060_ドワーフ ③
一話書き終わったので登録してみました。
中央軍から選別されたホール山討伐軍は、総勢12000人にも及んだ。
それは王国の威信を示すためと、ホール山で奴隷の様に働くドワーフたちの心を完全に折るために、ここまで大規模な軍編成となったのだ。
王国だけでなくこの事件を知るほとんどの者は、たった1人で抵抗するドワーフの末路を想像した。見せしめのように残虐な方法で処刑されるであろうことを。
12000もの軍勢が進む先に、情報どおり1人のドワーフが立ちふさがっていた。恐れるでもなく、怯えるでもなく、立ち竦むでもなく、不恰好な鉄の塊のような戦斧を手に、泰然とした様子でただ1人立っていた。
討伐軍の指揮官たちは名家の子息で固められており、今回も中央に対するポイント稼ぎの1つとしか考えていなかった。本当の指揮官たちは公国軍との最前線で備えており、討伐軍には従軍していなかったのだ。
そんな討伐軍から1人の若者が進み出てきた。彼は今回の総指揮官である伯爵家の継嗣で、ここまで大規模な軍を率いるのは初めての経験だった。
この時代、戦闘が始まる前には両軍から代表者が名乗りをあげてから行うのが作法とされており、これに則ったのだ。
馬に乗ったまま若き指揮官は進み出ると、抜いた剣で天を指し示した。
「我は、名誉あるランゴバ「儂は、ここで全てを取り戻すっ!!!」」
先に口を開いた青年貴族どころか、討伐軍12000をも圧倒する雷声が辺りに響き渡った。
「ここは誰一人通さんっ! 腑抜けた同族も、傲慢な人間族も、それでも力で押し通ろうとするなら命を懸けて掛かってこんかいっ!!!!」
戦斧で地面を叩くと、比喩ではなく地面が大きく揺れ、馬は嘶き落馬するものが続出した。
「ここは戦場だ。勇なき者、戦士でない者は今すぐ立ち去れ。儂は手加減できるほど器用じゃないぞっ!」
そうして、後世にまで語り継がれる【ホール山の戦い】が始まったのだ。
バルチを肩車した状態で、ご機嫌にくるくる回っている八十雄だが、
「じーじ、この後どうするの?」
このバルチの質問で正気に戻ると、そっとバルチを地面に降ろした。その頃にはあれほどプリプリしていたバルチが、平常運転に戻っていた。
「そうだなー、どうせ片道だけで丸1日掛かっちゃうし、戻ってもなあ。それなら、やりたいこともあるしな」
「何するの?」
クリクリした目で覗き込んでくるバルチに笑いかけながら、八十雄はザックから自分の商売道具を取り出した。
「さっきのブラフマさんが鍛冶屋なら、じーじは大工さんだろ? だったら、やる事は決まってるじゃないか」
愛用のトンカチをクルクル回しながら、不適に笑う八十雄であった。
「おー、ブラフマさんにちゃんと会えたよ。ありがとうな」
麓のドワーフの集落まで戻った八十雄たちは、自分たちを警戒しているドワーフに大きな声でお礼を言い続けていた。まさか感謝の言葉をもらえると思っていなかったのか、ドワーフたちは言葉につまっている。
「そいでよ、武器ができるまで4日掛かるらしいから、しばらくこの辺りで野宿させてもらうんでよろしく頼むわ」
「おい、何を勝手にっ」
「おいおい、豪放磊落で知られるドワーフ族がけち臭いこと言いなさんな。な、良いだろ?」
「むぐっ」
近寄ってきた男のドワーフの肩をバシバシ叩きながら八十雄は笑っている。
「もちろん、タダとは言わないからさ。八十雄さんに任せとけってんだ」
集落の空き地にテントを張った八十雄は、両手をポケットに突っ込みながらプラプラと集落の中を歩いている。建物の数は100軒程度。その中には空き家や作業場も含まれているようだ。
その後を監視しているつもりなのか、数名のドワーフ族がついている。
