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新世界での学校経営  作者: MuiMui
第四章 学園編 第一部
98/123

093_なっちゃんのシチュー 後日談 ④

バルチ様の今日の一言


 こんにちはー、バルチだよ。

 最近ね、ノサモ先生が難しい顔をしていることが多いの。先生でもわからないことがあるのかな?

 そう言えば、バルチが毎朝ギルドに行くと、先生も時々ギルドで話をしているんだよね~。

 バルチは仕事の受付だけ済ますとすぐに出かけちゃうから、何をしているのか分からないの。今度教えてもらおうかな~。

「ねぇ、じーじ」

「ん、なんだい?」


 いつもの様に手をつなぎ、いつもの様に一緒に歩く八十雄とバルチは、ラントス中央方面に向け歩いている。


 今日は八十雄がギルド会館で会議があるため、毎朝ギルド会館に行くバルチは、いつもより長く手をつないで歩くことが出来るのだ。


「バルチねー、昨日食べたプルプル、凄い好きかもっ。とっても美味しかったんだもん」

「お、それは良かった。じーじも作った甲斐があったな」


 嬉しいのか、ピョンピョン跳ねながら歩くバルチに、八十雄も笑顔だ。


「じーじはお料理上手だね~。ちゅるちゅるとかも、どこで教わったの?」

「それはな、じーじが生まれた、とっても、とっても遠くの国で覚えたんだ。じーじには弟や妹が沢山いたから、作ってあげたら今のバルチみたいに喜んでたよ。懐かしいな」


 八十雄の両親は交通事故で亡くなり、八十雄は18歳まで孤児院で育った。独り立ちした後も、ちょくちょく育った孤児院まで足を運んでは自ら料理の腕を振るったり、クリスマスにはプレゼントを買い込んだりしていた。


 バルチが『プルプル』と呼んでいるデザートも、孤児院で人気の高かった一品だ。いつもは騒がしく、喧嘩や泣き声が耐えない孤児院も、八十雄がこのデザートを用意している時は、みんな自分の席について大人しく待っていたものだ。


「……じーじは、寂しくない? その国には、家族が待っているんでしょ?」

「そうだなぁ……」


 さっきまで元気一杯に振られていた手が、今ではそれも止まっている。ピンと立っていたはずの尻尾も、力なくへにゃっと垂れ下がっていた。


「寂しくないって言ったら嘘になるけど、じーじは大丈夫だ。だって、バルチが側にいてくれるからなー」

「わぁっ」


 八十雄は元気が無くなってしまったバルチを、左手一本で抱き上げた。不意打ちに驚いたバルチは、思わず歓声を上げる。


「じーじは急にどっかに行っちゃったりしないから、バルチは何も心配しなくて良いんだぞ。プルプルだって、ちゅるちゅるだって、バルチが好きな物は何でも作ってあげるからな」

「うん。じーじ、ありがと。バルチも、じーじの家の子でよかったよ」


 抱き上げられたバルチは、八十雄の頭をギュッと掴む。


 そのまま2人は日頃の他愛もない話をしながら、街並みの中に消えて行った。




 ドメルが八十雄の自宅に赴き、八十雄式・対腰痛用腰ベルトを貰ったり、ノニの店での作戦を授けられたりしてから数日が過ぎたある日、彼の代名詞とも言える金棒を手に、ドメルの姿はノニの店にあった。


 相変わらず開店前と言うのに、店の前には30名を超える行列ができている。


 ドメルと彼の配下である髭面の傭兵は、その列に並ぶことなく先頭まで歩くと、今だ開店の合図である旗が上がっていない店の入り口を、ドンドンと叩き始めた。


 先頭で並んでいるのは、そのほとんどが冒険者か傭兵だが、この暴挙とも言えるドメルの行動に対して文句を言える人はいなかった。皆、彼が何をするつもりなのか固唾かたずを呑んで見守っている。


