表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新世界での学校経営  作者: MuiMui
第四章 学園編 第一部
93/123

088_信徒の悩める日々 ①

バルチ様の今日の一言


 最近のバルチ、調子がいまいちなんだよね~。

 稽古でもまるちゃんに全然勝てないし、う~ん、どうしたら良いのかなぁ。

 ……バルチ、難しいこと考えるの苦手だから、や~めた。

 今日はじーじが炊き込みご飯作るって言ってたから、いっぱいご飯を食べちゃおっと。ご飯食べてから考えれば良いよね~。

 王国の最も権威の高い中央神殿よりやってきたキースは、ラントスに来るまで予想していた生活と余りにかけ離れている現在の境遇に半ば呆れ、半ば馴染みかけている自分に驚きを隠せないでいた。


 幼い頃から光の属性に適正を示し、ギフトとして【光の加護】を授かったキースは、商人を生業としている生家から幼い頃に神殿に引き取られ、将来の幹部候補として文字通り光の当たる道を歩んできたのだ。


 今回の留学についても、女神様の使途である出崎八十雄様が建てられた学園において、神の国について学ぶつもりであったのだが、その計画は即座に頓挫とんざしてしまった。


 何故なら、学園長でもある出崎八十雄様は、女神様が住むという天上界のことについて、まったくと言って良いほど何も知らなかったからである。


 学園長が知っているのは、『白い空間にアルヴェちゃんが立ってたくらいかなぁ。他は良く覚えていないけど』と、ほとんど参考にならないことだけだった。


 学園長は、『どうしても聞きたいなら、神託を使って今から聞いてやろうか?』と言っていたが、そんな恐れ多いことをお願いできる訳もなく、キースは即座に断った。


 不満は他にもある。


 使徒であり現人神とも言える学園長は、いつも小汚い格好で街中を歩き、市井にまみれて仕事をしているのだ。言葉使いも乱暴で、女神に仕える者とは到底思えない。


 最初はラントスの支配者であり、使途である学園長に反論できる者がいないため、何か意見があって言いたくても言えない状況なのかと思っていたが、そうではなかった。学園長は自ら望んでそのような格好で歩き回り、思慮ある第三者が善意から諌めても、まったく聞き入れないのだ。


 また、ラントス市民の学園長に対する扱いにはうやうやしさの欠片もなく、近所の普通のおじさんに接するように気軽に対応している。最近慣れてきたが、初めて見た時は思わず大声を上げそうになったものだ。


 特に、学園の教師をしているマルゴと言う冒険者の学園長に対する扱いは酷く、何かあったら奢らせたり、ちょくちょく自宅に呼ばれては、食事を振舞ってもらっているようだ。女神信徒であればこそ、そこは断るところであるのに、彼女は毎週のように呼ばれてはご馳走になっているらしい。


 キースは、そのすべてが腹立たしく思っていた。




 女神教徒の中では天上界は光り輝く素晴らしい世界であり、その中心人物として女神様が君臨しその配下に多数の神々が控えていると考えられていた。


 もちろん、この世界にもアルヴェ以外の神の存在は多く認められており、それぞれ信仰している教団や組織が存在している。


 王国では国民の95%以上が女神教徒であり、国教とされているが、それ以外の神々を信仰していたとしても特にペナルティーなど存在しないのが現状だ。その理由として、女神アルヴェの権能が関係していた。


 『光』『自由』『平等』。


 これらの名の下に、公的な差別は一切ないと言われている。


 もちろん、目に見えないところでは一概にそうとも言えないのだが……。


 なんともやるせない気持ちで日々を過ごしていたキースであったが、このまま何も掴むことなく本国に帰るわけにも行かない。ならば学園長から彼が知り得るどんな小さいことでも聞き出し、記録に残そうと考えたのだ。




