059_ドワーフ ②
お久しぶりです。
再び、よろしくお願いします。
3/14、15 誤字を修正しました。
良質な鉱石が取れるホール山にドワーフたちは集められ、命と誇りを代償に鋼材を生産していく。
ばたばたと倒れる仲間たちと同数のドワーフたちが次々と投入され、命が湯水のように消費されていく。
だが、ドワーフたちは抗う勇気を失っていた。すでに、彼らの心は絶望という名の底なし沼に頭の先までどっぷりと浸かっていたからだ。
ブラフマがホール山に現れたのはその頃だ。
ただ1人、ブラフマは山と麓の町をつなぐ街道に立ちふさがった。黒い、無骨な戦斧を友に。
彼はホール山から運び出される鋼材も、また、麓からホール山に運ばれる新たなドワーフも、そのすべてを遮断した。
何度か王国軍と小競り合いが続いたが、山間の間道とその地形効果で100人単位の兵士ではそのドワーフには歯が立たない。
業を煮やした王国軍は、ラントス方面を担当する中央方面軍の討伐命令を出す。
命を受けた中央軍は、ホール山に住むドワーフたちの見せしめの意味も含め万単位の討伐軍を編成した。
たった1人のドワーフを倒すために。
国の威信を示すために。
「フンッ。ここに、人間が何のようだ」
豊かな髭を撫でながらブラフマは八十雄の正面に立った。その脇で最大限に警戒しているバルチの事は目に入っていないようで目もくれない。
「ゴグレグさんに2年たったら武器を見てもらえて言われてきたんだけど、誰に会いに来ればさっぱりわかんなくったな、下のドワーフたちに教えてもらってここまで来たってところだ」
「……親父に武器を鍛えられたのか。どれ見せてみろ」
そう言いながらブラフマは八十雄に手のひらを差し出した。
「……いや、俺じゃなくて、こっちこっち」
未だに警戒態勢を解かないバルチをそっと抱き寄せながら、緊張して硬くなっている体を撫でた。
「この獣人の方か。どれ、少し見せてみろ」
バルチの方向に向き直ると、右手を上にして差し出した。火傷やタコでカチカチになった職人の手だ。
「……」
バルチは無言でブラフマの手と八十雄の顔を何度も見直していたが、自分の両腰についていたハンマーをブラフマの手のひらの上にそっと置いた。
「フン、なるほどな……」
受け取ったハンマーを、そのごつい手とは裏腹に繊細な手つきで確認していく。重さやバランスなどはもとより、細かい傷やグリップの磨耗なども詳細に見分していった。
「このハンマーは元々は他の人が作った物だな。それに親父が手を入れた、か。なるほど、これは良い武器だな」
バルチにハンマーを返しながら、ブラフマは戦斧を構えた。
「最後に、お前さんがどのように武器を使うのか見せてもらおうか。儂から攻撃はしないから、全力でかかって来い」
「……じーじ?」
バルチは不安そうに八十雄を見上げている。
「大丈夫だよ、バルチ。全力でやってきな。おそらく、あのドワーフさんは物凄く強いからバルチが全力でぶつかっても大丈夫だよ」
八十雄の言葉を聞いて、コクリと1つ頷いたバルチは足を開いて腰を沈めると体に力を込める。両手にハンマーを握り締め、体から仄かに光が昇りだすと、弾丸のように飛び出していく。
地を這うように飛びだしたバルチは、ブラフマの目の前で左足を着き角度を急に変え襲い掛かった。加護のおかげで能力を底上げされたバルチの身体能力はかなり強化されており、地面についた左足が爆発したように土煙を巻き上げた。
「はっ!」
両手で2本のハンマーをブラフマの左側面から叩きつけるバルチ。ブラフマはまだ正面を向いたままで武器すら構えていない。
「ハンッ、まだちっさいくせに小手先の技ばかり覚えおって……」
八十雄の目には霞むようにしか見えないバルチの攻撃が、ブラフマが何気なく上げた左前腕に叩き込まれる。
「っ!」
何ともいえない衝突音の後、弾き飛ばされたのは攻撃したはずのバルチだった。
「おう、小娘。もう一度だけ言うぞ。正面から全力で来い。怖がらなくても、儂から攻撃はせん」
「んーっ! 小娘じゃないよっ、バルチだよっ」
口では文句を言っているバルチの目の色が変わってきた。先ほどより前傾姿勢になり、顔が地面に着きそうなほど沈み込んでいる。
「じーじ、バルチ、本気の本気で行くよ。今まで一度も出したことがないくらい、全力だよっ」
バルチの体から陽炎のように光のオーラが立ち上がる。バルチの周囲の空気が震えだし、バルチの体を中心に放射線状に風が吹き荒れた。