バルチは八十雄のズボンを片手で掴みながら、落ち着きが無くキョロキョロと視線をさ迷わせていた。相変わらず、人見知りな性格は、なかなか直りそうもない。
(なるほど、なるほど。そう言う事ね)
男性のドワーフと違い、小柄で可愛らしい女性や子供のドワーフたちはシャイな性格なのか、建物の中から八十雄たちを眺めるだけで、八十雄が手を振ると慌てるように引っ込んでしまう。
一通り見て回った八十雄は空き家と思しき一軒に近寄って行く。この家は扉が歪み、風が吹くたびにギシギシと音を立てていた。
鍛冶の一族だけあって金属製品の品質は高く物も良いが、それに比べて木材を使用している部分の落差がひどい。そこまで生活に余裕が無かったのか、更にひどい生活をしていたのかは分からないが、八十雄はドワーフたちにとって大きなアドバンテージがあった。
それは、現代日本の知識とラントスで培ってきた経験だ。
「おい、何をするつもりだっ」
「良いから、良いから」
ドワーフたちの制止を振り切っていきなりドアを取り外すと、水平器と差し金、それにメジャーを取り出しドアと玄関の寸法を測っていく。最初はギャーギャー喚いていたドワーフたちであったが、八十雄が作業に入ると急に静かになった。見慣れぬ道具であったが、彼らも八十雄が遊びや冗談でやっていないことに気がついたのだ。
「おい、これより3ミリ大きい蝶番」
「おっ?」
道具袋からカンナを取り出し、木槌で調整をしながら近くにいたドワーフに元々扉についていた蝶番を突き出した。
「だから、これより3ミリ大きい蝶番だよ。何だ無いのか?」
「何をっ! 直ぐ持ってきてやるわいっ」
八十雄からふんだくるように蝶番を奪い取ると、ドシドシと足音を響かせながら立ち去っていく。それを背景音に八十雄は歪んだ扉にカンナをかけていった。
その様子をドワーフたちは固唾を呑んで見守っている。
「よし、完成だ」
修理が終わった扉に新しい蝶番を着け、空き家に設置した。扉の接触面には蝋も塗ってある。
「バルチ、ドアを開けたり閉めたしてごらん」
「は~い」
視線が集まる中バルチが扉を空けたり閉めたりしても、異音はまったく起こらない。周囲からは『ほぅ』と感心したような声が上がる中、八十雄は周囲に広げていた商売道具を片付け始めた。
「良し、問題なさそうだな。じゃ、次の家に取り掛かるぞ」
道具袋を背負った八十雄は直ぐ隣りの家に向かった。ここは先ほどの家とは違い、ドワーフが現在も住んでいる家だ。
「おい、ちょっと待て。そこは俺の家だ。勝手にやられても困る」
いつの間にか八十雄の周りに集まっていたドワーフの中から1人の男が飛び出してきた。この男も立派な髭を生やしている。
「そんなことをやられても、支払う金なんか無いぞっ」
「うるせぇ、俺が勝手にやってることだ。金なんかいらねぇよ。それにここは【俺の家】じゃないだろう? 【俺たちの家】だろうが」
八十雄は地面に布を敷くと、その上に道具袋から先ほど使った道具類を次々に並べていく。
「じゃあ、何でお前はこんなことをしているのだ」
「俺は大工だ。こんなことしかできねぇからやってんだ。ただ4日間、何もしないで時間を潰せるほど俺は暢気じゃないんだよ」
どっせいと、玄関から扉を外し、何事か慌てて家の奥から見に来た女性と子供のドワーフに、八十雄はニコッと笑いかけた。
「それによ、こんなに風が強い山の中で隙間風が入り込む家じゃガキがかわいそうじゃねぇか。奥さんだって砂埃で毎日掃除が大変だろうに。これだから男は大雑把って言われんだ」
黙りこむドワーフたちに囲まれながらも、八十雄の手は止まらない。バルチはそんな八十雄の姿を見ながら、自分ができる範囲で手伝うのであった。
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