 午前の道徳の授業が終わり、同期たちがそれぞれの学習先もしくは働いている場所などに分かれていく中、キースは教室に残っていた学園長に思い切って話しかけた。


「学園長、神様の存在についてお聞きしても宜しいでしょうか」

「ああ、何でも聞いてくれ。俺が知っていることなら、何でも答えるからよ」


 キースが予想していたよりもあっさりと快諾かいだくの返事が貰え、しかもこの場で質問に回答してくれるようだ。


 周囲にいた他の生徒たちも興味を引かれたのか、数名が近寄ってきて学園長を中心に半円形の形に固まっていく。


「立って話をしても疲れちまうし、座って話そうか」


 そう言いながら、教室の隅から組み立て式の椅子を引っ張っり出して、八十雄は腰を下ろした。


「それじゃキース、何が聞きたいんだ?」

「はい。わたしたち女神信者は、女神アルヴェ様こそもっとも崇高な神だと教えを受けているのですが、その辺りの事について、是非お聞きしたいのです」

「……それはなかなかに、ヘビーな質問だなぁ」


 この質問に正直に答えると目の前の真面目な少年がえらく傷つく恐れがあったため、どう答えるか八十雄は一瞬考えたが、結局何一つ誤魔化すことなく本当のことを教えるようにしたようだ。


 座ったばかりの八十雄は立ち上がると、黒板に丸印を幾つか書き込んだ。


「この丸1つ1つが別の世界だと思ってくれればいい。それでアルヴェちゃんは、そのうちの1つを管理しているわけだ」


 そう言うと、黒板の丸の1つの中に『アルヴェ』と書き込んだ。


「俺がアルヴェちゃんの管理する世界に来ることを決めた時、このような世界が他にも50個以上あって、それぞれを管理している存在がいたんだよ。言うなれば、アルヴェちゃんの同僚ってわけだ」

「同僚、ですか?」

「ああ、そんな感じだ」


 そして、幾つか書き足した丸印の上に大きく『鈴木』と書き足した。


「彼らは自分たちのことを【管理者】と呼んでいた。それぞれが担当する世界の作り手であり、同時に見守っている存在らしい。そんな彼らの上司というか、更に上の存在として【主神】と呼ばれていたのが、【鈴木】って言う男の神だった。ちなみに俺は、その鈴木さんが管理する世界で生まれ、アルヴェちゃんが管理する世界に移動してきたってわけ」

「そんな、アルヴェ様が最高神と言うのが間違いだったなんて……」


 明かされた事実に、敬虔な女神信者であったキースは絶句する。


「そうは言ってもさ、世界同士で交流は一切ないんだから、この世界ではアルヴェちゃんが最高神ってことで間違いはないぞ。上位神である鈴木さんも勝手に手出しはできないようだし、そこまで気にすることじゃない」

「それは……、そうかもしれませんが……」


 今は多少ランキングが上がったが、八十雄が転移した当時、アルヴェのランキングが管理者中最下位だったことは言わなくて正解だっただろう。


「アルヴェちゃんは、光と自由と平等の女神だ。これからも平和な世界が続けばそれだけアルヴェちゃんの力も増していく。そうなれば今は光の加護が強いところにしか顕現けんげんできないけど、もっと色んな所で会えるようになるかもしれないなぁ」


 他にも色々聞きたいことがあったキースであったが、最初に聞いた内容が余りに衝撃的過ぎて、それ以降八十雄に質問することもできず、他の生徒が質問しそれに答える八十雄の回答もろくに耳に入ってこない。


(これは、記録に残していいものだろうか……)


 聞いてはいけないことを聞いてしまった気がするキースは、新たな悩みを抱えることになってしまった。




 神殿から派遣されている形になっているキースは、定期的に報告書を作成し本国中央神殿に送付することになっていたが、今回聞いた話は彼の日記の中のみに記録され、報告されることはなかった。


 自分以外にも多くの生徒がいる前で学園長が話されただけに、いつどこから漏れるか分からなかったが、できることならなかったことにしたい位だ。


「参ったな……。真実は時に残酷だ」


 寄宿舎で割り当てられた自室のベッドに倒れこみながら、キースは天井を見上げていた。明日は休みなので、これ以上今日中に行わなければならない用事はない。


 明日は市内にある治療院で、光属性魔法による治療ボランティアに参加する予定だ。王国から離れ1人で暮らしている現在、キースも自由に使える資金を得るため、働かなければならない。


