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新世界での学校経営  作者: MuiMui
第一章 異世界転移編
8/123

003_ギルド会館での一幕

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

 出崎八十雄はラ・ワールドに転移(生まれ変わりではなく、同じ姿形で出現することを転移と言うらしい)した。


 目がくらむ様な閃光が起きたかと思うと、地球で死亡当時に身につけていた土方装備に足袋という姿で、どこだか分からない街中に八十雄は立っていた。


 近くに噴水が見えることから、町の憩いの場所のようだ。


 周囲は石畳で思っていたより清潔だった。近くには出店が並び、多くの人たちの姿も見えた。立ち並ぶ建物は石造りで、箱のような形だなぁと、何となく思ったりする。


 そうしてキョロキョロと周囲の様子を観察していたら、自然と周りの視線が集まっていることに気が付いた。


(まあ、そりゃそうだわな)


 素朴なシャツとパンツやワンピース等に身を包み、金髪や茶髪の西洋人風な人達の目に、ニッカズボン姿の自分はどのように映っているのか。


 想像しただけで、ちょっと笑ってしまった。


(そう言えば、鈴木さんが言ってたこと大丈夫かな……)


 じっと見つめる視線に、一々頭を下げながら八十雄はそんなことを考えていた。




「八十雄さんのご希望は承りました。出来る限り、ご要望にお応え致しましょう。

 今から説明させて頂きますが、宜しいですか?」


 頷く八十雄を確認すると、鈴木は話し始めた。


「選ばれた【世界】、ラ・ワールドは魔法が使われている世界です。

 しかし、地球で生まれ育った八十雄さんは、体内に魔法を司る器官が無いため、今のままでは魔法は使えませんが、かまいませんか?」

 

「ああ、魔法とか言われてもピンと来ないし、使えなくてもかまわないぜ」

「了解しました。それでは確認します」


 鈴木が挙げた条件は以下の通りだった。


・姿形は地球で亡くなった時と同じである(38歳の男)。

・魔法は使えない。

・特別なギフトや特殊能力、特殊な才能などは望まない。

・使徒としての役割を請け負う。

・前世や現在の事について、記憶を保持したまま。


 更に、


・まったく言葉が通じないのも困ると思うので、【言語能力】をギフトとしてお付与する。【言語能力】は、あらゆる種族の言葉や文字を理解できる能力である。

・一ヶ月程度、生活が困らない位の資金援助をする。

・魔力が使えない今の体のままだと、転移先で死んでしまうので、生きていけるような体に再構成する。


「とまあ、こんなところでよろしいですかな」

「何か、色々世話かけちまってわりぃな。ただ、体を再構築するとか何とかって、どういうことだい?」


「ラ・ワールドの大気中には魔力が含まれています。これが、魔力が希薄な日本で育った出崎さんにとっては毒と同じ効果があるのです。

 ですので、魔力を吸っても影響が無いようにしなければいけないのです。見た目も変化はありませんし、痛みもありませんよ」


「そうかい、手間かけちまうな」

「いえいえ、この程度、大したことではありません。それではアルヴェさん、よろしいですね」


「ひゃいっ!」


 あいも変わらず直立不動のアルヴェであった。


「では、今から送ります」

「ああ、たのんます」


 白一面の世界が輝きだす。


 目を開けてられないほどにその光が強くなった頃、鈴木の声が頭に響いた。


「ラ・ワールドに生まれた者は、【世界】からギフトを受け取ることがあります。

 これについては【管理者】たるアルヴェさんのランクの問題で我々と言えども干渉することが出来ません。

 おそらく、八十雄さんはギフトを賜るでしょう。大事にして下さい」


 上とか下とか、そういった感覚が希薄になる中、八十雄は光の渦に飲み込まれていった。




 ――舞台は冒頭に戻る。


 ペコペコと頭を下げながらも、八十雄は周囲の状況を注意深く観察していた。


 服装や身に着けている武器や防具、こちらに向ける視線に含まれる感情。敵意や害意といった【負の感情】を慎重に探って行く。


 侮られるのは良い。舐められるのも良い。


 だが、敵意はまずい。


(大丈夫っぽいかな…… 言葉も分かるみたいだし)


 視線に含まれる感情はどちらかと言うと興味が強く含まれていた。聞こえてくるささやき声も、珍しいものを見たと語り合う内容がほとんどだ。


「さーて、どうすっかな~……」


 ニッカズボンに手を突っ込むと、まるっこい異物を発見した。ポケットの中から取り出すと、それは、一枚の古びたコインだった。

「あー、鈴木さんが言ってた生活費かな、これ」


 再びポケットにコインを戻し、これからのことを考える。生活の基盤を整えないといけないが、衣食住のすべてに不安があった。


「あー、やべーなー。もちっと生活能力溢れていると思ってたけど自惚れだったな。でも、何とかなるか」


 最悪、野宿でも何でもすりゃあ良いかと、生来の楽観的性格で深く考えるのをやめた。


 その後、フラフラと歩いていた八十雄は、導かれるように【ギルド会館】へと入っていく。




【ギルド会館】


 ラ・ワールドに存在する、様々なギルドが一堂に会する場所である。


 仮に、ある金持ちが自宅を購入するとしよう。


 中古の邸宅を求めるならば不動産ギルド、新築するなら建築ギルドに行かなくてはならない。使用人が必要ならば人材派遣ギルドに、家具を求めるならば商業ギルド、もしくは木工ギルドで求めることになるだろう。


