しい気性をしている。その子供のコモは母親に似て可愛らしく、大人しい女の子だ。


 名付け親はバルチで、曰く『モモの子供だから、コモちゃん~』という理由で名前が決まったらしい。


 セリオの見立てでもコモは非常に賢いらしく、世話をしてくれるロイカやしょっちゅう可愛がっているバルチが名前を呼べば、離れた所にいてもちゃんと戻って来るのだ。


 特にバルチは、生まれたばかりのコモを自分の妹のように可愛がり面倒を見ていた。ブラシをかけたり、餌を上げたり、昼寝をしたり。時には一緒に牧場の中を走っている姿が何度も見られたほどだ。


 モモもバルチには心を開き、コモに近づいても警戒する様子は見せない。バルチとコモはいつでも仲良しだった。


 そのバルチが珍しくモモたちに声もかけず眺めているだけだった。柵に足をかけよじ登り、モモにじゃれ付いているコモの様子を静かに見ている。


「バルチちゃん、どうかしたのか? いつもみたいに、モモたちと遊んでいかないのかい?」

「う~ん、今日は良いかも……」


 柵の補修をしていたロイカがいつもと様子が違うバルチに気が付き声をかけたが、返ってきた返事も歯切れが悪い印象だった。


「どこか具合が悪いなら、遠慮なんかしてはいけないよ?」

「バルチ、元気だよ。何でもないんだからっ」


 心配するロイカに返事を返すと、バルチは柵から飛び降りた。


「それじゃ、バルチ、お使いに行って来るね。今日中に帰ってくるから」

「ちょっと、どこに行くんだ。そっちは街とは反対側だよっ」


 ロイカの言葉は聞こえなかったのか、ざっと砂煙を上げてバルチは走る。


 その遥か先には、霊峰ホール山が厳かにそびええ立っていた。




 今回から新章突入です。

 今まで名前だけ出ていたキャラクターを掘り起こす予定です。

 ちょっと長くなるかもしれません。

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