 ラントスにある治療院での治療行為は、すべて無料で行われている。八十雄が導入したラントス運営における基本方針である『弱者救済』の理念にのっとり、必要な経費はすべてラントス評議会より支払われている。


 治療院では、通常の医師や看護師の他、キースのように回復魔法の使い手も随時募集され、休みごとに市内に出張診察所を設置しては、普段出歩くことができない病人や怪我人のケアを行っているのだ。


 そこでキースは休日限定ではあったが、毎回治療ボランティアに参加していたのだ。


 悩む心とは裏腹に、魔法の力は徐々に強くなっているようだった。いつの間にか、王国にいた頃には治せなかった怪我や病が治せるようになったり、そこまでいかなくとも、症状が回復に向かうようになったのだ。


 女神ともっとも縁が深いこの地で、その意図に通じる治療ボランティアに従事することによって、キースの中の光の力が強まっているようだった。


 もちろん、王国にいた頃も治療行為を行ったことはある。


 ただその相手は、貴族や豪商などの裕福な階級の住人だけだった。当然、その見返りとして高額なお布施が神殿に入ったことは間違いがない。だが、それが悪いと言うわけではない。王国ではそれが当たり前の事だったのだから。


 だが、ラントスでは違う。


 農民や町人どころか、人間以外の種族に対しても、何の区別もなくすべての者に対して治療行為が無料で行われるのだ。


 本来、人間族と他種族間には埋められない溝があった。いや、正確には今も残っている。


 その原因は、今から約20年前、王国が大軍を率いて神護の森に攻め入り、逆に獣人族に壊滅的なダメージを受けたからだ。


 それからは不倶戴天ふぐたいてんの存在として、極一部を除き人間側が一方的に憎んでいたのが、それも緩やかにではあるが変わりつつあった。


 それは使徒である八十雄の行動もあったが、何より猫人族であるバルチの存在が大きかった。


 王国の子供たちは小さい頃から獣人族は恐ろしい人食い種族だと散々脅かされて育つものだ。何か悪さをするたびに、『獣人が来て悪い子は食べちゃうぞ』『あんまり悪さをしていると、獣人の住む森に置いて行くぞ』と大人たちに言われることになる。


 それだけ忌み嫌われていたのだ。


 キースも王国にいる間は、獣人族は汚らわしくも恐ろしいものだと思っていた。


 だがそれは、ラントスに来て直ぐに打ち砕かれる。


 学園で散々お世話になっている職員たちのほとんどは、獣人たちの血を引く通称『混じり者』と呼ばれる者たちだが、彼女たちはとても親切で、まったく怖くなどないのだ。


 更に『女神様の愛娘』と呼ばれているバルチ様はその愛くるしい姿に見合わず、冒険者として確固たる地位を獲得していた。それは人間社会に受け入れられた証拠で、今やラントスのどこを歩いていたって、彼女に害を為そうとする者はいないだろう。


 そんな獣人や獣人の血を引く者たちを身近に感じ暮らしていく中で、キースは何が正しく何が誤りなのか、さっぱり分からなくなっていた。




 翌日。


 キースの姿はラントス市内の中央広場近くにある中央神殿にあった。本日は市内南部にある、比較的貧しい人たちが暮らしている地域で治療ボランティアを行うらしい。


 同時に炊き出しも行われ、擦り傷や火傷、打撲用の塗り薬や、風邪薬なども希望者に配られる。もちろんそれらも全て無料。


 キースは貴重な回復魔法の使い手としてそれなりの賃金を頂いているが、運営側の参加者はそのほとんどが無料での奉仕活動らしい。


「良いよ、良いよ。兄ちゃんは魔法使って大変なんだから、荷物なんか運ばなくて良いよ」

「荷物運びは、俺たちに任せとけって」


 リヤカーに山と詰まれた食材や調理道具を押しながら、ボランティアの男性たちは笑っている。額に汗を滲ませながら、男たちは仕事の状況や家族のことについて、楽しそうに話していた。