「おう。頑張れよ、バルチ」
八十雄の返事を聞いているのか、聞いていないのか、地面を削りながらバルチはブラフマまで一気に迫ると、5メートルほどの距離を一息に飛び掛りながら全力で両手のハンマーを叩き付けた。今度こそ戦斧の平で攻撃を受け止めたブラフマに、バルチは宙に浮いた体制のまま、嵐のように攻撃を繰り出していく。
時には斧で受け流し、時には手の甲で弾き飛ばし、またある時に体を打たせるに任せながらブラフマはバルチの攻撃を受け続けた。背丈を越える岩すら砕くバルチの攻撃を両手では足りぬほど受けながらも、このドワーフは一向に堪える様子を見せない。
バルチはその後も飛び掛るようにしながら何度も攻撃を繰り返していく。宣言通り、ブラフマは自分からは一切攻撃を行わず受けに徹していた。
八十雄は胡坐をかいて地面に座り、2人の戦いをじっくりと眺めている。残念ながら戦いの才能を持ち合わせていない八十雄にはバルチの動きがすべて見えているわけではなかったが、対称的にゆったりとしたブラフマの動きは良く見えた。
正直、なぜ目にも留まらぬバルチの攻撃が、あれだけゆったりとしたブラフマに完全とはいかないまでも受け止められるのか理解できないが、それが事実であれば仕方がない。
それともう1つ分かったことがある。
「フンッ、小娘。お前の力は大体わかった。そろそろこっちも本気を出すぞ」
あのドワーフは元S級冒険者のノサモより遥かに強い。10倍とか100倍とか、そうした次元とはかけ離れた強さを秘めている。
警戒したバルチはブラフマから離れた場所で武器を構えたが、その肩は上下にゆれ、疲れ知らずのバルチも息を乱していた。
「小娘じゃないって言ったでしょっ! バルチはバルチだよっ!」
不屈の闘志を目に宿しバルチは再び踊りかかる。ここで初めて、ブラフマは両手で戦斧を構えた。
竜巻のようなバルチの攻撃を、今度のブラフマはすべて戦斧で受け止めていく。明らかに片手用のハンマーを2本使っているバルチに比べてブラフマの戦斧の方が重く扱いにくいはずなのに、そんな様子は微塵も見せない。
初めて焦りの表情を浮かべるバルチに反して、更に速度を増していくブラフマ。ついにバルチが攻撃しようと体を僅かに動かした瞬間には、体の軸を抑えられてしまい、次第に攻撃行動自体がとれなくなっていく。
「ううう~っ」
焦れて距離をとろうと後退しても、それと同じだけの距離を詰められてしまい、バルチ最大の武器である【敏捷性】ですら、鈍重なイメージがあるドワーフに抑えられてしまった。
「ハンッ、まあ頑張った方だな。だが、儂に勝つのは100年早い。もっと修行してこんかい」
「むむ~っ」
久しぶりに頬っぺたをパンパンに膨らませたバルチは不満げだ。2人の勝負がついたところで八十雄は『どっこらしょ』と立ち上がると、尻についた埃を払いながら、近づいた。
「そいでバルチのハンマーだけど、どれ位時間がかかりそうだい?」
「……4日だな。材料は小屋にあるからこれから作業に入ってもそれだけはかかる。4日後の夕刻、ここまで取りに来い」
八十雄は風船のように膨らんでいるバルチの頬を突きながら、彼女からハンマーを受け取るとブラフマに手渡した。
ブラフマは受け取ったハンマーを腰のポーチから取り出したぼろ布で丁寧に包むと、そっと懐にしまいこんだ。
「代金はいくらだい? もし手持ちが足りないなら取りに戻ってくるけど」
「ハンッ、親父の知り合いから金を受け取るほど落ちぶれちゃいない。4日後、忘れず取りに来いよ」
財布を取り出した八十雄に背を向け、話が終わったとばかりに小屋に戻ろうとするブラフマ。
「おっと、そう言えばまだ名前を聞いていなかったな。俺は出崎八十雄。麓のラントスで学校を作ろうとしている者だ。こっちの可愛いのが娘で猫人族の戦士バルチ。よろしくな」
「……」
未だ膨れたままのバルチの頭を優しく撫でながら、八十雄は足を留め振り向いたブラフマに笑いかける。
「……儂はブラフマ。ドワーフ族で2番目の鍛冶師だ」
そう言い残し、ドワーフは小屋の中に戻って行った。
「バルチ、この世界は広いなー。ブラフマさんやドットみたいに凄い奴がまだウジャウジャいるかもしれねぇ。本当に面白い」
久しぶりにバルチを肩車しながら八十雄は大声で笑った。
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