「はーい、開店時間までまだしばらくありますよ~。どうされたんですか」

「これから説明を開始するから、例の看板を貸してくれよ」


 店の中から扉を開き出てきた女性店員に、髭面の男は『よっ』と軽く挨拶をすると、店員も『こんにちは』と挨拶を返した。


「ああ、今日から始めるんですね。お手数をおかけします」

「良いって、良いって。あ、看板も俺が運ぶからよ、中まで取りに行っても良いかい?」

「はい、どうぞ」


 そう言うと、店の中から男は大きな木の看板を運び出し、店の入り口の横に立てかけた。


「知らない奴はいないと思うけどよ、今日から俺たちゴッヅ傭兵団がこの店を取り仕切るようになったから、覚えといてくれよな」


 何が始まるのかと注目を集めながら、髭面の男は列を作って並ぶ者たちに説明を続ける。


「これからこの店の新しいルールについて説明するから、耳の穴をかっぽじって聞いてくれよ。

 まず、『なっちゃんのシチュー』を食べようと列に並んでいる連中に最初に言っておくが、これからは早い者勝ちではなく、抽選で誰が食べれるか決めるようになった。これはもう決定事項だから、異論は認めねぇ。

 これから詳細に説明するけど、その内容は全部この看板に書かれているから、分からなかった奴は後でじっくり読み直してくれ。それでも分からない奴には、もう一度説明してやるからな」


 そう言いながら髭面の男は、大きな看板をばしんと叩くと、途端に並んでいる列からブーイングとも言える不満の声が上がった。


 それに対しドメルは無言のままで金棒を持ち上げ、『ドシンッ』と『軽く』地面を叩く。するとあれだけ文句を言っていた連中が、一瞬で黙りこんでしまった。


「抽選の方法は、150本ほどあるくじを12時半頃から引き始め、30本入っている当りを引いた者が目的のシチューを食べれるって寸法だ。分かりやすいだろ。くじを引く順番は待っている列の先頭からだし、全員がくじを引いても当りが残っている場合は、残りのくじはまた先頭から無くなるまで引き直すから、早く並ぶ意味がまったく無くなるわけじゃねぇ。ここまでは良いな?」


 自分たちが多少でも優遇されると知って、並んでいる男たちも改めて話を聞く体勢になったようだ。


「それから、もし抽選で外れて食べることができなかった奴には、『ポイントカード』って言う物を渡すようになった。それがこれだ」


 そう言いながら髭面の男が取り出したのは、日本ではよく見る紙でできたポイントカードのような物だった。


「カードを貰った後も抽選に外れたら、そこに親父が持っている道具でチェックするようになっている。カードには全部で5回チェックできるようになっているが、それが全部埋まった人は次回、抽選の時にそのカードと引き換えに当たりくじと交換することができる。つまりは、6回抽選に外れたら、次回は必ず食べれるってことだ」

「もしよ、途中でそのカードをなくしたり、汚して駄目にしちゃったらどうなるんだ?」


 システムを理解した傭兵風の男が、手を上げて質問した。


「なくした奴は、最初からポイントを集めなおしだ。汚した奴も一緒。初めからやってもらう。

 カードの確認は俺が担当するからな。もし、誤魔化そうとしたり、不正を働こうとしたら、ただじゃおかねぇ」

「……わかってるよ。ドメルの旦那を騙そうとする奴なんか、この世にいないよ」

「ああ。誰だって、命は惜しいものな」


 男の質問にドメルが答え、それを聞いた男たちは身をすくめた。武に生きる者たちの中で、ドメルの存在はそれだけ重いのだ。


「後もう1つ。ナチャのお嬢ちゃんが今日からもう一品、料理を出すことになった。

 これは単品でも頼める甘いデザートだが、何でも作り方を八十雄さんに習った神の世界の食べ物だそうだ。俺も先日お呼ばれしたが、スゲェ美味かった。

 ちなみにこっちは、1日100個限定で、売切れ次第終わるそうだ」

「そんなに美味いのかい?」

「ああ、何ともいえない滑らかな感じって言えば良いのかな、とにかく甘くてプルプルで、食っちまうのが勿体無いくらいだった」


 今までであれば、食事などは体を動かすエネルギーが確保さえできれば、内容は何だってかまわないと思っていた男たちも、連日美味い飯をたらふく食って舌が肥えた今となっては、以前の生活には戻りたくないと考えるのは、至極当然だった。


 今ものどをごくりと鳴らしている者が、少なからず存在する。


「さあ、ここで考えてみようか。これからは、シチューが食べたければ12時半ばまで店の外で待たなければならない。だが、新しい新作メニューは開店と同時に売り出されていくから、それまで残っているかはわからねぇ。