「兄ちゃんって、八十雄さんとこの生徒だろ? それも特別クラスって奴の。すげえよなぁ」

「回復魔法って、女神様の強い加護がなければ出来ないんだろ?」


「いや、僕は女神様の加護ではなく、光の加護があるのであって……」

「俺ら、学がないから難しいことは分からないけれどよ、若いのに大したもんだよ」


「それより、おじさんたちは報酬もないのに、どうしてそんなに楽しそうなんですか?」

「どうって、なあ?」

「ああ」


 男たちはちょっと困ったように顔を見合わせ、照れ臭そうに頭を掻いている。


「俺たちも八十雄さんに助けてもらったから、困っている人がいたら助けてやりたいよな」

「俺もラントスに来るまで住む所も仕事もなくて、本当に困っていたからなぁ。そういう奴らがいたら教えてやりたいんだよ。ここなら大丈夫だって」


 どうしてそれが楽しいことに繋がるのか、キースには良く分からなかった。




 目的地に着いた一堂はテントを建て、直ぐに炊き出しの準備を始めた。今日のメニューは卵と根菜類の入ったの雑炊と、ソーセージのような腸詰を焼いた物だった。


 同時に医療担当者たちもブースを開設し、徐々に集まりつつある患者たちの診察を開始している。


 そこでのキースの仕事は、体力の弱い子供や老人の治療や、足の怪我などで身動きできない人の家まで赴き、そこで治療を行うことだった。


 しかし全ての魔法使いにとって、魔法の元になるのは自らの体内に流れている魔力だ。時間の経過や、呼吸を繰り返すことによって、魔力は徐々に回復することはできるが、限界まで魔力を使えば気絶だけで済まず、命を落とす危険すらある。


 またそこまでいかなくとも、頭痛や吐き気、眩暈めまいなどの魔力欠乏症に襲われる。


 そのためキースは、全力で力を振るった経験は一度もなかった。いつもそれなりに力を使い、それなりの結果で満足していた。


「あ、治療院のお兄ちゃんっ!」

「おにいちゃ~んっ」


 そんなキースの力でも救われる存在がいる。


 市の事業として、移住して来た者や貧しい者たちに格安の料金で貸し出されている集合アパートから、幼い姉弟が走り出してくる。彼らは以前の治療ボランティアの時、姉のタキが高熱を出して寝込んでいると弟のタチが助けを求め、キースがここまで赴き回復魔法で治療したのだ。


 軽い魔法一回で熱が下がったタキとタチの姉弟はそれ以降、南部地区で治療ボランティアが開催されるたびに、キースのことを『治療院のお兄さん』と呼びまとわりついてくるのだ。


 すでに彼らに母親はなく、父親も靴職として働き始めたばかりで、とても裕福とは言えない。それでもこの姉弟はいつも楽しそうに遊んでいた。学校に通うにはまだ幼いので、そうやって日々を過ごしているのだろう。


 サンダルのような薄い履物でパタパタ足音を立てながら近寄ってきた2人は、左右からキースのズボンをギュッと握り締めてる。


「あっちのね、向かいの家に、膝が悪いおばあちゃんがいるの。直してあげてー」

「あげて~」


 キースは2人の幼い子供に挟まれて歩きながら、稼いだお金を使いこの姉弟のために買ってまだカバンの中に入っている丈夫な布でできた靴を、どのタイミングで渡したらいいのか、タイミングを見計らっていた。




 キースがラントスに来て、早2ヶ月。学びに来たはずなのに、分からないことが増え続ける日々。


 でも、一番分からなくなったのは、自分の心だった。


 僕は何ができて、何がしたいんだろう。


 キースの心は、先の見えない迷路の中をさ迷っている様だった。




 読んで頂き、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