080_魔法使いになりたい ②
今週は時間がなくて少し短めです。ゴメンネ~
「ダルフォ君、わたくしたちは協力して事に当たったほうが良いかと思いますがどうでしょうか」
「……申し訳ないが、俺は俺のやり方で進めたいから、協力はできない」
スカー先生は2人同時で良いと仰いましたが、ダルフォ君はわたくしと協力する気はないようです。
「それは、わたくしが王国出身だからでしょうか。それとも、わたくしの実力が足りないからでしょうか」
「その両方だ。信用できない相手とは手なんて組めない」
流石にそこまで言われてしまえば、これ以上は何も言えません。そんなわたくしの目の前で、ダルフォ君は直径約50センチメートルの火球を作り出すと、10メートルほど先に浮かんでいる直径10センチメートルほどの水球を狙い投げつけ始めました。
速度も精度も申し分ないのですが、一直線にしか飛ばせないようです。そのためか、轟音を上げて飛んでいく火球は簡単に避けられてしまいました。
だがダルフォ君はその結果を確認することもなく、次々と火球を生み出しては投げつけていくのです。
私を遥かに超える魔力量と詠唱速度ですが、このままではいくら続けても水球を壊すことはできないでしょう。
スカー先生の水球はフワフワと空中を漂っていますが、完璧に制御されているのが窺えました。動きは不規則で、静止状態から回避行動まで非常にスムーズに動いていました。
おそらく、わたくしの拙い魔法ではいくら撃ったところでかすりもしないはずです。
以前までのわたくしであれば、闇雲に今行うことができる最大の魔法を撃ち続けていたでしょう。そう、今のダルフォ君のように。
ですが、この度の林間学校で学んだのです。考えることの大事さを。
1つ大きく深呼吸し、わたくしが使用したのはダルフォ君と同じ火球の魔法でした。ただし、そのサイズは5センチメートル程度。小さければ小さいだけ召還と維持に必要な魔力は減りますし、もそもそ、10センチメートル程度の水球を攻撃するのでしたらこのサイズで十分です。
この時点で、スカー先生が仰っていた制限時間の残りは2分程度。十分残っています。
わたくしは呼び出した火球をコントロールし、スカー先生の水球にゆっくりと近づけていきました。その間もダルフォ君は大きな火球を投げ続けていますが、まったく当たる気配がありません。
魔力的に限界が近づいているのでしょう。ダルフォ君は肩を大きく波打たせ、額には大粒の汗が浮かんでいました。
スカー先生の水球は、自由自在というのに相応しく自由に動き回っています。動きに予備動作はなく突然動くのですが、たった1つだけ確実に動くタイミングがありました。それは、ダルフォ君が投げつける火球を避ける時です。
利用しているようで悪く思いますが、わたくしにはそこを狙うことにしました。
「それっ」
ダルフォ君の火球を避けた直後の水球を目指し、わたくしの持てる限りの魔法制御力を振り絞ってわたくしの小さい火球を操りました。私の狙い通り、今までは揺ら揺らと掴み所がなかった先生の水球が、予想したとおりの軌道で移動したのです。
後一歩のところで先生の水球には避けられましたが、わたくしの火球が掠めたために白い水蒸気が上がったのです。
「じーじ、あとちょっとだったねぇ~」
「ああ、惜しかったな」
後ろの方から学園長とバルチ様の声が聞こえてきましたが、そちらを気にする余裕はまったくありませんでした。
水球の動きを目で追いながら、その周囲に火球を漂わせ隙を窺いつつ、ほんの一瞬見え隠れする僅かな隙にもてる限りの魔法制御力と今までの経験を注ぎ込む感覚に、わたくしは知らず知らずの内にのめり込んでいたのです。
「よし、もう3分経ったかな」
そう言いながら、スカー先生は操っていた水球を自らの手元まで呼び戻しました。最初に比べて若干そのサイズは小さくなっているかもしれませんが、その形は健在でした。
わたくしにとって、これほど集中した時間は今までなかったかもしれません。ほんの一瞬のような、何時間も経った後のような、不思議な感覚でした。
制限時間の間際にわたくしも最後の力を振り絞って1度攻撃した火球を更に操り、そこから改めてスカー先生の水球を狙ったのですが、僅かに掠めるだけで直撃させる事はできませんでした。
今までの攻撃を全て囮にするため1度操作した水球は直ぐには動かせないと印象付けていたつもりでしたが、それすらスカー先生には読まれていたようです。
結果かだけ見れば完敗でしたが、それほど悔しい感情は浮かんできませんでした。もちろん、相手は実戦で腕を磨いてきた一流の冒険者ですし、純粋な魔導師としての力量では天地ほどの差がある相手であることは理解していますが、今、自分ができる最善の方法を尽くせたことに対する満足感が心の中に満ちていました。
「2人ともお疲れだったな。お前らの癖や特性も大体掴めたから、この後教室に戻って色々教えてやるよ。
……ところでダルフォ、お前顔色が悪いが大丈夫か? 気持ち悪かったり、頭が痛くなったら直ぐに言えよ。まあ、お前の場合は急激に魔力を使いすぎただけだと思うからしばらく休んでいたら直ると思うけが。まあ、こうしたことも自ら体験しないと分からないから、いい経験をしたと思って諦めるしかない。チカヤの方は大丈夫そうだな」