 だが今、店の前で並んでいるお前たちは、幸いなことにどっちを優先するか選ぶ権利を持っている。確実に食べれる新作メニューと、食べれるか分からないシチュー、さあ、どっちにするんだ?」




「いらっしゃいませ~。何名様ですか?」


 ノニの食堂が開店され、次々にお客が吸い込まれていく。その様子を抽選待ちで並んでいるお客たちが、羨ましそうに眺めていた。


「ああ、3名だ」

「はい、ではこちらのテーブルまでどうぞ」


 接客担当の女性店員の後に続き、男たちは3人がけの丸テーブルまで通され、椅子に腰を下ろした。


「あれ、椅子の座り心地が凄く良くなってる」

「昨日まで普通の木の椅子だったよな?」


 男たちは、クッションの効いた椅子にびっくりしたようだ。


「実は、昨夜のうちに店の中の椅子はすべて交換したんですよ。今ではどの椅子に座っても、このふかふかの椅子ですよ」

「へぇ、そりゃ良いな」


 男たちには好意的に受け止められたようだ。しきりに何度も座り直したり、尻を揺すったりして座り具合を試している。


「どうぞ、こちらがメニューです。本日からメニューに、なっちゃんの新作が追加されました。デザートですが、お勧めですよ。

 落ち着きましたら、ご注文をお願いしますね」

「あっと、悪いな気を使わせて。すぐ注文するよ。そうだな、俺は焼肉定食にするか。なっちゃんのシチューも美味しいんだが、がっつり食べたい時は、焼肉定食だな。後、新作のデザートってのは、どんなのなんだい?」


 やはり新作メニューは気になるようで、他の2名も店員の説明を待っている。


「新しいメニューは冷やして食べるデザートなんですが、八十雄さんの生まれた国で食べられていたそうです。とっても甘くてプルプルで。わたしも一度食べたんですが、今まで食べたことがない触感と味でした。

 なっちゃんが作り方を八十雄さんから聞いて、一個一個手作りしたんですよ。プリンって言う名前の黄色いデザートです」




 八十雄が考えたのは、2、3日でいいから保存がきいてある程度数が作れる料理をナチャが作ることが出来れば、ナチャの料理がまったく食べれなくなってしまいストレスがたまっている女性ギルド職員を中心としたメンバーにまで料理が回るんじゃないかと考えたのだ。


 出来ればこちらの世界では見たことがないような、珍しい料理が望ましいが、八十雄が日常作っていたのはカレーや野菜炒めと言った、こちらの世界でも珍しくない物か、すでに広めてしまった物がほとんどであった。


 その中でも作り方が簡単で、こちらの世界でも材料が集められ、更に冷蔵であれば2日程度は保存が利くプリンに白羽の矢が立ったのだ。


 ネックになると思われたゼラチン類は、動物の骨や皮を原材料とする物がすでにこちらの世界にも存在したし、砂糖も最近交易が行われるようになった南方の小国の特産品で、値段が大分下がってきた。


 主原料の牛乳や卵も、セリオの牧場から代金を払って入手することが出来る。


「よーし、出来たぞ~。さあ、みんなで食ってみようか」

「わ~い」


 出崎家の台所で、試作で作ったプリンを魔道冷蔵庫から取り出し、居間のテーブルに座っているお客の前に置かれていく。


「これはカラメル入りの奴な。こっちは何も入っていない奴で、こっちはチョコレート味だ。一気に食べないで、どれが美味しいか、ちゃんと感想を聞かせてくれよ」

「は~いっ!」


 元気良く返事をするのは、スプーンを握った手を高く掲げているバルチだ。その他の試食担当であり、作り方を教わる予定のナチャと、セリオの牧場から牛乳と卵を運んできてくれたロイカは、初めて上がる八十雄の家に緊張しているのか、キョロキョロと視線が定まらず落ち着きがない。