 快適な生活を求めるならば魔道具を求め魔道具ギルドに行く必要もあるだろうし、元の住居から荷物を運ぶのであれば、輸送ギルドは欠かせない。


 これだけの用件をこなそうと思ったら、かなりの日数が必要だ。何とか短時間で、移動も少なく、もっと手軽に出来ないものかと、多くの者が考えていた。


【ギルド会館】は、それらの要望を解決する組織として生まれた。


 会館を名乗っているが、実際は様々なギルドの扶助組織である。


 ギルド会館はあらゆるギルドの出先機関を受け入れ、訪れる依頼者の希望を確認し、最適なギルドを紹介し、紹介したギルドから紹介料や出先機関の場所代を受け取ることによって成り立っていた。


 またギルド会館は、各ギルドに所属する個人、もしくは団体の過去の実績からS、A、B、C、D、Eの6段階のギルドランクを決定し、昇格または降格も管理している。


 第三者であるギルド会館がギルドランクを管理することにより、ギルド会員の能力に対する信頼度は担保された。


 各ギルドの会員も公平に能力を査定されることにより、実力に見合った収入が得られるようになった。


 またギルド会館には【判定士】と呼ばれる特殊なギフトを持つ職員が常駐している。【判定士】が持つギフト【判定】は、あらゆる事柄の真偽を見抜くと言われている。


 それに近い施設として、光と平等の守護者、女神アルヴェの神殿には、真実のみしか語ることが出来ない【真実の間】があったりするが、一般人ではおいそれと立ち入る事は出来ない。




 そんなギルド会館に八十雄はヒョコヒョコと入って行くのであった。


(すげぇ人手だな。……それにしても、ここは何の建物なんだ)


 目的も無く、うろつき回っている内に、受付嬢に目をつけられたようだ。


「ずいぶん変わった格好のお客様、ギルド会館に何か御用でしょうか」


 近くにいたすべての視線が八十雄に集まった。周囲の人達も、八十雄の姿には違和感を覚えていたようだ。


「おっ、もしかして俺のこと」

「はい、貴方のことです」


 八十雄を呼んだ受付嬢はにこやかに微笑んだ。灰色に近い髪を後ろでまとめた美人さんだ。


『おぉ、すげぇ美人だ……。 何か騙されんじゃないだろうな』

「あら、美人だなんて。ありがとうございます」

「おおぅっ!」


 ほんの小さな囁きで、他人に聞かれることなど無いはずだったのに、この受付嬢にはっきりと聞かれていた。何気に、ちょっと恥ずかしい。


 それも、この『世界』独自の仕組みゆえだった。


「フフッ、驚かせてすみません。私は『聴覚強化』のギフト持ちなんです。受付嬢として、とっても役立っているんですよ」

「ほー、ギフトですか。凄いですねぇ」


「ありがとうございます。それで今回は、ギルド会館にどのような御用でしょうか」

「いやー、実はこの【世界】に来たばかりで何をしたら良いのか全然わかんないだよね。とりあえず仕事と住む所を探しているんだけど、ここで探せるかなーと」

「えっ……」


「右も左も分からなくてさ、困ってたんだよ。気がついたらここにいたもんで、町の名前も何もかも知らないんだよね。常識みたいのもないからさ、もし、何か失礼があったら教えてくれよな」

「ちょっ、ちょっと待ってください! 今、他の【世界】から来たばかりと聞こえましたが?」


「ああ、元々は日本って国にいたんだけど、事故で死んじゃって。その後も色々あったんだけど、鈴木ってじいさんと、アルヴェってじょうちゃんに会って、【使徒】って奴になったんだけど……」

「あぁ~~っ、もう良いですっ!!! ごめんなさい、私が悪かったから勘弁してぇっ」


 受付嬢は突然大声を上げると、八十雄の言葉を打ち切った。


 そのまま受付ブースを飛び出し、八十雄の手を取り、グイグイと建物の奥に引っ張り込む。注目を集める中を、ペコペコと頭を下げながら引きずられる八十雄であった。




 立派な応接間に通され、焼き菓子とドクダミ茶のような物を出された後はたった1人で放置されてしまった。


 何か言っちゃいけない事でも言ってしまったのだろうか。まあでも、すぐ殺されるような事だけは無いような気がする。何故か分からないが、確信に近い自信があった。


「……あめぇ」


 出されたドクダミ茶モドキとクッキーが異様に甘いことを除けば、特に不満があるわけでもなく、フカフカのソファーに身を沈め、うつらうつらと舟をこぎ始める八十雄であった。





2015 1/3 行間を統一するため、修正を実施


2015 1/23 下記の通り修正を実施

  どのように写っているのか → どのように映っているのか

  お答えさせて頂きましょう → お応え致しましょう

  とまあ、こんな所で → とまあ、こんなところで

  慎重に探って行く → 慎重に探っていく

  すげぇ人でだな。 → すげぇ人手だな。

  違和感を感じていたようだ → 違和感を覚えていたようだ

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