ダルフォ君は青い顔をしながら両手を膝につき、辛そうにしてました。いかに魔力が多く自信があったとはいえ、あれほどの魔法を連発するのは無理があったようです。
「一息ついたら教室に戻り、貴方たちの特性について説明しましょう。それでは……」
「ええっと、度々邪魔して悪いんだけどよ。うちのバルチが妙にやる気になっててさ、ちょっと相手してやってくれねぇかな」
背後を振り返ると、申し訳なさそうな学園長の横でバルチ様が両手に大型のハンマーを握り締め、嬉しそうにブンブン振り回していたのです。
「ええ、もちろん良いですよ。ただし、今回は俺も本気でやらせてもらいます」
するとスカー先生は懐から大型のナイフを取り出し、鞘から抜き放ちました。ナイフの刀身には様々な模様と魔法文字が刻み込まれており、一見して高価な代物であることが分かりました。
「スカー先生、そのナイフは魔法武器でしょうか」
「よく知っていましたね。その通りです」
魔法武器は術者の魔法の威力や精度を高めてくれる特殊な武器で、高度な技術で作られており値段が非常に高価なのが特徴です。
「バルチ、スカー先生が相手してくれるって。良かったな~」
「わ~い。あのおっかけっこ面白そうだったからやってみたかったの。バルチ、ちょっと本気出してもいいかな?」
ナイフを構えたスカー先生が今まで維持していた水球を破棄し20センチメートル程の新しい水球を呼び出すとそれを圧縮し、先ほどと同じ10センチメートルほどの大きさに仕上げました。
完成した水球はナイフを構えたスカー先生の指示通りの動きを見せ、その速さは先ほどまでの比ではありませんでした。
「まあ誰かに迷惑をかけるわけでもないし、良っかな。『ちょっとだけ』なら本気で良いぞ」
「はーい、バルチ、頑張るねっ」
両手にハンマーを持ってピョンピン跳ねているバルチ様。
「それじゃあ始めますよ。制限時間は先ほどと同じ3分間。何をやっても良いですから、あの水球を破壊すればお嬢の勝ち。逃げ切れば俺の勝ちです」
スーッと移動した水球は、わたくしたちの時と同じく石垣の前まで移動するとピタリと停止しました。
「お嬢が準備でき次第、開始としましょう。俺の方はいつでも良いですよ」
「よーし、バルチ、頑張っちゃうっ!」
今まで嬉しそうに笑っていたバルチ様の雰囲気が変わりました。足を軽く開いて腰を落とし、水球に目を向け真剣な表情になりました。するとバルチ様の体の回りの空間が僅かに歪み始めたのです。
「2人ともお嬢から目を話さないように。魔導師には幾つか天敵ともいえる相手がいるが、お嬢はその最たるものだ。自分だったらどのように対処するか、考えながら見ているようにな」
その言葉が合図だったかのように、バルチ様は飛び出しました。わたくしの様に様子を見たりするような素振りは一切見せず、一直線に突き進んでいきます。その勢いそのままに、右手のハンマーを水球があった場所に振り落としますが、流石にその攻撃はかわされてしまいました。
見た目はちょっと大き目のハンマーですが、量さは見た目どおりではないようです。その証拠に自らが振るった武器の重さにバルチ様の体が振り回されていました。
「う~んと、はいっ」
だがそれすらも利用し、石垣を蹴ったり地面をハンマーで叩いたりして姿勢を制御しながら、バルチ様は一直線に水球に挑み続けます。
次第に調子が出てきたのか、体から陽炎のようなオーラを立ち昇らせながらバルチ様は水球に迫ります。壁や石垣、天井すら足場にして縦横無尽に走り回るその姿に、わたくしは目で追うことしかできませんでした。
スカー先生の水球も地面すれすれを動いたり、時には倍以上の大きさに膨張したり、逆に縮んだりとわたくしには思いもつかない制御技術でバルチ様の攻撃を紙一重にかわし続けていきました。
水球を操作するスカー先生の右手は、魔法武器のナイフを握り締め一時も休むことなく動き続けていました。
「よーし、制限時間の3分だ」
パンパンと手を叩きながら学園長が大声を張り上げると、それまで目にも止まらぬ速さで動き続けていたバルチ様はピタリと動きを止めました。
結局、3分間ではスカー先生の水球は破壊できなかったのです。
テクテクと、ハンマーを腰のフォルダーに仕舞って戻ってきたバルチ様は、何かを成し遂げた者のように満足げな顔で戻ってきました。
「バルチ、おしかったなっ」
「ん~、バルチ、全然惜しくなかったよ。だって、あの水の玉の動きが全然読めなかったんだもん。それが分からないなんて、じーじもまだまだだねぇ」
「そっか、じーじはまだまだかっ」
うんうんと、腕組みしながら頷いているバルチ様の頭を撫でながら、学園長は楽しそうに笑っていました。
「3人とも時間取っちゃって悪かったな。俺とバルチはここで失礼するよ」
そう言うと、学園長はバルチ様を左手で抱き上げると2人仲良く室内訓練場を出て行きました。
バルチ様はあの重たそうなハンマーを2本も腰に差しているのに、学園長は軽々と抱きかかえていました。流石は使徒様と言ったところでしょうか。
読んで頂き、ありがとうございました。