 そんな2人を置き去りに、バルチはスプーンで掬ったプリンを口に運んでは「美味しい、美味しい」と連呼している。


「おいおい、お前たち2人もいつまでも緊張していないで、食べてくれないと試食にならないぞ」


 自分もスプーンでプリンを食べながら八十雄が笑いかけると、ナチャたちはおずおずとスプーンを手にし、半固形のプリンを掬い取って口に入れた。


「うわ……、せんせ、凄い美味しいよ」

「うん。わたしも、実家でも食べたことがありません。こんなにフルフルで、とっても美味しいです」


 いつも大人しいナチャも、普段から口数が少ないロイカもいつになく饒舌じょうぜつで、夢中でスプーンを動かしている。バルチもそうだが、女の子というのは、甘いデザートに目がないようだ。


 その様子を見ながら、こちらの世界でも日本のデザートは通用することを確信した八十雄であった。




 本日の開店にあわせ、ナチャは八十雄から教わったカラメル入りプリンを昼食が終わって比較的余裕がある午後から作り始めた。


 材料は、牛乳に卵黄、砂糖に、こちらの国のゼラチンだけで作ることが出来る。後は沸騰しないように気をつけながらプリン液を作り、別に作っておいたカラメルと一緒に容器に入れて冷やし固めれば完成だ。


 これだったら1度に沢山作れるし、冷やしてしまえばそのまましばらく置いておくこともできる。


 材料費も、一個当たり100円程度で作ることが出来たし、現在のナチャの所持金でも、十分支払うことが出来た。


 元々ノニの食堂には、魔道冷蔵庫のような高価なアイテムはなかったのがネックであったが、簡易式の冷蔵装置を八十雄が作り上げることにより、その問題も解決した。


 ドメルのコルセットにもつけてあったが、一定の熱を放ち続けたり、逆に、常に冷やし続ける小さな魔道具を、ドットに沢山送ってもらったのだ。


 確かに、通信機や時計などの魔道具も便利なのは間違いないが、こうした単純な性能の汎用性のある魔道具であれば、アイデア次第で如何様にもなる。


 八十雄が作ったのは、簡単な木でできた蓋付きの長方形の箱だ。その中に等間隔で冷蔵用の小型魔道具が設置され、中に入れた物を低温で冷やし続けることが出来るようになっていた。


 現在この箱はナチャが働く食堂の片隅に設置され、昨日のうちに作っておいたプリンが冷やされていた。


 注文が入るたび、ここから取り出されたプリンはお客に提供されるのだ。




「うぉ、スゲェ美味いな、プリンって言ったっけこれ。定食とセットだと200で食えるってんだから、単品で食うより100もお得だしな」

「はぁ~。久しぶりに食べたけど、やっぱりなっちゃんのシチューは最高ねっ。あっちのデザートも美味しそうだけど、今日はもう売り切れって事だから、明日にでも頼んでみようかしら」


 昨日までいがみ合っていたギルド職員と冒険者たちが、今日は同じ店内で笑っている。


 やはり八十雄の目論見どおり、ナチャが手がけた料理が食べられれば、それが何であれ満足する人は多そうだ。


 これならば、後は何も知らない旅人や、外国から来た貴族たちに気をつけていれば、喧嘩やいざこざが起こる心配はないだろう。


 そんな店内の様子を眺めながら、この仕事の唯一の特典とも言える『なっちゃんのシチュー』と『なっちゃんのプリン』を目の前に並べ、どちらから食べるか密かに頭を悩ませているドメルであった。




「これは、もしかすると……」


 ノサモはギルド会館で貸し出してもらった個室に資料を広げ、冒険者ギルドや傭兵ギルドの戦闘記録を確認しながら、暗い顔をしている。


 手元にはラントス周辺の地図に、危険な野生生物や悪性の種族の出没ポイントが出現したポイントが、日付と共に詳細に書き込まれていた。


 更にノサモは今から50年以上前の冒険者ギルドの日誌をめくりながら、内容を飛ばし読んでいく。読み進むにしたがって、眉間に刻まれた皺がより深く、数も増えていった。


「ほぼ、間違いないな。何か手を打たないと……」


 厳しい顔はそのままに読み進めていた日誌から顔を上げ、室内に広げていた資料は放置して、ノサモは地図を手に部屋の中から飛び出した。


 資料が散らかったままの室内で、最後にノサモが開いたままにしていた冒険者ギルドの日誌には、ここラントスにランドドラゴンの集団が襲い掛かり、多大な被害が出た災いの内容が記載されていた。





 読んで頂き、ありがとうございました。

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